序文とあとがきの人のブログ

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いくらでも抽象的な概念が存在する

概念という概念は抽象的である

「「概念という概念」という概念」は抽象的である

「「「概念という概念」という概念」という概念」は抽象的である

「「「「概念という概念」という概念」という概念」という概念」は抽象的である

以下数学的帰納法により無限に抽象的な概念を構成することができる

齋藤正彦著「線型代数入門」のレビューと解説と体験談

昔から度々参考にされている. その理由は少しずつ話していきたい.

 

この本では太文字を集合や線型空間に使い, 行列や写像は普通の文字で書いているところが個性的である.

 

「明らか」でないとか, 説明が短くて, 分かりにくい所も有る. 紙面に書き込んで考えないと理解できないことも有る. 初学者向けではないかもしれない.

 

しかし, そうすると多い必須事項を1冊にまとめられる. 「本文に無い論理を補う」「本文を助言として他に考える」「著者とは別の発想で理解する」ことで得られる数学的思考力は, 数学を学び研究していく上で必須になる. これらもいずれ楽しくなる. 無理数や不等式の概念が存在不可能なこと, ベン図による集合と論理の循環論法があり, 実は多く有る集合の例を集合と明記しないこと, などの論理的危険性に満ちた教育数学を考えると, 本当の数学への架け橋として候補に入れるのもいい.

 

私はこの本で理論線型代数の基本を納得して, 専門書に慣れた面がある. かつての私のように, 初級者には専門書への入門としてもいいと思う.

 

著者が言う「入門」とは「私からすると内容は多すぎず線型代数の入門程度である」という意味であろう. 確かに佐武「線型代数学」や足助太郎氏の本よりは内容は平易で少なくて, 必要最低限は書かれてあり, その意味で比較的読みやすいと感じた. いくつかは飛ばしてもよい旨が前書きにある.

 

著者は, 当時は時代の流れで少なかった線型代数の本について, 前書きで「線型代数の入門書は, 数学的な考え方に慣れさせ, 代数学の構造の理解を深めさせると同時に, 線型代数に固有の技術を身につけさせるものでなければならない」と宣言して, この本を書いたようだ. 確かに行列を発見的に定義して, 予備知識としては初学から読めるが, 薄い本に多くが詰め込まれているから, 今の時代にとっては「予備経験」を積ませて上級者になるために向けていることを前提としている.

 

しかし当時は線型代数の入門書は「これしかなかった」のだ. 高木「解析概論」や伊藤「ルベーグ積分入門」も同じ背景がある. しかも, 2次正方行列の四則演算と連立1次方程式および行列の表す線型変換が, 高校数学で学ぶとは限らないこと(複素平面と交代していること)にも配慮している. (私も高校生時代に古い何冊かの参考書で確かめた. )

 

それで昔から語り継がれてきた. 幾多の人々が本書で学んで思い出が生まれ, 自然に高い評価が付いているのだろう.

 

第1章で2次元や3次元の高校数学程度の幾何ベクトルと行列を図説している. 受験数学のベクトルではなく幾何学のベクトルであり, 例や問は解法理論の問題ではなく, 数学で意味を持つ難しくないものである.

 

2次元や3次元の幾何ベクトルの正射影は, 正規直交化や正規変換のスペクトル分解の意味を理解するために欠かせない. これら全てが同時に有る本は他にないだろう. 実は無限次元計量線型空間の直和分解の意味と証明の理解にもつながる. 特に3次元の幾何ベクトルの正射影は, 他の本で見たことはない.

 

2次や3次のベクトルと行列と行列式を幾何的な意味と面積や体積(すなわち測度)の意味で理解するのは, n次元の場合と, 線型独立性の幾何的または測度的な理解, 積分ヤコビアンによる変数変換の測度的理解に必須である. 変数変換の公式の証明は精確な証明が簡単ではないのだが, 2変数と3変数の場合は本書の意味を込めて考えると納得がいく. しかも, 行列式を他の本よりも最低限だけに絞り短くまとめている. 煩わしい概念の説明が煩わしく感じなかった.

 

この本も参考にした私の2009年5月からの研究成果では, 全ての(この本なら行列式の章の章末問題にある)巡回行列は行の入れ替えで対称行列に変形できる.

 

☆ (昔は線状空間とも呼ばれた)線型空間の例が「これ以上は無いのではないか」と思うほど多く挙げられている. 他には確率空間における確率変数の成す集合があり, 期待値を対応させる写像線型写像である. 漸化式や微分方程式, 解法の背景を述べているのは味わいがある.

 

線型写像T:V→V'の像

T(V){ y | yV' , 或るxVに対してyTx}

{ Tx | xV}

V'線型空間であること:

任意のy_1, y_2T(V)に対して, 或るx_1, x_2Vが存在して, y_1Tx_1, y_2Tx_2, よってa, bKに対して

ay_1by_2T(ax_1bx_2)T(V).

T^(1)(o'){ x | xV, Txo' }

V線型空間であること:

x_1, x_2T^(1)(o')ならば

T(ax_1bx_2)

aTx_1bTx_2

ao'bo'

o'

ゆえにax_1bx_2T^(1)(o')だからである.

 

なお, (k1)項間定数係数線型漸化式 x_(nk)(a_(k1))(x_(nk1))(a_1)(x_(n1))(a_0)(x_n)0 (a_0≠0, n0, 1, 2, 3, …) により, 一般項 x_n が定められる数列 {x_n} の成す線型空間S, 与えられたxの関数y i 微分して(0ik1)できるy導関数 y^(i) (y^(0)y), xの関数( a_0 は恒等的に0ではないとする) a_i y^(i)をかけて足してできる新しい関数 y^(k)(a_(k1))(x)y^(k1)(a_1)(x)y'(a_0)(x)y を対応させる線型写像 D による, 微分方程式 Dy0 の解の成す線型空間Fの次元が, 共にkであること, Sについては項を先へ1項ずらす線型変換 T:{x_n} → {x_(n1)} , Fについては定数係数とした場合の線型変換 D':y→y' (実は両者は同じ)表現行列の求め方を, 本文より分かりやすく考えることができた. 理論的に重要なので後に紹介しておく.

 

そして142頁の「(n次元)ユニタリ空間Vの正規変換Tの相異なる固有値に対する固有ベクトルは互いに直交する. β_1, β_2, … , β_kTの相異なる固有値として, W_1, W_2, … , W_kを対応する固有空間とすれば, それらは互いに直交して, VW_1, W_2, … , W_kの直和である」という定理の証明がヒント程度だが, 証明したので下に書いておいた.

 

線型空間の基底を「その線型空間を張る順序づけられたベクトルの集合」と明確かつ正当に定義している. これは後に述べる上記定理の証明や関数解析に整合性がある(無限個なら線型結合の極限だから).

 

有限次元と仮定して, 線型空間の次元が1通りに定まることの連立1次方程式を使わない証明もあり, 連立1次方程式が無くても線型空間論を展開できるようにしている. 「座標系によらない理論を作る」ためである. 多様体論と同じく数学の理論の座標系からの独立は, 数理物理学でも重要である. この命題は他の本に無い.

 

しかし, 連立1次方程式による証明では, 第1段と第2段のmnは別物であり, 第1段の結論を対偶にしてから同じmnで再論しなければならない. n個より多くm(n)個のベクトルが線型従属だからm(n)個のベクトルは線型独立である, と結論できるから, mnを入れ替えて第1段と同じ論法によりm個より多くn(m)個のベクトルも線型従属, ゆえにn(m)個のベクトルは線型独立である. これらからmnが従う」ことを示すのと「mnにおいて『mn』ではなくmnである」ことを示すのは同じことである. こうすれば第1段と同じ意味の記号で表記されたmnで証明したことになる. 他書はこの論法のようである.

 

線型写像の表現行列や, 基底の変換, 基底の変換による線形写像の表現行列の変化の説明に, 写像の図式を用いていて視覚的にも分かり易い. 言葉だけだと伝わりにくい内容を視覚化しているのはこの部分だけではないが, 写像の図式を載せている線型代数の入門書の中で和書としては, この本が最初である. この意味でも名著と呼ばれている.

 

本文にはないが, 確率行列と, 特定の形の線型写像でベクトル(特に関数)に数値を対応させる線型写像の成す線型空間である双対空間と, 或る意味でひとつの部分空間と同値な部分空間の成す線型空間である商空間を, 短くまとめている. 双対空間と商空間は実解析と関数解析において重要で, 実解析では, 斉次ベゾフ空間と斉次トリーベル-ゾルキン空間の定義のために両方が同時に表れる(澤野べゾフ空間論」, 小川「非線型発展方程式の実解析的方法」参照). 微分幾何においても線型空間テンソル積が重要で, その構成に双対空間または商空間の概念が用いられる. また線型空間テンソル積は代数学において加群テンソル積の理解の補助になる(藤岡「手を動かしてまなぶ 続・線形代数, 村上「多様体 2版」, 小林「接続の微分幾何ゲージ理論」参照).

 

この本で正規変換のスペクトル分解と正則線型変換の極分解まで読めば, 量子力学の基礎であり数理経済学にも応用があって, 偏微分方程式論で不可欠な関数解析線型代数が由来の部分は理解しやすい. この本で谷島「ルベーグ積分関数解析」の旧版と新版における内容の誤りや有限次元の場合との類似に気づくことができた.

 

かつて, 双対空間と商空間とスペクトル分解の全てについて書かれた絶版でない本は, 私が読んだ範囲では, この本と佐武「線型代数学」と足助「線型代数学」しかなかった. 今では, 手を動かしてまなぶ 続・線形代数」もあるが, これらの中では難易度としても分量としても最も読みやすい.

 

関数解析のスペクトル分解は, 無限和であっても同様な式で表わされるが, ルベーグ-スティルチェス積分でも表される. 数え上げ測度によるルベーグ積分(=和)の場合を例として知っておけば理解しやすい. スペクトル分解は量子力学にも応用がある. スペクトル分解は正規直交化と同じ図で説明できる. 自己共役でコンパクトな線型変換は無限和により, 一般にはスペクトル測度による積分により, 分解される. 計量線型空間Vの線型変換T固有値 λ_i 固有ベクトル u_i から成る正規直交基底〈u_1, … ,u_n〉で展開TxΣ_i λ_i(x, u_i)u_i したときに, 自然に射影子 P_iVx→(P_i)x(u, u_i)u_iW_i が含まれている. ゆえに線型変換Tのスペクトル分解 TΣ_i λ_i P_i . これは, TxΣ_i c_i u_i とすると λ_i xΣ_i c_i u_i でありj≠iならば(u_j, u_i)0 だから各iに対してu_iを右から内積させて λ_i(x, u_i)c_i となることによる.

 

ちなみにかつての大学入試や数検準1級では行列の対角化やスペクトル分解を材料にした問題が何度か出題されていた.

 

ジョルダン標準形の単因子による説明は, 著者自身が分かりにくさを認めていているが, 多項式の整除性は代数学やそれを用いる多変数複素解析で大切だから, 数学徒には悪くない. しかしジョルダン標準形の部分だけ, 別の本や資料で学ぶのもいいと思う. 計算方法だけなら簡単である. 代数学については, 例えば, 堀田「代数入門 群と加群, 多変数複素解析については, 例えば, 倉田「多変数複素関数論を学ぶ」参照.

 

ベクトルおよび行列の解析的取扱いは, 微分幾何, 微分方程式, 位相空間, 関数解析へとつながる.

 

付録に有る, ユークリッド幾何の公理系, 実数体Rと複素数体 の構成は参考になる. ここまで書いてある本は他にない. ここだけでも読む価値は高い. Rの構成を読む補助は後に紹介しておきたい. Rの構成や, 本文にもある, 集合Aの同値関係〜によるxAの類[x]={ y | yA, yx}と商集合

A/〜={ [x] | xA}

および写像T:A→BA'Aへの制限T_A':A'x→T(x)T(A)も含めて, 松坂「集合・位相入門」, 庄田「集合・位相に親しむ」, 森田「集合と位相空間」も参考になる. これ()と同時並行で数学に慣れるのも得策だろう.

 

そして, この本や佐武氏の本でもそうだが, 多くの本では, 線型空間の公理系で, 零ベクトルoや逆ベクトルの一意性を仮定することがある. しかし実は公理系だけから両方とも存在すれば一意的であることがすぐに分かる:

 

o, o'が零ベクトルならば

o

oo' (o'は零ベクトルだから)

o'o (交換法則)

o' (oは零ベクトルだから);

 

xに対してx'x''xの逆ベクトルならば

x'

x'o (oは零ベクトルだから)

x'(xx'') (oxx''だから)

(x'x)x'' (結合法則)

ox'' (x'xの逆ベクトルだから)

x''o (交換法則)

x'' .

 

また, 部分空間Sの定義で線型演算の可能性を保証する「oS」または「S空集合でない」が明記されていないときもある. この本では部分空間は空でないと明記している. Sが空でなければxSが存在し, ゆえに, xSだからox(x)S. 逆にoSならばSには元oが存在するからSは空でない.

 

(かつての私のように)もっと初級者向けの本を読みたいと感じたら, 例えば, 岩波「キーポイント 線形代数」「高校数学なっとくの線形代数」が助けになる.

 

著者により, 行列の階数の5つの定義が矛盾なく両立している(行列の階数の5つの定義がwell-difinedである)ことが証明され, それにより基本変形を核にして連立1次方程式の理論と解法を同時に述べているのは, 当時にとっては画期的で, その後の線型代数の本はこの本を手本とされたので, その意味でも名著と呼ばれている.

 

線型代数の本を読む時に便利な方法を紹介したい.

 

線型空間Uの基底(base, basis)BとはUに含まれる線型独立な元の順序を考慮した集合(または組あるいは列)Uの任意の元はBの元(Bの成分あるいはBの各々のベクトル)の線型結合で表わされることをいう.

 

基底B=〈v_1, v_2, …, v_n とBの元を横に並べてできる行列もどき (v_1, v_2, …, v_n) を同じ記号Bで表わし同一視すると,

 

Gの元 g_1, g_2, …, g_k の定数 x_1, x_2, …, x_k による線型結合は内積もどきで

 

x_1 g_1 x_2 g_2 x_k g_k  Gx

 

と考えることができる.

 

行列P(p_ij)による基底の取り換えEFは行列の積もどきと f_jΣ_[i:1→n] p_ij e_i より形式的に

 

F=(f_1 … f_j … f_n)(e_1 … e_i … e_n)(p_ij)

 

すなわちF=EPと表わされ,

 

Eを基底とする線型空間VからFを基底とする線型空間Wへの線形写像Tの表現行列A(a_ij)に対して, TE=(Te_1 Te_2 … Te_n) と定義すると, 行列の積もどきと Te_jΣ_[ i1→m] a_ij f_i から形式的に

 

TE(Te_1 … Te_j … Te_n)(f_1 … f_i … f_m)(a_ij)

 

すなわちTE=FAであり,

 

Tの線型性

 

T(x_1 g_1 x_2 g_2 x_k g_k) x_1 Tg_1 x_2 Tg_2 x_k Tg_k T(Gx) (TG)x

 

と見なすことができる.

 

これを使うと線型代数の本は読みやすく解きやすくなる. (具体例の計算では両辺を転置することがある:縦に並べて i j を入れ換える. )

 

数列空間Sの元{x_n}の第n x_n , 漸化式にn0, 1, 2, 3, …を代入して, x_(nk)について解くと, 最初のkx_0, x_2, … , x_(k1)を定めれば, x_(nk)は適当なk個の数列の線型結合の項であることから分かる.

 

{x_n}(c_0)y_0(c_(k1))y_(k1)と表示するためには, 数列 y_0{1, 0, 0, …}, … , y_i{0, 0, … , 0, 1(i番目), 0, 0, …}, … ,y_(k1){0, 0, … , 0, 1(k1番目), −a_(k−1), …} (k番目以降は漸化式から定まる)y_i (0ik1)とすると最も簡単であり, 例えば

E=〈 y_0, y_1, … ,y_(k−1)

Sの基底となる. ゆえにSの次元はkである.

 

Fの次元もkであることについて. 本文にもあるように, 与えられた実数 b_0, b_1, … ,b_(k1) に対してy^(i)の値を (y^(i))(0)b_i と定めることができる解yが一意的に存在する. そこで関数f_i (i0, 1, …, k−1)(f_i)^(j)(0)δ_ijを満たす解と定める.

 

Dの線型性により定数 c_i を与えたとき Σ_i c_i f_i Dy0の解であり,  Σ_i c_i f_i 0 とすると(f_i)^(j)(0)δ_ijよりc_i0が得られるから, f_i (i0, 1, …, k−1)は線型独立である. yの一意性よりyf_iの線型結合として或るc_iを用いてyΣ_i c_i f_iと表されるから, Fの次元もkである.

 

ちなみに偏微分方程式の解の空間は無限次元空間である.

 

1項先へずらす線型変換T:{x_n} → {x_(n1)}の表現行列A, 上の基底を取ることによる同型対応(114頁参照)S^k:{x_n}→(x_0, x_1, …, x_(k−1))^tを用いると

 

T({x_0, x_1, …, x_(k−1), …})

{x_1, x_2, … , x_(k1), x_k, …}

 

{x_1, x_2, … , x_(k1), (a_(k1))(x_(k1))(a_1)(x_1)(a_0)(x_0), …}

 

{x_1, x_2, … , x_(k1), (a_0)(x_0)(a_1)(x_1)(a_(k1))(x_(k1)), …}

 

←→ (x_1, x_2, … , x_(k1), (a_0)(x_0)(a_1)(x_1)(a_(k1))(x_(k1)))^t

(同型対応による同一視)

A(x_0, x_1, …, x_(k−1))^t

 

から本文のTの表現行列Aが現れる.

 

関数空間Fの場合も(定数係数の場合の)Dy0の解(空間の元)yを用意して {x_n} yに変えて, 同型対応ker(D)y→(y(0), y'(0), …, y^(k−1)(0))^kを考えればよい. するとD':y→y' , 上と同じ表現行列A(対角成分は全て0, 1列目とk列目以外の対角成分0の上の成分は全て1, k行目は((a_0) (a_1) … (a_(k1)))でありこれら以外の成分は全て0の行列)が得られる.

 

これらの同じ表現行列は, 数学の応用分野でコンパニオン行列と呼ばれている.

 

142頁にある上述の定理の証明.

 

V, T固有ベクトルから成る正規直交基底を([1.2]と[2.4]より確かに存在する)E=〈e_1, e_2, … , e_n〉とする. T固有値 β_1, β_2, … , β_k (1≦∃kn)に対応する固有ベクトル, 1ikに対してa(i)個あるとしておく. β_i (1ik)に対応するT固有ベクトル e_i (1a(i))から成るVのベクトルの集合を

 

B=〈e_11 , e_12 , … , e_1a(1) , e_21 , e_22 , … , e_2a(2) , … , e_k1 , e_k2 , … , e_ka(k)

 

=∪_(i1, 2, … ,k) e_i1 , e_i2 , … , e_ia(i)

 

=∪_(i1, 2, … ,k)B(i)

 

とする. B⊆E, かつ, Eの任意の固有ベクトルは或るB(i)に属するゆえE⊆B, だからB=E.

 

EがVの正規直交基底だから, β_i に対応する固有ベクトル e_i1 , e_i2 , … , e_ia(i) から張られる部分空間W_i の基底B(i)⊆B W_i の正規直交基底である. また, i≠jならばB(i)∩B(j)={} であるからV W_i の直和:

 

VΣ_(i1, 2, … ,k)W_i ,

i≠j ⇒ W_i ⊥ W_j

 

となる

 

W_i

 

{ c_i1 e_i1 c_i2 e_i2 c_ia(i) e_ia(i)

 

| c_i1, … , c_ia(i):定数 }.

 

これで証明できた. この定理は正規変換(コンパクトな自己共役作用素)のスペクトル分解の根底である.

 

実数の有理数からの構成では { |a_m a_n| }_(m) がコーシー列(A)であることを, 複素解析以外では必ずしも周知されていない三角不等式

| |a||b| ||ab|

を既知として説明している.

 

これは

|a||(ab)b||ab||b|, |b||(ab)(a)||ab||a| |a||b||ab|, |b||a||ab| 」または「|a||b||ab| においてbに-bを代入して |a||b||ab|, abを入れ変えて |b||a||ba||ab|

による.

 

ついでに, よく知られているほうの三角不等式

|ab||a||b|

と合わせると, 解析学でも便利な三角不等式

| |a||b| ||a±b||a||b|

が得られる.

 

本書を読む時や線型代数を学ぶ時に参考になれば幸いです. 読んでいただきありがとうございました.

(20221219日最終推敲. )

ベゾフ空間と準同型定理について 2016.10.30

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ベゾフ空間と斉次ベゾフ空間に加法群の準同型定理を当てはめることができた。準同型定理により同型と言える。これで斉次ベゾフ空間を定義したら何が起こるんだろう。ベゾフ空間の理論を代数的に観たら何が分かるんだろう。ベゾフ空間は指数を自由自在に調整して適材適所で使える。しかも量子力学だけではなく表現論で常用されているL^2空間に指数を調整すれば等しくなる。表現論に応用してみたい。トリーベル-リゾルキン空間と斉次トリーベル-リゾルキン空間についても同じことを考えられる。昨年の夏からたまに群と環そして表現論を学んでいる。
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無限大は数か

無限大は普通に数学を学んでいれば高校数学Ⅲかそれに相当する段階で初めて現れる. そこでは当然直観的な認識で理解をするだろう. しかし日常生活における無限大という言葉の使われ方や高校数学Ⅲにおける極限に関する公式を見ていると, どうも無限大というものは, 数という論理的な概念または数と似たような扱いができる概念ではないかという気がしてくる. 実際数学では数と似た扱いをするか一種の数として定義する. ここで「数とは何か」が問題になるが, それについては前々回の記事「数学でいう数とは何か」を参照されたい.

例えば
lim_(x→0)sin(x)/x=1
lim_(x→+0)1/x=∞
を見比べたり,
lim_(x→+0)(1/x+cos(x))=∞
という式を見ると, ∞は単なる記号以上の意味がありそうだと誰もが思うのではないだろうか.

実際微分積分ルベーグ積分そして関数空間論や関数不等式などを扱う実解析という分野において正負の無限大±∞は以下の性質を満たす「値がいくらでも大きい現象を表す記号」あるいは「広義の実数」として定義される. 以下aは任意の実数とする.
-∞<a<+∞,
±∞+a=a+(±∞)=±∞,
a×(+∞)=(+∞)×a=+∞ (a>0), =0 (a=0),
a×(-∞)=(-∞)×a=-∞ (a>0),
a×(+∞)=(+∞)×a=-∞ (a<0),
a×(-∞)=(-∞)×a=+∞ (a<0),
0×(±∞)=(±∞)×0=0,
±∞±(±∞)=±∞ (複号同順),
a±(±∞)=±∞ (複号同順).
場合に応じてさらに追加されたり減らすこともあるが, 数列や関数の絶対値がいくらでも大きくなる現象が絡む数学では, このように約束する. これは高校数学Ⅲにおける極限の計算とも整合性がある. もちろん+∞-(+∞)といった任意の値になりうる不定形に相当する場合は定義しない.

このように考えると, 無限大は数であるかは非常に微妙な問題である. 前々回の記事の立場を保持するなら無限大は数ではないと言えるが, 数と似た性質を持っており実際に実解析では実数と同列に扱うことが多いのである. しかし実数の持つ重要な性質のいくつかを∞は持っていない.

複素数関数の微分積分あるいは複素多様体から複素多様体への写像を考察する複素解析では∞は「無限遠点」として複素平面Cのコンパクト化をするために定義されており, やはり複素数との算法規則c+∞=∞+c=c/0=∞(∀c∈C)などが定められている. しかしやはり数と言えるかは微妙な問題である. 変数や関数値が無限遠点になる場合も複素解析では考えられるが, やはり複素数の持つ性質のうち重要な物を持っていないからである.

一方, 無限大を数として定義する方法もある. 超準解析において, 正の無限大数は任意の自然数よりも大きい超実数として定義されている. 超実数は数と考えて良いと俺は思う. 超実数の厳密な定義に触れるわけにはいかないので超実数体*Rの直観的な本質を取り出してあえて不正解な定義を書いてこの記事を終わりにしよう. 無限大は数か, 俺にはまだ結論は出せない.

Nを自然数の成す集合とする. (例えば a_n=√n, b_n=log(n) とするとき, 通常の意味で lim(a_n)=lim(b_n) であるが, ここでは lim(a_n)>lim(b_n) とみる. )

*R={ lim_(n→∞)a_n | (a_n):N→R, lim(a_n)=lim(b_n) :⇔ ∃n'∈N, ∀n≧n', a_n=b_n }.

「新訂版 数理解析学概論」の第16, 17章について

具体例と測度や積分および行間について補足すべく作った, 内容をより良く理解するための自作演習問題.

ハール測度とルベーグ測度のハール測度としての性質も意識した(知り合いの数理物理学者がハール測度の理解のためも読んでいるので)

1. ユークリッド空間の可算集合ルベーグ測度について零集合であることを示せ. (ヒント:特定の被覆について外測度が出れば外測度の値の一意性からその値は任意の被覆に対する値でもある)

2. 可算集合を基に定義される測度空間で空でない集合の測度がゼロでないものを構成せよ. (ヒント:群の位数)

3. 任意の集合Xとその冪集合P(X)について m({})=0, m(A)=∞({}≠A∈P(X)) とすると(X, P(X), m)は測度空間であることを示せ. ({}は空集合. この問題のみ測度空間の定義にσ-有限性は仮定しない)

4. ユークリッド空間の空でない開集合のルベーグ測度は正であることを示せ.

5. ユークリッド空間のルベーグ可測集合Eに対してEのベクトルvだけの平行移動E+v=v+E={x|x=y+v, y∈E}とする. このときm(E+v)=m(v+E)=m(E)を示せ. (ヒント:ルベーグ測度の定義)

6. ルベーグ測度mとルベーグ積分関数fに対して
∫f(x+v)m(dx)
=∫f(v+x)m(dx)
=∫f(x)m(dx)
を示せ(積分範囲はユークリッド空間全域).

7. ルベーグ積分∫_Rχ_Q(x)m(dx)を求めよ.

8. 問題2で構成された測度空間において可測関数はR∪{±∞}への写像としての数列であり可積分関数の積分は絶対収束する無限級数であることを示せ.

9. ルベーグ可測集合Eに対して
m(E)=inf{m(O)|開集合O⊇E}
を証明せよ. (ヒント:(外)測度の単調性より
m(E)≦右辺)

10. ノルム空間Vにおいて三角不等式
| ||x||-||y|| |≦||x-y|| ( ∀x, y∈V )
を示せ.

11. ヒルベルト空間において内積は連続であることを示せ.

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溝畑「偏微分方程式論」について

和書では数が少ない偏微分方程式「論」の本である. (私も含めて)難解という方も多いけれど, 話の流れとしては入門書である.

様々な偏微分方程式の可解性の理論(解の存在・一意性・連続性や微分可能性・初期値の連続的な変動に対する解の変動の連続性・境界値問題)を和書で最も詳しく述べている. 内容が豊富であり貴重である.

定数係数線型偏微分作用素に対する基本解の存在証明がある. 楕円型とする仮定を課しているが, ヘルマンダーの(上手く極を避ける)方法を短く簡潔にまとめて示している. 楕円型の場合に持つ, 原点の外でC^∞なことまで証明している和書は他に見当たらない.

偏微分方程式論において重要な役割を果たすとされる(「ベクトル値」・球対称)関数と超関数のラプラス変換にも, 本書では殆んど用いないと前置きしてから, 簡単にした紹介のような説明がある. これも貴重なのだが, 私には, 物理学と工学で, 「計算により微分方程式が代数方程式になり, その代数方程式の解を逆変換すると, 本の微分方程式の解が得られる」ことが利用されていることを, その具体例を何冊かの本で見たり読んだりした程度の知識と経験しかなかった. 発展方程式の章で, 解を発見的に得る方法と半群理論が並行して適用されていることで, 偏微分方程式論での有用性を知ることができた.

L^2空間と, L^2空間を素体とするソボレフ空間が主体であり母体でもある. L^2空間はヒルベルト空間だから, 様々な超関数をリースの表現定理を用いて具体的に表示しているのは個性的だと思う. そしてヒルベルト空間における偏微分方程式の解の存在証明はリースの表現定理と超関数論が根幹にあることが(第1章でフーリエ解析を, 第2章で関数空間論と超関数論を準備しているから)第3章の早い段階でよく分かる. 井川「偏微分方程式論入門」も, ソボレフ空間の節で, それを参考にしたと思われる定理がある. (井川氏の本は後述する写像の記法については本書と比べて集合論的にも好ましい表記になっている. )

第2章では, 種々の関数空間と, それに呼応する様々な超関数の空間の, 位相構造と包含関係を精密に述べて, 論理展開を潤沢にしている. そのために必要な, 実解析と関数解析は, 初学者に配慮して, 論理展開で必要になり関数解析から引用している定義と定理は, 他書なら既知とされることがあるものを含めて, 殆んど至る所に(証明込みで)補充してある. 関数解析で扱われることが少なくなった(線型作用素が生成する)半群も含めて, 新しい概念を自然に入れて, または, 新しく入れた概念の背景を欠かさず書いてある. 超関数と超関数のフーリエ変換の導入を自然に書いている和書は他に「物理数学入門」しかないと思う. 述べて終わりにすることは少なくて内容の補足などの注意書きがある場合が多い. 内容も同値な言い換えをできるだけ説明している. 証明については技巧的なものを選ばなかったそうだ. 確かに天下り的なものはかなり少ない. そういった意味では読みやすい.

実解析, 関数解析, 位相空間論に慣れていれば, 難解であることすら楽しく読めると思う.

連立1次代数方程式の無限次元版と言える, リース-シャウダーの交代定理(リース-シャウダーの択一定理)と, 発展方程式の適切性の章にある, 半群理論の根幹を担うヒレ-吉田の定理は, どちらも言葉と式の形が実に美しい.

半群については, 準有界な(C_0)半群を最初から半群としているのだが, ラプラス変換による解の表示という発見的な解法を, 短く簡明に紹介してからの接続として, 自然な仮定であり, 論理を円滑にしている. そして本書に有るヒレ-吉田の定理は, (C_0)半群から定義域が稠密な閉作用素が生成され, そのレゾルベントの評価式も結論として得られることの逆, 定義域が稠密な閉作用素が適当な定数から成る(実に美しい)レゾルベントの評価式を持つことから, 準有界な(C_0)-半群が生成されること(同値性のうちこちら)を保証している. すなわち, 始めに準有界なことも込めて半群を定義しても, 抽象発展方程式の解の存在を示す準備が終わる時には, 結論となることを意味する. この上手い論法に感動した. その次には解析的半群の話が始まる. もはや半群の入門と応用を同時に学べる関数解析の本であると考えられる.

リース-シャウダーの交代定理については, ヒルベルト空間における簡易版(完全連続な作用素のレゾルベントから成る方程式の一意性と可解性の同値性)であるフレッドホルムの交代定理が, 前世紀(19世紀)から予想され, フレッドホルムの積分方程式論により大要の仕組みが明確になり, リースによりエルミート作用素ではなくとも完全連続な作用素ならば成り立つことが示さた, という紹介がある. この部分だけでもかなり面白そうに感じさせられる. その後に, ヒルベルト空間の枠組みで証明している. 実にすばらしい.

やはり関数解析が如何に応用されているか実感を持てる, という意味で関数解析の入門書あるいは副読本としても活用できると考えている.

後書きにも興味深いことが参考文献の紹介を交えて書かれてある. 例えば(3変数で, 第1項の係数を i^2 と書いて第3項の係数の i をかっこの中に入れてかっこの中を y−ix の形にすると覚えやすい)定数係数線型偏微分方程式で解を持たない例を明確に挙げている本は少ない. 偏微分方程式論の発端のナヴィエ‐ストークス方程式ついても触れて, 当時から藤田や加藤が作用素論により大活躍しているのが分かる. 波動方程式相対性理論の範囲で捉えたクライン-ゴルドン方程式の初期値問題にも言及している. ここで書かれてあるクライン-ゴルドン方程式は物理学におけるものと同じ形である.

単体では読めない「非線型発展方程式の実解析的方法」を読むにも非常に参考になった.

内容の理解に差し支えないと思うが, 適材適所で(例えば各種の超関数の表現定理にあるような)「超関数 T=…Σ…g(x) 」「関数 f(x) 」「試験関数 φ(ξ) 」という表現を「超関数 T(x)=…Σ…g(x) 」「関数 f 」「試験関数 φ 」のように変数を表す文字を(固定していても固定していなくても)明示するかしないか区別するほうが集合論代数学の観点からは好ましいだろう. 私は書き換えた表現が正しい表現だと考えている. (
u(x)∈(D_(L^2)^m)(Ω) ⇒ u∈(D_(L^2)^m)(Ω);
|| f(x) || ⇒ || f || ;
〈 f(x), φ 〉⇒〈 f, φ 〉(or=〈 f(x), φ(x) 〉) ; 
〈 Ff, φ(ξ) 〉⇒〈 Ff(ξ), φ(ξ) 〉
(or=〈 Ff, φ 〉), など. )

与えられた関数の変数, 例えば x について作用させる時は T(x) または T(・, x) のように書いて, 変数を表す文字を固定しないときは T , T(・) , とするのが, 写像の等式として適切な表示だと思う. (x, ξ, t, など)変数が明示されている場合は, 然るべき集合に属する全ての点に対して, 値が等しいという恒等式とも解釈できる.

英訳もある. 日本の解析学を50年にわたり支え続けてきた. 記号や表記は古くても内容は古くない. 誤植も少ない. なぜかいつまでも読んでいたくなる. 数学愛好家のためにも, 日本の解析学のためにも, この本は復刊されて欲しい. 私が買ったときも青色の「待望の復刊」という帯が付いていた. 最後に版を重ねた2010年の2年後のことだった. 「わざと絶版にして, いっきに利益を上げたい時だけ復刊する」という技の餌食になってしまった・・・

なお放物型と双曲型の専門の本はある:「放物型発展方程式とその応用(上)可解性の理論」「線形双曲型偏微分方程式: ─初期値問題の適切性─」など. 楕円型方程式の専門の本は本屋では見ていないが, 関数解析またはそれを含む本(「新版 ルベーグ積分関数解析」など)に解説が記されていることがある.

(2017年2月24日最終推敲)