よく, 一般人向けに
素数とは1と自分自身以外で割り切れない数字
や,
偶数とは2で割り切れる数字
奇数とは2で割り切れない数字
という表現がされていることがある. しかしこれらは誤りである.
数は概念である. 名前はまだない. そこで「0」「1」「2」「3」…など名前をつけていくのである. 0, 1, 2, 3,…は数字という文字である. しかし数の概念自体には数字を使う必然性はない. ただ, わかりやすさ, 見やすさ, 伝わりやすさのために数を表すのに数字(や小数点や分数など)が使われているだけである. 数の概念自体は理論上は数字とは無関係なのである. 数の厳密な定義と構成を知っている人なら, 数の概念は数字を使わずとも表現できることが容易に想像できるだろう. 概念と, それを表す文字に何を使うかは関係ないのだ.
例えば, 実数の公理的定義を書こう. 便宜上0, 1という数字を使うが, これはわかりやすさのためで, o, e という文字を使っても同じである. (0, 1の性質を満たす物は一意的に定まるので0, 1と書いても良い)
実数全体の集合Rは完備な全順序体として定義される. すなわち演算+と×, 関係≧が定義され
(∀:任意の, ∃:或る〜が存在して)
(1) ∀a, b∈R: a+b=b+a
(2) ∀a, b, c∈R: (a+b)+c=a+(b+c)
(3) ∃0∈R: ∀a∈R, a+0=a
(4) ∀a∈R, ∃(−a)∈R: a+(−a)=0
(5) ∀a, b∈R: a×b=b×a
(6) ∀a, b, c∈R: (a×b)×c=a×(b×c)
(7) ∃1∈R: ∀a∈R, a×1=a
(8) ∀a∈R, a≠0 ⇒ ∃(1/a)∈R: a×(1/a)=1
(9) 0≠1
(10) ∀a, b, c∈R: a×(b+c)=a×b+a×c
(11) ∀a∈R: a≧a
(12) ∀a, b∈R, a≧b かつ b≧a ⇒ a=b
(13) ∀a, b, c∈R, a≧b かつ b≧c ⇒ a≧c
(14) ∀a, b∈R, a≧b と b≧a の少なくとも一方が成り立つ
(15) ∀a, b, c∈R: a≧b ⇒ a+c≧b+c
(16) ∀a, b, c∈R, a≧b かつ c≧0 ⇒ ac≧bc
(17) Rは連続性を持つ集合である:Rの上に有界な空でない任意の部分集合は上限を持つ.
の(1)-(17)を満たす集合を実数全体の集合と定義し, その要素を実数と呼ぶのである. ペアノの公理系よりも前にこれで実数を定義し, ここから自然数を定義することもできる. 詳しくは杉浦光夫氏の「解析入門Ⅰ」を参照されたい. また「新訂版 数理解析学概論」でも自然数からの数の構成から実数の構成に至った所で実数の完備な全順序体としての定義可能性に言及している.
この中で0, 1は幸いにも通常の意味での0, 1に一致する. しかし理論上は無関係であることがわかっていただけるだろうか.
文字が概念を表すとも限らない. 例えば意味のない文字列や感情を表す文字は概念たりえない. また概念がどの文字を用いて表されるかは非本質的である. 不便だが, 漢数字を使ってもかまわないのである. 2匹の犬の「2」と数として抽象化された「2」には大きな隔たりがある. 数字とは数を表す文字であり概念ではないのだ.
こちらも参照されたい :https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024