まず, 0^0が普通の意味では定められないことの説明として, 2変数関数
f(x, y)=x^y
が(x, y)=(0, 0)で不連続であることを挙げることがある. 確かに実際,
lim_(x→0, y→0)0^y=0
lim_(x→0, y→0)x^0=1
となり, lim_(x→0, y→0)f(x, y)は存在しない. ゆえにf(0, 0)をどう定めてもf(x, y)=x^y
は(x, y)=(0, 0)で不連続である.
しかし以前(https://pdem.hatenadiary.com/entry/2021/04/28/063032)にも話した通り, これは0^0をこの意味で(つまりlim_(x→0, y→0)x^yとして)定義できないことを意味し, 真に0^0が定義できない理由よりは弱いのである.
しかし便宜上, 0^0=1と定めると便利である. 例えば関数のマクローリン展開(冪級数展開)を
f(x)=Σ a_n x^n = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 +… (収束円板の内部の任意のxに対して)
と書くとき
f(0)=a_0
であってほしい. そのためにはn=0のとき
a_n x^n = a_0 x^0 = a_0
であってほしい. これは当然x=0でも成り立つべきだから, 0^0=1と定めない限りはx=0の場合を考慮して
f(x)=a_0 + Σ_(n≧1) a_n x^n
としないといけない. これは冗長である.
実は測度論でも0^0=1と定めると, 距離空間における0次元ハウスドルフ測度が数え上げ測度になる. このことを説明しよう.
(X, d)を距離空間, AをXの部分集合とする.
Aのδ-被覆とはAの被覆 {U_i} (A⊆U_1∪U_2∪…)でU_iの直径diam(U_i)=sup{d(x, y) | x, y∈U_i}≦δとなる物を言う. 実数s>0に対して
((H_δ)^s)(A)=infΣ{diam(U_i)^s | {U_i}はAのδ-被覆}
とするとδ→0のとき任意のAに対して左辺は(被覆を取る範囲が狭くなるからその下限は)単調増加するので, ∞を込めて極限(H^s)(A)が存在する. H^sをs次元ハウスドルフ外測度という. ここからカラテオドリの方法によりs次元ハウスドルフ測度が定まる. 直観的にはAに「直径がδ以下」という意味で細かい被覆を取り, 被覆をどんどん細くした極限でAの大きさを測るのである.
(日本語の本だと猪狩氏の「実解析入門」と新井「ルベーグ積分講義」と邦訳の「プリンストン解析学講義Ⅲ 実解析」しか参考にならない. )
diam(U_i)=0のときU_iは一点から成る(U_iが異なる二点を含めば直径は正となるから).
diam(U_i)=0, s=0のとき, diam(U_i)^s=1と定めれば, (H^s)(A)はAの要素の個数または∞となり, H^sは数え上げ測度になる.
数え上げ測度による数列(自然数全体の集合Nまたは整数全体の集合Zから実数体Rまたは複素数体Cへの写像としての意味)の積分は数列の項の和になる.
他にも, 順序数(https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024)の演算でも順序数αに対して順序数としての冪α^0=1と定められている. (「新訂版 数理解析学概論」)
今のところ, 0^0を1と定めたことによるパラドックスは発生していない.