(先日, Amazonではレビューへのコメントの機能が廃止された. はてなブログでは二重以上の括弧は脚注になるので多少記号を変えた. また細部の表現を改めたが殆んど変更はない. 元々パソコンで書いた物であり, 多少見にくいかもしれないが, ご容赦いただきたい. 非線型発展方程式を学ぶ人々のお役に立てればうれしい. 一般に方程式の解を求めさせる問題は解の存在が前提である. )
予備知識は, 微分方程式(コーシー-リプシッツの定理・非斉次線型連立1階常微分方程式の解法・定数係数斉次線型2階常微分方程式の解法), 位相(ユークリッド空間の位相, 稠密性, 距離空間の完備化), 実解析(ルベーグ測度, ルベーグ積分, 微分と積分の入れ替え, 積分の順序の交換, フーリエ変換, 超関数), 関数解析(バナッハ空間・ヒルベルト空間・半群, の初歩・定義域が適当な関数空間で稠密な有界線型作用素のノルムを保存する拡張・射影作用素・リースの表現定理・ハーン-バナッハの定理)であるが, ストークス方程式やナビエ-ストークス方程式, そして移流拡散方程式を理解したするには, ベクトル解析が少しだけ要る. 結局, 偏微分方程式の解法理論にある, 摂動法と逐次近似法およびDuhamelの原理は, 文章に用語として現れている様子で, 意味を知らなくても結論自体は理解できる. 偏微分方程式に対する逐次近似法とDuhamelの原理は, 金子「偏微分方程式入門」に記されていた.
ストークス方程式やナビエ-ストークス方程式については, ヘルムホルツ分解も知らないと理解しにくいと思う. 超関数や半群についても載っている本が少ないので, また式の意味が伝わりにくいので, 私としては第13章と第16章の分の紙数は, 超関数と半群の解説に割くべきだと思う. 超関数の補足事項ついて, 私はこの場に知識としても字数としても可能な限り書いた.
割と誤植が多い. 証明には計算が多く, 独特の技巧や論理の飛躍がある. 全体的に説明が短くて埋めるべき行間が広い. 高度な内容が続く割には解説が少ない気がする. 独学や単体では無理だと感じた. この本で解説が足りていない事項は, 参考文献にあるのかもしれない.
しかし, 最先端の実解析(フーリエ解析, 特異積分作用素, 超関数, 関数不等式, 関数空間論, およびこれらの融合)と簡単な関数解析で, 時間変数を含む半線型偏微分方程式(線型項と非線型項に分けられる方程式)の解の適切性(ただひとつで, 可微分性が高く導関数も連続な解で, 初期値の連続な変化に対応して連続に変化する解の存在問題:すなわち数理物理学の観点からは存在して当たり前な解の存在問題)を, 時には読み物風に証明を省略したり文章で解説して, 概要を把握できる. 読んでいて不思議に感じたりもするから, 微分方程式に興味がある人は, 眺めるだけでも, 数学の広さ・深さ・意外な関係に, 強い印象を受けると思う.
定義を覚えて, 命題や定理や系だけを理解するのは簡単だと思う. 証明を抜きにしても読めるし, 内容は全体を観てもかなり貴重である. 和書としては, 他には書かれていない内容が多い. 論文の紹介も多い. 読んでいると応用解析の世界に吸い込まれる. 英訳が出るべきである. 証明を抜きにしたら, 洋書・本格的な専門書・論文よりは簡単なはずだから, この本で準備体操をすると, 挑む時の困難が解消されるかもしれない.
私としては抽象的な理論も少しは述べて欲しかった. 例えば「これからの非線型偏微分方程式」;藤田-黒田-伊藤「関数解析」;溝畑「偏微分方程式論」;柴田-久保「非線形偏微分方程式」「応用解析ハンドブック」に書いてある.
予備知識それ自体は標準的なものを超えず詳しくて楽しかった. 線型斉次熱方程式(∂_t)u:=(∂u/∂t)=△u, 線型斉次波動方程式((∂_t)^2)u:=(∂^2)u/∂(t^2)=△u, 線型斉次シュレディンガー方程式 i(∂_t)u=−△u は, 見かけはよく似ているのに, 物理学では分野が違うのが面白いと思う. 第3章にあるように, (∂_t)u=△u の解で時間変数 t を虚数単位 i を用いて it に変えると, i(∂_t)u=−△u の解になることには感激した. 本文に詳しい説明はないが, 波動方程式に特殊相対論的思考を織り交ぜたクライン-ゴルドン方程式((∂_t)^2)u−△u+mu=f は, 波動方程式と「きわめて類似の性質を持つ」らしい. もっと多くを知りたくなった.
第1章は数式を交えた前書きのようなものである. ここではLが生成する半群(の元)をe^(−Lt)と書いているが線型代数に従えばe^(−tL)と書くべきだと思う. この本の全体を通じて, e^(−tL)のtを時間区間 I で動かして作られる集合{e^(−tL)}_(t∈I)を半群と言うか, 略式にその元e^(−tL)を半群と言うかは, どちらかにするか, 1回前者の言い方をして2回目に略式の言い方をして, その後はずっと略式か決めるべきだと思う. 第20章は, 本文の方程式との関連で, 個性的な方程式として連立方程式に変形できるものと本文で解説した方程式の連立方程式の紹介をしている面白い後書きである.
この本を読むには, 少なくとも 「実解析入門」「これからの非線型偏微分方程式」が必要だった. フーリエ変換と超関数については「実解析入門」「ベクトル解析から流体へ」「物理数学入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「ルベーグ積分論」「新訂版 数理解析学概論」 「偏微分方程式論」「新版 ルベーグ積分と関数解析」が参考になる.
線型作用素が生成する半群については参考になる和書に「これからの非線型偏微分方程式」(黒田)「関数解析」「応用解析ハンドブック」(藤田-黒田-伊藤)「関数解析」がある.
関数空間としては, 台がコンパクトで滑らかな関数の空間, 数列空間, L^p空間, ソボレフ空間, 急減少関数の空間, 緩増加超関数の空間, 弱L^p空間, (斉次)ベゾフ空間, (斉次)トリーベル-リゾルキン空間, ローレンツ空間, (実解析流)ハーディー空間, BMO空間, VMO空間, これらの適当な組み合わせから成る実補間空間が主役である. ソボレフ空間については実解析流にフーリエ変換と緩増加超関数を用いた定義もある.
関数不等式としては, ソボレフの不等式など, 作用素を施された関数と元の関数(または別の作用素を施された関数)のノルムの関係, 空間と空間の包含関係を表す不等式, L^p-L^q評価, Strichartz-Brenner評価, 数理物理学に由来するエネルギー不等式, などがある.
扱われる方程式は, 熱方程式(∂_t)u−△u=f, シュレディンガー方程式 i(∂_t)u+△u=f, 波動方程式((∂_t)^2)u−△u=f, ストークス方程式(∂_t)u−△u+▽p=0;div(u)=0, ナビエ-ストークス方程式(∂_t)u+(u・▽)u=△u−▽p;div(u)=0, KdV方程式(∂_t)v+((∂_x)^3)v+(v^m)(∂_x)v=0, 波動方程式と熱方程式が合わさっていると考えると, 式の形が面白い2次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=f, 移流拡散方程式系(∂_t)ρ−△ρ+κ▽・(ρ▽ψ)=0;−△ψ=ρである. KdV方程式の扱いはかなり少ないように思う. 第16章の非線型放物型方程式と楕円型方程式の連立系である移流拡散方程式系は他書にはなく新鮮だった. ただ, ナビエ-ストークス方程式と関係があると言われても釈然とせず, 数学的な重要性がよく伝わらなかった. どなたかのご教授を享けたい.
L^p-L^q評価は, ある関数空間で方程式を解くときに, 初期値が「あばれない」なら, 初期値の可微分性が時間の経過と共に向上することを言っている. 「これからの非線型偏微分方程式」によれば, 初期値が微分できなくても解は局所的には可微分性が高まることを言っている.
S-B評価の意味は, ある関数空間で, その方程式から定まる縮小写像の不動点の存在を示す方法により解くとき, 初期値から成る項と非斉次項または非線型項が, 時空で「あばれない」と, 縮小写像を定める式の右辺が「あばれない」ことを言っている. 初期値があばれすぎなければ, 不動点の存在が示しやすいのだろう.
集合の補集合を表すための c は, その集合の左上に付いている.
関数空間について全体に出てくるものについて,
A(I;X)={ u:I∋t→u(t)∈X : || ||u(t)||_X ||_A(I) <∞},
C(I;X)={ u:I∋t→u(t)∈X | ∀τ∈I, lim_(t→τ) || u(t)−u(τ) ||_X =0 i.e. I∋t→u(t)∈X はXの位相で連続 },
C^1(I;X)={ u∈C(I;X) | ∃v∈C(I;X), ∀t∈I, u'(t)=v(t) i.e. I∋t→u(t)∈X
はXの位相でC^1級 }.
局所L^p空間(L^p)_loc(Ω)も任意にコンパクト集合を選ぶごとにそれを固定することによりノルム空間と解釈すると分かりやすい.
以下Ω⊆R^n上の関数の空間の表記X(Ω)でΩがR^nの場合はX(Ω)を簡単にXと書くことにする.
第2章では, ルベーグ空間, 数列空間, ソボレフ空間を定義して, イェンセンの不等式, ヘルダーの不等式, ミンコフスキーの不等式を述べた後, フーリエ変換を解説し, バナッハの不動点定理の証明で終わる. 緩増加超関数と超関数を定義しているが, 超関数については認知度が低い位相, 線型位相空間論の「帰納極限」で定義されていて, 緩増加超関数は位相を込めずに単に急減少関数の空間上の線型汎関数としているが, この本では問題なかった. 参考のために通常の定義を書いておく. ブラケットエックス〈x〉=√(1+|x|^2)と定義されている. |x|>>1なら〈x〉〜|x|そして〈・〉∈C^∞である.
急減少関数の空間 S={ φ∈C^∞ | ∀番号m≧0, ∀多重指数α, |α|≦m ⇒ lim_(|x|→∞) |〈x〉^m (D^α)φ(x)|=0
(⇔ sup_x |〈x〉^m (D^α)φ(x)|<∞),
limφ_n=φ in S :⇔ ∀m, ∀α, |α|≦m ⇒ lim_(n→∞) sup_x |〈x〉^m (D^α)[(φ_n)(x)−φ(x)]|=0 },
緩増加超関数の空間 S*={ f :S→C : linear, [ limφ_n=φ in S]⇒[ f(φ_n) →〈f, φ〉:=f(φ) ]}.
試験関数の空間 D(Ω)={ φ∈((C^∞)_0)(Ω) | limφ_n=φ in D(Ω) :⇔ コンパクトな∃K⊂Ω, ∀n, supp(φ_n)⊆K, ∀α, 一様に lim(D^α)(φ_n)=(D^α)φ },
超関数の空間 D*(Ω)={ f :D(Ω)→C | [ limφ_n=φ in D(Ω) ]⇒[ linear f(φ_n)→〈f, φ〉:=f(φ) ]}.
距離空間においては, 写像が連続であることは点列連続であることに同値であることを基にして, S*とD*(Ω)を定義していると考えるといいと思う. 詳しくは, 有向集合において, 点列が収束するための条件を定めることは位相を入れることに同値であることによる. (宮島「関数解析」;具体的には「帰納極限」による(「新訂版 数理解析学概論」. ))
まずδ∈D*の定義はむしろ〈δ, φ〉=〈δ(x), φ(x)〉:=φ(0) .
D⊂S, S*⊂D*.
f, 〈f, φ〉について, φの変数がξであるときfをξを変数とする関数に作用させるときはこれらをf(ξ),〈f(ξ), φ(ξ)〉と表わす. そう書くと第3章と第15章は分かりやすくなると思うし精確である.
f の α による微分は (D^α)f :⇔ ∀φ, 〈 (D^α)f, φ 〉:=(−1)^|α|〈 f, (D^α)φ 〉である.
関数の超関数の意味での微分の定義において, 本文では(L^1)_loc関数の微分∈L^1としているが実は∈(L^1)_locである. 後に使われている多重指数を用いた標準的なものを書いておく. u∈(L^1)_locの多重指数αによる超関数の意味での微分 u_α とは
∃u_α∈(L^1)_loc, ∀φ∈(C^∞)_0,
∫ (u_α)(x)φ(x)dx
= (−1)^|α| ∫ u(x)(D^α)φ(x) dx .
感覚的には, u_αはuの|α|階微分を表現していると観て左辺を|α|回部分積分すると, uのα階微分を, uを直接αで微分せずに表現できるという意味である. u∈C^|α|ならば部分積分により u_α=(D^α)u a.e. となる.
fとC^∞級関数aとの積 af は af :⇔ ∀φ, 〈af, φ〉:=〈f, aφ〉で定められている. たたみ込み a*f は a*f :⇔ ∀x, (a*f)(x):=〈 f, a(x−・) 〉=〈 f(y), a(x−y) 〉で定義される. fが関数ならば, 以下に述べるように, fが超関数を定義することから, 関数のたたみ込みの定義と両立している. 超関数の微分の定義により a*f はC^∞級である. (「ベゾフ空間論」「楕円型・放物型偏微分方程式」. )
f∈S*のフーリエ変換 F[f]:⇔∀φ∈S, 〈 F[f], φ 〉:=〈 f, F[φ] 〉.
全てのf∈(L^1)_loc(Ω)に対して, 写像F:D(Ω)∋φ→∫_Ω f(x)φ(x)dx∈C とするとF∈D*(Ω), すなわちf∈(L^1)_loc(Ω)は超関数Fを定義する:〈F, φ〉:=∫_Ω f(x)φ(x)dx (φ∈D(Ω)). 変分法の基本補題により, 写像 f→F は単射で, F→f も単射なので, f←→F を同一視してf∈D*(Ω)と観て, 〈F, φ〉を〈f, φ〉で表わして(L^1)_loc(Ω)⊂D*(Ω) と観ている. 関数とそれが定める超関数の間の対応は, 線型性を保つので, この対応は単射(埋め込み写像)である. (付記:(L^1)_locが関数空間としては最も広く, 単に「関数」といえばこの空間の元とする. 変分法の基本補題ではなく, リースの表現定理を利用しても同一視できる. 「ベゾフ空間論」の研究で発見した. )
本書ではD(Ω)をS, D*(Ω)をS*と考えてφ∈S, f∈S*としてよいと考えている.
fの台supp(f):={ x | ∀(xの開近傍)U_x, ∃φ, supp(φ)⊂U_x, 〈f, φ〉≠0 }である. fが関数ならば関数の台の定義 supp(f)=cl{ x | f(x)≠0 }(となる. (「ベゾフ空間論」「偏微分方程式論」と付録. )
ちなみに第3章について, (∂_t)G+LG=δ の解(作用素∂_t+Lの基本解)Gを得ると, 台がコンパクトな超関数 f∈E* または台がコンパクトなC^∞級関数 f∈(C^∞)_0 に対して(∂_t)u+Lu=f の解はu=G*f∈D* または u=G*f∈C^∞で与えられる.
第3章では, フーリエ変換あるいは緩増加超関数またはそれらの併用で, 熱方程式, ストークス方程式, シュレディンガー方程式, 波動方程式の基本解を導出している. これらは後の章で用いる. 熱方程式(∂_t)u−△u=0 の基本解G_tで, t を it に変えると G_t が S_t になり, S_tがシュレディンガー方程式i(∂_t)u+△u=0 の基本解になることには感動した. まさに熱力学と量子力学は虚数単位 i により結ばれている. 「ベクトル解析から流体へ」によれば G_t→δ(t→0) in S* であることも面白い.
ここでは, 積分論における積分と微分の入れ替えの定理と積分の順序の変更の定理を多用している. 私が確認した限りでは, 埋めるべき行間も含めると, 微分のフーリエ変換とフーリエ変換の微分が8個の式で入れ替わり, フーリエ変換の積の積分のフーリエ逆変換が元の関数のたたみ込みの積分になっている箇所が2つある.
そして〈f, φ〉を〈f(ξ), φ(ξ)〉と精確に書くと分かりやすいと思う. 超関数の偏微分方程式への応用を述べた和書で絶版でないものは, この本と井川「偏微分方程式論入門」「ベクトル解析から流体へ」しか知らない. 絶版書なら「偏微分方程式論」や「楕円型・放物型偏微分方程式」がある.
ストークス方程式の基本解の導出では, 関数空間のヘルムホルツ分解を既知としているようにも感じた. 明確に解説するべきだと思う. ストークス方程式やナビエ-ストークス方程式の任意の解はdiv(u)=0なベクトルuと或る実数値関数pを用いて u+▽p と表わされる. 「ナヴィエ‐ストークス方程式の数理」「ベクトル解析から流体へ」および「Navier-Stokes方程式の解法」によれば
L^p=(L^p)_σ+G^p={ (C^∞)_0 の元でdivが0なもの全体のL^pノルムによる完備化 }+G^p={ u∈(L^p))^n | 超関数の意味でdiv(u)=0 }+{ ▽p∈(L^p)^n | p∈(L^p)_loc} (直和分解;p=2ならば直交分解) in R^n である.
シュレディンガー方程式の解の公式について, 応用解析では量子力学からの自然な要請で, 初期値と未知関数をL^2で考えるのと, 文脈からの推測では, 初期値 u_0∈(L^1)∩(L^2) であり, f(s)∈L^2を仮定すればu(t)∈L^2となるのであろう.
波動方程式の任意次元の解の公式でc>0としているが実はc≠0が正しくc<0にもなりうる. これは導出過程で時間変数∈Rであり2次元波動方程式の解の導出と後の章を観ることでも分かる. 外力や初期値が属する空間の決定には「高次元の解の公式と低次元の解の公式で整合性がなければならない」「連続関数の不定積分は微分可能」「可微微分関数は連続関数」「外力と解が連続ならば初期値も必然的に連続」「初期値と解が連続ならば外力は必然的に連続」が背景にあるのだろうか?
3次元の解の公式の導出で, 充分な説明なしに((2π)^(1/2))^2と超関数δが現れているが, 導出を理解するには余分なので((2π)^(1/2))^2は無視してよい. 本文の式変形は,
〈F[δ], φ〉 =〈δ, F[φ]〉 =1/((2π)^(3/2))∫(e^(-ixξ))1φ(ξ)dξ|_(x=0) =〈1, φ〉
∴ F[δ]=1/((2π)^(3/2))
∴ F^(-1)[1]=((2π)^(3/2))δ
であることによる.
2次元の公式の導出では, β>1のときはβ=1+b(∃b>0)として α_+の代わりに −α_+を考えて(a^2)−(b^2)=(a−b)(a+b)を用いて評価するとα_<−β<−1, 1>−α_+>0を簡単に得て−1<α_+<0も簡単に得られた. β<−1のときはβ=−1−b(∃b>0)として同様に0<α_<1<α_+を簡単に得られた.
任意次元に対する公式は「物理数学入門」の他に「ベクトル解析から流体へ」にもある. 後者の付録には, クライン-ゴルドン方程式の特別な初期値問題の, 波動方程式の特別な初期値問題への帰着と任意次元に対する解の公式など, 興味深い解説もある.
第4章には, L^p空間より広い弱L^p空間, 実補間空間の根底にある実補間定理, ハーディー-リトルウッドの極大関数, L^p空間における分数階積分の評価式であるハーディー-リトルウッド-ソボレフの不等式, L^pにおける導関数の評価式であるソボレフの不等式やGagliardo-Nirenbergの不等式がある. 弱L^p空間については準ノルムの他にノルムも与えていてバナッハ空間としているのはいいと思う. S*によるソボレフ空間の定義があるが, L^p関数は緩増加超関数を定める)(L^p⊂S*(1≦p≦∞))(ことを思い出すと, 定義が理解できると思う.
極大関数については「実解析入門」「古典調和解析」「ベゾフ空間論」も参考にするといい. 「古典調和解析」には, 実補間定理の他にこの先にもある特異積分作用素やBMO空間そしてカルデロン-ジグムンド分解の解説がある.
第5章では, 三線定理と複素補間定理を証明している. || f*g ||_r ≦|| f ||_p || g ||_q を複素補間定理を用いて証明する, その中で || f*g ||_p ≦|| f ||_p || g ||_1 を用いている. これは自明ではないが「実解析入門」と「ソボレフ空間の基礎と応用」などにこの不等式の証明がある. ハウスドルフ-ヤングの不等式は実はヤングの不等式で前者は「新版 ルベーグ積分と関数解析」にもある. この章では複素補間定理における指数の代入が間違っている箇所が2か所あるので注意がいる. シュレディンガー方程式のL^p-L^q評価は「ベクトル解析から流体へ」も参考になる.
第6章では, Fourier multiplierとカルデロン-ジグムンド分解, 特異積分作用素を説明している. Carlson-Beurlingの不等式の証明は, 先ほど急にδが出てきたのと同じくらい, 論理が飛躍しすぎだと思う. そして, ヘルマンダー条件の証明で, 第7章で述べるリトルウッド-ペーリー分解を用いているのは, 違和感を持った. 確かに, 第7章の始めに定義が書いてあり, それを参考にすればいいのだが…できるなら先の章の内容を使わずに証明して欲しかった. 前者の不等式でも, この分解を用いようとしている. これらは数学書としてどうなのかと思う. 「後に第7章で述べる」くらいは書くべきだと思った.
第7章では, ベゾフ空間, トリーベル-リゾルキン空間, 実補間空間について解説されている. φが球対称という仮定は外せるかもしれない. ∀φ∈S, φ=Σ_(j∈Z) (φ_j*φ). すると(斉次)ベゾフ空間や(斉次)トリーベル-リゾルキン空間の定義の中の φ_j は, 直観で考えると f=Σ(φ_j)*f とみて, fを簡単な関数に分解する役割を担うと分かる. そしてsuppψ⊆{ξ:|ξ|≦2}. この4つの空間の定義はφやψの取り方によらずwell-definedである. (以上4つは「これからの非線型偏微分方程式」「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「ベゾフ空間論」による. )
ところで, 多項式関数p∈(L^1)_locだからP∈D*を定めている. 変数φ∈Sとすればルベーグの収束定理によりpはP∈S*を定める. そこでp∈S*とみている. (より精確には(L^1)_locの元は必ずしもS*の元ではない:多項式関数pは緩増加関数で, pφ∈S⊂L^1 とルベーグの収束定理を合わせてP∈S*が言える. )
斉次ベゾフ空間のノルムでは, 多項式関数の定める緩増加超関数の「ノルム」が0になってしまう. (「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」によれば|| f ||=0からsupp(F[f])⊆{0}となり f は多項式関数. )
そこで, 関数空間論では, 多項式関数の成す線型空間 P⊂S*とみて, 斉次ベゾフ空間と斉次トリーベル-リゾルキン空間を商空間 S*/P の元により定義している. 斉次ベゾフ空間の定義にある (S/{多項式})* は正しくはS*/Pである. 斉次トリーベル-リゾルキン空間の定義でも, f∈S*は正しくはf∈S*/Pである(「ベゾフ空間論」).
ベゾフ空間とソボレフ空間の包含関係を述べているが, トリーベル-リゾルキン空間と, べゾフ空間・ソボレフ空間・ハーディー空間・BMO空間との包含関係については「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」に書いてある. 他の関数空間との包含関係については「べゾフ空間論」も参考になる.
実補間空間について. 線型位相空間 X, Yに対して, ある線型位相空間Zがあって, 連続な埋め込み X⊆Z, Y⊆Z があるとき, (X,Y)は両立組であるという. 両立組(X,Y)に対して, ある線型位相空間Zがあり, 連続な埋め込み X∩Y⊆Z⊆X+Y があるとき, ZはXとYの中間の空間であるという. X∩Y⊆Z⊆X+Y=span(X∪Y)という意味で, XとYを平面ベクトルとみて図を描くと, この定義は感覚的にも納得がいく.
実補間空間を「f∈S*に対して」定義しているが, 正しくは「f∈X+Yに対して」である. X, Yを含む最小の空間 X+Y のノルムは || f ||=inf{ || u ||_X +|| v ||_Y | f=u+v, u∈X, v∈Y }であり, X, Yに含まれる最大の空間 X∩Y のノルムに || f ||=|| f ||_X +|| f ||_Y ; =max{ || f ||_X, || f ||_Y }がある. これらは同値である.
(X_0, X_1)の実補間空間の定義を直観的に言うと, t=0のときX_0のノルムに一致し, 0<θ<1, 0<p≦∞, 0<t<∞を用意して, (X_0)∩(X_1)と(X_0)+(X_1)の「中間のノルム」を, 時間変数tと中間を意味させる指数θを用いて定義し, そのt方向のL^pノルムが有限な空間として(X_0)と(X_1)の実補間空間(X_0 , X_1)_(θ, p) が定義されている.
「中間のノルム」は, 0<t<<1/2のときは X_0のノルムに近くなり, 0<t<1なら(X_0)+(X_1)と「同値でより小さい」ノルムになり, t=1のときに(X_0)+(X_1)のノルムに一致し, t>1ならば(X_0)+(X_1)でのノルムと「同値でより大きな」ノルムを用意して,
それに0<t<1ならば, t^−θ>1をかけて, t=1ならば1をかけて, t>1ならば 0<t^−θ<1をかけて, そのL^pノルムを算出する前に, 有用な関数不等式に含まれることもあり非常に緩やかに増加する関数 log(t) の変化率 1/t をかけて, 値とその変化率をうまく調節してから算出したL^pノルムが有限な関数の空間として定義しているのだろう. 定義式でt=1しかもp<∞なら1点での積分はその点における被積分関数の値と考えられるから(X_0)+(X_1)のノルムの定義式に等しくなる.
第8章では, 関数の再配列, それを用いた(L^p)(Ω)を拡張したローレンツ空間L^(p, σ)(Ω)を解説している. 1≦p≦∞ ⇒ L^(p, p)(Ω)=L^p(Ω)⊆L^(p, σ)(Ω). ハウスドルフ測度による集合の計測は「実解析入門」「ルベーグ積分講義」「ルベーグ積分論」などが参考になる.
第9章では, ハーディー空間 H^p とそのアトム分解, BMO空間とVMO空間, ハーディー-ソボレフ空間を説明している.
H^pの定義はL^1関数として扱うφの選び方によらずにwell-definedである)(「これからの非線型偏微分方程式」)(. L^1空間の近似単位元でもある軟化子 φ_λ については「実解析入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「偏微分方程式論」に解説があり参考になった. 1<p<∞ならば H^p=L^p である. だからかアトム分解については0<p≦1の場合に限っている. 個人的には1<p<∞の場合のアトム分解にも興味がある. F(・, s=0, p=1, σ=2)=H^1となり, H^p=L^p=F(・, s=0, p=p, σ=2)であるから, これらを包括して「ベゾフ空間論」が詳しそうである.
(H^1)*=BMO, (VMO)*=H^1を示しているが, ここではハーン-バナッハの定理とリースの表現定理を用いている. 関数解析の多くはない出番だと思う.
BMO空間については, 定数関数のBMOのセミノルムが0になり, BMOのセミノルムが0となる関数は, 殆んど至る所で定数関数となるが, ここでも他の資料でも, (L^p)_locを定数関数の空間で割ることはしていない. バナッハ空間にする必要がないからなのであろうか?
第10章からは, これらの諸論を基に第12章と第13章を除いて独立に書いてある.
第10章では, 分数冪ラプラシアンに対するハーディー空間によるL^p-L^q型評価を述べている. ここから線型作用素の生成する半群の理論が表面的に使われる.
2次元消散型準地衡流方程式 (∂_t)ω+κ((−△)^(θ/2))ω+(u・▽)ω=0;u=▽^⊥((−△)^(−1/2))ω により分数冪ラプラシアンを導入している. これが渦度ω(t)=rot(u(t))を用いた2次元ナビエ-ストークス方程式(∂_t)ω−△ω+(u・▽)ω=0;u=▽^⊥((−△)^(−1))ω (κも指数の分母も1としてθも1としたもの)と類似の表現をしているのは非常に面白い. ここでは前者の方程式の適切性の概要を述べた後 (∂_t)u+((−△)^(θ/2))u=0 の初期値問題を扱う. 私としては流体力学の方程式として前者の方程式にも興味がある.
第11章では, 古典停留位相法と波動方程式のL^p-L^q評価の解説に充てられている. 関数空間の原子であるL^p空間がここまで役立つとは・・・意外でもありおどろきでもある.
第12章では, シュレディンガー方程式と波動方程式のS-B評価を述べている. シュレディンガー方程式と波動方程式に許容指数対を定義している. 第13章はその続編と言える. 私の考えでは, 初学の読者のためにも著者の前置きの通りにも, 13章の分量を超関数と半群に割くべきだと思う.
第14章では, 熱方程式の最大正則性原理を解説している. 実補間, L^p-L^q型評価, S-B評価を巧みに用いている. まさに実解析的である. 初めに抽象的な発展方程式の話があるので, 私としてはそういう話も多く書いて欲しかった.
第15章では, 準備のための非線型熱方程式と, ナビエ-ストークス方程式の適切性を解説している.
ここでもL^pのヘルムホルツ分解を暗黙のうちに用いている. これは前もって解説をするべきだと思う. この分解により, uの存在が言えれば, もうひとつの未知関数の存在が言える. ゆえに一般には, 作用素P:L^p→(L^p)_σ から定まるストークス作用素 A=−P△ により (∂_t)u+Au+P((u・▽)u)=0 と変形して解析されている.
ナビエ-ストークス方程式については「ナヴィエ-ストークス方程式の数理」と「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「Navier-Stokes方程式の解法」も詳しい. なお本書では弱解の定義式で誤植により右辺の符号が正しいものと逆になっていることには注意がいる. 弱解の定義式ではuをu(s), φをφ(s)と書くとよい. 第1章と同様にAが生成する半群(の元)をe^(−At)と書いているが線型代数に従ってe^(−tA)と書くべきだろう.
第15章にあるナビエ-ストークス方程式の弱解の定義式について. 内積を( ・|・)と書くと, このように考えても同値である:
(u_0 | φ(0))=∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))+(▽u(t) | ▽φ(t))+(u(t)・▽u(t) |φ(t))) dt
(著者, 小薗, 岡本)(抽象発展方程式の弱解の定義式に沿ったやり方. 本文と似ている. この方程式の場合は好ましくない)
(u_0 |φ(0))=∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))−(u(t) | △φ(t))+)((u(t)・▽)u(t) |φ(t)))) dt
((私, 柴田-久保)(「非線形偏微分方程式」189頁を参考にした)
(u(t) |φ(t))=(u_0 |φ(0))+∫_[0, t] (−(u(τ) | (∂_τ)φ(τ))−(u(τ) | △φ(τ))+)((u(τ)・▽)u(τ) |φ(τ)})) dτ
((私, 柴田) 抽象発展方程式の弱解の存在定理に沿った定義. 私はこれが最も好ましいと思う. 理由は私の「これからの非線型偏微分方程式」のレビューにある)
この分野の多くの研究者の悪い習慣だが u・▽u は本来は (u・▽)u と書くべきである. u が R^m 値なら▽u を無理に定義しても, それが ∈R^(m^2) になるか, m次正方行列になってしまうからである. これもふまえて私は上述に整合性を保たせようとしている.
第17章では, シュレディンガー方程式とKdV方程式について, L^pを用いた適切性の話が書いてある. シュレディンガー方程式については, 第12章で述べた許容指数対というものを使っている. S-B評価を多用している. この本ではKdV方程式やその線型化のエアリー方程式の扱いが少ないのが残念である. 私の高校の恩師はKdV方程式について少し研究したようだが, 特に何か大きな話は聞けなかった.
第18章では, 私が興味を持つ波動方程式の適切性を説明している.
第19章では, 熱方程式と波動方程式が隠れている消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=(|u|^α)u が主役である. まず, この方程式とそれに関係が深い (∂_t)v−△v=(|v|^α)v の適切性の概要を述べて, 中盤で再び ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=(|u|^α)u の適切性を述べている. 3次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=0の解は, t→∞とすると (∂_t)u−△u=0 と ((∂_t)^2)u−△u=0 の解の和になると述べられている. これは実に面白い.
第20章はあとがきである.
個人的には, 数学的にも面白い波動方程式と類似の性質を多く持つらしく, 見かけも似ているクライン-ゴルドン方程式 ((∂_t)^2)u−△u+mu=((|u|^(p−1))u, シュレディンガー方程式と波動方程式の連立系であるZakharov方程式 i(∂_t)u+△u=uv; ((∂_t)^2)v−△v=△(|u|^2), シュレディンガー方程式とクライン-ゴルドン方程式の連立系であって中間子モデルを扱う湯川カップリングモデル i(∂_t)u+△u=uv; ((∂_t)^2)v−△v+mv=−|u|^2 に興味がある. 研究してみたかった.
[付録]
supp(f)が閉集合なのは, その補集合が開集合であることを言えばよい.
x∈supp(f)でないとすると, xの開近傍U(x)がとれてsupp(φ)⊂U(x)となる任意の関数φに対して〈f, φ〉=0とできる. U(x)に含まれる任意の点yをとると, U(x)はyの開近傍だから, U(x)をうまくとれば, 必ずy∈supp(f)とはならないようにできる. ゆえに U(x)⊆supp(f)^c となり, supp(f)^cは開集合だからsupp(f)は閉集合である.
fが関数のときA=closure of { x | f(x)≠0 }とする.
y∈Aでないとするとyの開近傍U(y)がとれて任意のz∈U(y)に対してf(z)=0となる. よってsupp(φ)⊂U(y)である任意の関数φに対して
〈f, φ〉=∫ f(x)φ(x) dx =0
であるからy∈supp(f)ではない. すなわちsupp(f)⊆Aである.
次にy∈Aとしてyの任意の開近傍U(y)をとる. U(y)∩A∋zでf(z)≠0となるものが存在する. f(z)はいっぱんには複素数だが, 実部と虚部に分けて考えればよいので, fはzの近傍で実数として一般性を失わない. よってfの連続性よりzのある近傍V(z)∋xでf(x)>0かf(x)<0. ゆえにsupp(φ)⊂V(z)である任意の関数φで0でないものに対して
〈f, φ〉=∫ f(x)φ(x)dx ≠0
だから, y∈supp(f)であり, A⊆supp(f)が成り立つ.
これらを合わせてA=supp(f)である.
…
ご参考になれば幸いです。(2017年3月23日, 2022年2月8日最終推敲)
溝畑氏の「偏微分方程式論」についてはこちらを参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36613662
藤田-黒田-伊藤「関数解析」についてはこちらも参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36870412
超関数の定義の背景:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/05/10/202341
ナビエ-ストークス問題について:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/10/10/115841
北田先生の「新訂版 数理解析学概論」についてはこちら: https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E4%BB%A3%E6%95%B0/dp/476870462X/ref=cm_cr_srp_mb_rvw_txt?ie=UTF8