無限大は数か
無限大は普通に数学を学んでいれば高校数学Ⅲかそれに相当する段階で初めて現れる. そこでは当然直観的な認識で理解をするだろう. しかし日常生活における無限大という言葉の使われ方や高校数学Ⅲにおける極限に関する公式を見ていると, どうも無限大というものは, 数という論理的な概念または数と似たような扱いができる概念ではないかという気がしてくる. 実際数学では数と似た扱いをするか一種の数として定義する. ここで「数とは何か」が問題になるが, それについては前々回の記事「数学でいう数とは何か」を参照されたい.
例えば
lim_(x→0)sin(x)/x=1
と
lim_(x→+0)1/x=∞
を見比べたり,
lim_(x→+0)(1/x+cos(x))=∞
という式を見ると, ∞は単なる記号以上の意味がありそうだと誰もが思うのではないだろうか.
実際微分積分やルベーグ積分そして関数空間論や関数不等式などを扱う実解析という分野において正負の無限大±∞は以下の性質を満たす「値がいくらでも大きい現象を表す記号」あるいは「広義の実数」として定義される. 以下aは任意の実数とする.
-∞<a<+∞,
±∞+a=a+(±∞)=±∞,
a×(+∞)=(+∞)×a=+∞ (a>0), =0 (a=0),
a×(-∞)=(-∞)×a=-∞ (a>0),
a×(+∞)=(+∞)×a=-∞ (a<0),
a×(-∞)=(-∞)×a=+∞ (a<0),
0×(±∞)=(±∞)×0=0,
±∞±(±∞)=±∞ (複号同順),
a±(±∞)=±∞ (複号同順).
場合に応じてさらに追加されたり減らすこともあるが, 数列や関数の絶対値がいくらでも大きくなる現象が絡む数学では, このように約束する. これは高校数学Ⅲにおける極限の計算とも整合性がある. もちろん+∞-(+∞)といった任意の値になりうる不定形に相当する場合は定義しない.
このように考えると, 無限大は数であるかは非常に微妙な問題である. 前々回の記事の立場を保持するなら無限大は数ではないと言えるが, 数と似た性質を持っており実際に実解析では実数と同列に扱うことが多いのである. しかし実数の持つ重要な性質のいくつかを∞は持っていない.
複素数関数の微分積分あるいは複素多様体から複素多様体への写像を考察する複素解析では∞は「無限遠点」として複素平面Cのコンパクト化をするために定義されており, やはり複素数との算法規則c+∞=∞+c=c/0=∞(∀c∈C)などが定められている. しかしやはり数と言えるかは微妙な問題である. 変数や関数値が無限遠点になる場合も複素解析では考えられるが, やはり複素数の持つ性質のうち重要な物を持っていないからである.
一方, 無限大を数として定義する方法もある. 超準解析において, 正の無限大数は任意の自然数よりも大きい超実数として定義されている. 超実数は数と考えて良いと俺は思う. 超実数の厳密な定義に触れるわけにはいかないので超実数体*Rの直観的な本質を取り出してあえて不正解な定義を書いてこの記事を終わりにしよう. 無限大は数か, 俺にはまだ結論は出せない.
Nを自然数の成す集合とする. (例えば a_n=√n, b_n=log(n) とするとき, 通常の意味で lim(a_n)=lim(b_n) であるが, ここでは lim(a_n)>lim(b_n) とみる. )
*R={ lim_(n→∞)a_n | (a_n):N→R, lim(a_n)=lim(b_n) :⇔ ∃n'∈N, ∀n≧n', a_n=b_n }.