序文とあとがきの人のブログ

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数学を学ぶ全ての良き人々へ

最近, 数学を学ぶ人が増えている気がする. 数学の入門書も, 検定教科書や学習参考書とは書き方が違う物が多数出版されている. また私は, 私のAmazonレビューやブログ記事の勉強成果の記事が, 少しでも後継のためになればと思いながら書いているので, 今日は数学の初心者向けの話をしよう. 本の紹介と数学の内容と学び方について. どれも互いに関連し合っているので記事は分けない.


まず, 高校までの数学にしろ大学数学にしろ大学院の数学にしろ, 1冊や2冊の本だけで理解するのは難しいだろう. 私は高校数学だけでも4種類の学習参考書と4冊の検定教科書型参考書を基に学んだ. しかしそれらは全て絶版になったし, 学習指導要領の変更もあるので, 高校数学の本やそれを含む本を3冊だけ紹介しよう.


宮越「高校数学+α 基礎と論理の物語」

同「高校数学+α なっとくの線形代数

(どちらも共立出版)

吉田「オイラーの贈り物 人類の至宝e^iπ=−1を学ぶ」(東海大学出版会)


どれにも私のAmazonレビューがあるのでそれも参照されたい. どれも初歩からていねいに解説している. ただ高校数学を本当に全く知らない方は一度なんでもいいから学習参考書を(理解できるかどうかはともかく)読んでおくか, 宮越氏の1冊目をおすすめしたい.


現代の数学は, 集合と写像の言葉で記述されるので, 集合や関数や関数を一般化した写像の概念についてたくさんの具体例と共に理解しておくとよい. 宮越氏の2冊ではそれらにも言及されている.


ちなみに, 現代数学を俯瞰する圏論における物の集まりや射は必ずしも集合や写像とは限らないが, 集合や写像の言葉や例やそこから展開される現代数学を知らなければ理解できないであろう(自戒を込めて).


例えば実1変数実数値関数は数直線Rの部分集合からRの部分集合への対応, すなわち実数全体の集合Rの部分集合からRの部分集合への対応である. これはグラフが座標平面R×Rの部分集合であることから想像がつくであろう. なおここでの対応では関数値は変数の値を一つ定める毎にただ一つに定まるとする. そのような集合の間の対応が関数, より広く言って写像である. これぐらいの例ならまだ簡単だが, 例えば集合Xの部分集合全体の集合(冪集合)P(X)も集合となる. これは最初は想像がつきにくいのではなかろうか. 例えばXが平面ならばP(X)は平面図形全体の集合, Xが空間ならばP(X)は空間図形全体の集合である(「次元」が「退化」している場合, 例えば平面内の線分や点も平面図形とみなす). また, 微分は関数の集合から関数の集合への或る種の写像である. このように数学では論理でしか理解できない対象も多々現れるので(例えば無限次元空間), 論理で理解する練習もするとよい.


なお, 例えば「自然数全体の集合N」を「自然数の集合N」とかもっと略して「自然数N」と言うことも時々あるので注意されたい. 例えば宮越氏の本でも吉田氏の本でも「自然数全体の集合N」の意味で「自然数N」という記述がある. また, 実数値関数をR値関数, 一般に集合Aから集合Bへの写像を(A上の)B値関数と言うこともある. また, 例えば「定義域全体で微分不可能な連続関数」を「至る所微分不可能な連続関数」と言うことがある. ちなみにこのような関数は存在する. 高木関数とかワイエルシュトラス関数と呼ばれている. 強いて直観的に言うと定義域全体でグラフが尖っている連続曲線である.


関数やその微分積分は, 微分方程式という応用数学で多々現れる物の他に, 多様体という或る種の図形を記述するためにも使われる(実は多様体も例えば物理学にはよく出てくるらしいが). また図形の性質を調べるために代数学, すなわち(大雑把に言えば)要素に演算が定義された集合についての抽象的な理論の手法がよく使われる. そのうち線型性(せんけいせい)を取り出したのが線型代数(線形代数)である. 微分積分線型代数, 集合と写像(つまり初歩的な集合論), そして位相空間論が現代数学のどの分野を学ぶにもだいたい必要であるか補助になる.


ただいきなり厳密な数学はわからないと思う. 抽象的で論理性が高いからである. というか厳密な数学は本質的には論理だけで出来ている. しかし最初は直観的に理解しやすいほうがいいだろう. その大学数学の初歩で私がおすすめしたい本は


江川「大学1•2年生のためのすぐわかる数学」(東京図書)

小形「キーポイント 多変数の微分積分」(岩波書店)

藤岡「手を動かしてまなぶ 微分積分」(裳華房)

加藤「大学教養 微分積分」(数研出版)

黒田「微分積分」(共立出版)

庄田「集合•位相に親しむ」(現代数学社)

松坂「集合•位相入門」(岩波書店)

内田「集合と位相」(裳華房)

藤岡「手を動かしてまなぶ 集合と位相」(裳華房)

薩摩-四ツ谷「キーポイント 線形代数」(岩波書店, これだけは今のところAmazonレビューなし)

齋藤「線型代数入門」(東京大学出版会)


である. 特に, 本当に大学数学を何も知らなければ, 江川氏の本と庄田氏の本と加藤氏の本と薩摩-四ツ谷の2氏の本は最初に読むと良いだろう.


数学の本を読む際は, 最初から全ての証明や補題や難しい例を追うと論理展開がつかめずモチベーション低下や消失あるいはかえって浅い理解になることがある. 証明や補題や難しい例は, わからなければ後回しにして, まずは話の流れをつかんでから, 厳密に理解しなおすと良い. 実際, 数学は最初から厳密に構築されてきた学問ではないし, 例えば最初からε-論法を理解できた人はいない.


またε-論法がやっと理解できても「一様連続」や「一様収束」の理解には少し苦労するかもしれない. 一様連続とは直観的に言うと, 定義域の任意の2点間での関数値の違いがその2点の取り方に依らずに一定値以下, もっとくだけて言うと定義域の任意の2点間で激しく振動しない関数であり, 一様収束は関数列のグラフが定義域のどこでも極限関数のグラフにきれいに偏らずに近づくことである.


とりあえず言いたいことはだいたい言えたし長くなったので今日はこの辺で.