序文とあとがきの人のブログ

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数学でいう数とは何か (2022.7.25.加筆•訂正)

以前の記事『数とは何か』と『「数とは何か」における用語について』の内容を取捨選択しまとめて, 再論してみようと思う. 以下の記述は『新訂版 数理解析学概論』による. この本については文末に付すリンク先にあるAmazonのレビューも参照されたい.

以下, かなり長くなるが, 段階ごとに読むか時間が充分ある時に読んでみていただきたい.

代数学では, ほぼ全ての数学の分野が
・集合
・その集合に定まる数学的構造
・集合と集合の間の数学的構造を保つ写像(要素の間の構造を保つ規則的な対応)
によって記述されている. このことは現代数学を学ばれている方々には周知の事実であろう.

『数とは何か』を考察するためには, そもそも現代数学において数学的概念がどのように定義されているかを見直さなければならない.

代数学では, ほぼ全ての概念が, おおむね
・何らかの方法によって構成されたか存在を仮定した集合の要素
・何らかの定理によって存在が保証された何らかの集合の要素
・集合と集合の間の然るべき性質を持つ写像
によって定義されている. ここでは, ひとつめとふたつめの考え方に従うことにする.

誰もが無理数を学んだ時に『循環しない無限小数は本当にあるのだろうか』と思わなかっただろうか. 高校数学の範囲内で√2が無理数であることは証明できても√2が実数であることは高校数学の範囲では厳密に証明できない. ひとつの理由は『数』が未定義だからである. また, 複素数を学んだ時に虚数単位iの導入によっては複素数が受け入れ難い概念ではなかっただろうか. これもひとつの理由は『数』が未定義だからである. しかし『数』を厳密に定義することは, 以下にも述べるようにひとことで表せる物ではない. 高校数学の検定教科書と学習参考書には, せめて定義の不備と数の定義の難しさを明記するべきであり, 内容によってはコラムで紹介すべきであろう. しかし数学教育の話は今回はさておき, 数とは何か, 私が考えた数学的な答えを書いていこうと思う.

まず集合を厳密に定義しなければならない. しかしそれを完全に述べるより本質的な考え方のみを述べるほうがわかりやすいであろう.

集合は, 直観的に言うと『範囲が明確な物の集まり』である. しかしこの定義からは集合論においていくつもパラドックスが発生した.『普通の数学』をする上では困らないものだが, 今回はこのパラドックスに関わる公理と概念を必要とする. つまり, ここでは集合は『集合という概念が満たすべき性質を挙げたいくつかの前提を認めることにして』公理的に(いくつかの性質を満たす物として)集合を述べたい. 有名なものは, ZF公理系とそれに選択公理を付け加えたZFC公理系, およびZFC公理系に類の公理を最初に付け加えたものと同値なGB公理系である. 話を簡単にするためにZFC公理系について, その中からいくつか抜き出して, 本質にある考え方を述べてみよう.

・要素が同じ集合は等しい(外延性公理)
・要素を持たない集合が存在する(空集合の公理)
・任意のふたつの物に対してそれらだけから成る集合が存在する(非順序対の公理)
・任意の集合族(要素が集合である集合)に対してその全ての要素の和集合が存在する(和集合の公理)
・或る無限集合が存在する(無限公理の本質)
・任意の写像について, 定義域が集合ならば, その像は集合である(置換公理の言い換え)
・任意の集合は自分自身を構成に含まない(正則性公理の本質)
・任意の集合に対してその全ての部分集合から成る集まりは集合である(冪集合の公理)
・任意の集合族で, その全ての要素が空集合ではなく互いに素である物に対して, その集合族からひとつずつ要素を選び出して作った集合が存在する(選択公理

細かい説明はあえてしないが, これらを認めると, 例えばふたつの集合または集合族の全ての要素に対する和集合の存在や共通部分の存在あるいは直積集合の存在や点列の構成などの正当性が保証され, 現代数学において暗黙のうちに前提としている集合に関する操作が正当化されるのである.

次に数とは何か考えるために必要な数学的構造の説明をしよう. 以下でも厳密性は追及しない.

空でない集合S上の関係Rとは, Sの任意の要素 a, b に対して, 組(a, b)が満たすか満たさないを判定できる規則Rのことをいう. (a, b)がRを満たすときaRbと書く. 例えばSを平面図形(或る平面上の点の集合:線分・直線・三角形・四角形の周と内部の和集合・円板など)全体の集合Pとするとき, Pにおける関係として相等関係=や合同関係≡あるいは相似関係∽や包含関係⊂がありうる.

空でない集合Sに定義された関係Rが順序関係または単に順序であるとは, Sの任意の要素 a, b, c に対して
aRa は成り立たず,
aRb かつ bRc ならば aRc(推移律)
を満たすことである. 例えば上の例でPにおいて真部分集合の包含関係⊂は順序関係である. また後述の自然数全体の集合Nにおいて大小関係<は順序関係である. 順序が定義された集合を順序集合という.

順序集合Sにおける順序関係Rが, Sの任意の要素a, bに対して
aRb または bRa または a=b
ときRはSにおける全順序関係または単に全順序という(この場での定義であり一般の物とは異なる). 全順序が定まっている集合を全順序集合という. またSを全順序集合とするとき, Sの任意の空でない部分集合が最も小さい要素を持つならば, Sは整列集合であるという.

また, 順序の推移律とはことなるが, 集合Sが推移的であるとは, B∈S, A∈BならばA∈Sとなることである.

ここで空集合の公理と外延性公理により一意存在が保証されている空集合{}を用いて自然数を直観的に構成する方法がある. 後の都合上この定義を選ぶ. これは非順序対の公理と無限公理を表に出すように書けば以下のようになる:

0={}, 1={0}, 2={0, 1}, 3={0, 1, 2}, ….

0∈1∈2∈3∈…, つまり任意の自然数 n に対して m∈n, ℓ∈m ならば ℓ∈n. すなわちNは推移的である. またNの∈についての任意の空でない全順序部分集合は∈について最も小さい要素を持つ. 例えばNの部分集合{1, 2, 3, 5, 7}は∈について1が最小の要素である. これらはまさに順序数が持つ性質である. 

空でない集合αが∈を順序関係とする順序集合であり, αが推移的かつ∈についてαが整列集合であるとき, αを順序数という.

また先述の選択公理は次の整列可能定理と同値である:

任意の空でない集合は適当な順序により整列集合とすることができる.

任意の整列集合にはただひとつの順序数が対応しその整列集合と「順序同型」となる.

整列可能定理を演算(和, 積, 定数倍, など)の定まった集合に適用するとき, この順序はその演算と整合性のある物とは限らず, また具体的に論理式で記述できるとも限らない. しかし整数全体の集合Zにも, 有理数全体の集合Qにも, 実数全体の集合Rにも, これらが整列集合となるような順序が定められるのである(それは大小関係とは異なるが).

そしてQの切断全体の集合とするRの構成は, 順序数の基本的な性質と並行しているのである. 例えばQの切断αの定義に含まれる或るひとつの条件は整列集合Sの切片Bの定義に類似している. 上では<をSの順序, 下では有理数の大小関係とする時, 
[ x∈B ∧ y∈S, y<x] ⇒ y∈B
[ r∈α ∧ s∈Q, s<r] ⇒ s∈α (他に2条件がある)
有理数rから成る主切断r*と有理数の同一視は, αが順序数でx∈αならばx={y∈α | y<x}={y∈α | y∈x}であることを基にしているように見える.
r*={p∈Q | p<r}
Qの切断によるRの構成については『新訂版 数理解析学概論』のレビューにて言及しておいたのでそれを参照されたい. 複素数や数ベクトルが実数の組であることを考え, またこれらも物理量などを表す数と考えると, 結局, 数とは順序数と類似した概念またはその組と言えるのではなかろうか. 実数全体の集合Rは順序数のような物として構成できる. その要素つまり実数は順序数にはならないが順序数と良く似た性質を持つのである.

(2022年7月25日追記)
この考えに関して, 超現実数という概念が存在するようである. また, 順序数についての和と積は交換法則を満たさない. そこについても, 順序数と実数とは異なる. またいくつかは一般の順序集合で成り立つ性質のようである.

私の最近の研究でも, 物理量を表す数には必然的に実数が表れることがわかった. やはり順序数の概念が数とは何か答える上で重要なのは間違いないであろう:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2022/01/21/090916 .
『新訂版 数理解析学概論』