最近, 有理数や無理数の話をしたので, 以前から語りたかった関数を紹介する.
そもそも, 集合Aから集合Bへの関数とは, Aの任意の要素をBの或るひとつの要素に対応させる物なので, 次のような関数も考えられる.
関数 f:R→{0, 1}⊂R を
f(x)=1 (xが有理数のとき)
f(x)=0 (xが無理数のとき)
と定義する. fはディリクレ関数と呼ばれる.
fのグラフは描けない. 任意の有理数に対して, それにいくらでも近い無理数が存在し, 同時に, 任意の無理数に対してそれにいくらでも近い有理数が存在するからである. つまりfは至る所で(定義域全体で)グラフが不連続な関数である. しかし「殆んど至る所で0」であるから, 描くとしたらほぼx軸みたいになるだろう.
集合Sの殆んど至る所でpであるとは, 或る零集合(空集合とは限らない)Nが存在して, SからNを取り除いた差集合S−Nの全ての要素に対してpが成り立つことを言う. 零集合は, S上の測度μについてμ(N)=0となるNとして定義される. 測度とは, 集合の要素の個数•長さ•面積•体積•表面積•曲線の長さ•確率を抽象化または一般化した物である. 今はS=R, μはR上のルベーグ測度である.
関数fは「殆んど至る所で0」だから, 殆んど至る所で連続関数としての定数関数0に等しい. しかしfは至る所で不連続である. 「殆んど至る所で連続である」と「殆んど至る所で連続関数に等しい」は同値ではない.
fは定義域を, 有界閉区間, 例えば[0, 1]に制限すると上積分と下積分が考えられるが, 上積分は1, 下積分は0であるからリーマン積分可能ではない. 小区間での上限が1, 下限が0だならである. 一方ルベーグ積分は可能で, その積分値は0である. それはμをルベーグ測度とするとき, μ(Q)=0により
∫_[0, 1] f dμ
=1×μ([0, 1]∩Q) + 0×μ([0, 1]−Q)
=1×0 + 0×1
=0
一般に,「殆んど至る所で0」の(可測)関数のルベーグ積分の値は完全に0に等しい.
fは全ての有理数を周期とする周期関数でもある. それは, 任意の有理数qに対して, xが有理数ならばx+qは有理数, xが無理数ならばx+qは無理数だから,
f(x+q)=f(x)
がRの各点xで成り立つからである.
最後に, fは至る所で不連続ながらも, 連続関数列の二重極限で表されることを述べよう.
(g_(m, n))(x)=(cos(m!πx))^2n
とすると, 関数g_(m, n):R→[0, 1]は連続である. しかし,
lim_(m→∞) lim_(n→∞) g_(m, n)
は不連続であり, ディリクレ関数fに等しい. これは, xが有理数 p/q のとき, 例えばm>|q|とすればm!πxはπの整数倍になり, cosでそれを写せば±1となり, それを2n乗すれば1であり, 一方xが無理数ならばどのようなmを取ってもm!πxはπの整数倍にならず, その時は
| cos(m!πx) | < 1
であるから, cos(m!πx)の2n乗の極限は0になるからである.
このような関数もあることを知って頂きたくて, また語らせて頂いた.