私は小学生の頃, 2つの図形を合わせて作られる図形の面積や体積は, それぞれの図形のそれぞれの面積や体積の合計だと習った.
例えば, 2つの三角形でそれぞれの或る1辺が等しい物たちを, その辺を合わせて合体させると, 多角形ができるが, その多角形の面積は, それぞれの三角形の面積の合計であり,
2つの直方体でそれぞれの或る1つの面が等しい物たちを, その面を合わせて合体させると, 新たな直方体ができるが, その直方体の体積は, それぞれの直方体の体積の合計であると.
より具体的に言うと, 形が同じで裏表が逆の2つの三角形を, どれかの辺を重ね合わせて平行四辺形を作ると, その平行四辺形の面積は, それぞれの三角形の面積の合計になる.
また, 形が同じ直方体を, どれかの面を重ね合わせて新たな直方体を作ると, その体積はそれぞれの合計になる.
しかし, 小学生時代, 中学生時代の私は, ここで疑問を持った.
「重なり合う部分の面積や体積は考えなくていいのか?」「それが0だと厳密に証明できないか?」
つまり, 図形A, Bの合体をA∪Bとし, 共通部分(いわば「重なり合う部分」)をA∩B, 一般に図形Sの面積または体積(Sが平面図形なら面積, 空間図形なら体積)をμ(S)とする時,
μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)
ではなく,
μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)−μ(A∩B)
(重なり合う部分を二重に足しているから)
が成り立つのではないかと, 私は考えたのだ. そして長い年月が経ち, 測度論を学んで, それは正しかったのだと本でわかった. (補足:図形は平面や空間の中の点の集合である. )
測度論の立場からは,
μ(A∩B)=0
であることがわかる. しかしこのことは自明ではない割には誰も教えてくれない気がする.
測度論では, 一般に
AとBが交わらない ⇒ μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)
は確かに成り立つことであると認めて話を進めるが,
μ(A∩B)=0 ⇒ μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)
は暗黙の了解としている. (AとBが交わらないならμ(A∩B)=0だが, μ(A∩B)=0でもAとBが交わることが有り得る. A∩Bがすぐ後述の場合または1点から成る場合. )
μ(S)として, 例えば面積や体積を一般化したルベーグ測度を考えれば, 上に書いた具体例で
μ(A∩B)=0
が成り立つことは定義から簡単に導かれる(被覆をする区間の1つが任意に小さくできるからA∩Bは零集合になる)が, 私はこのあたりに昔から引っかかっていた.
つまり, 2次元空間すなわち平面の中の, 線分, すなわち1次元の図形は, いくらでも細い長方形に含まれるから, 面積がゼロなのである.
また, 3次元空間すなわち常識的な意味での空間の中の, 面, すなわち2次元の図形は, いくらでも薄い直方体に含まれるから, 体積がゼロなのである.
これらには実数の稠密性からの或る帰結:
「実数a≧0が任意の正の実数εに対して
a<ε
ならばa=0である」
が背景にある.
もしかしたら同じ思いをする人がいるかもしれないので書いた次第である.