新訂版序文の人のブログ

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川久保「線形代数学」のレビュー(Amazonから転記)

行列と線型写像および固有値問題と計量線型空間については数学が得意な初学者にとってはわかりやすいであろう. 商空間については図説が理解に役立つことは間違いない.

しかし, 演算と計算結果を混同させており, 集合と写像について細かい重要な説明が省略されている所がいくつかあり, 行列→線型写像行列式という流れにおいて行列式の可視化が2次元の場合しか明確ではなく説明も不充分である. また行列式の章から急に取っ付きにくくなる. そして数学の理論上重要かつ線型代数の理解のためにも重要な線型空間のいくつかの例および和空間と共通部分が本文にはなく問題に回されており, 双対空間も正規変換のスペクトル分解のどちらも扱われていない. さらに旧課程の高校数学Cにあった行列と線型変換を既知としている記述もある.

これらのことを踏まえると, 最低限の集合と写像の用語を明確にして行列の導入から始め行列と行列式の可視化と数学的に重要な幾何的意味が明確かつ行列式の章が短く簡潔であり線型空間の章が充実しており双対空間も商空間もスペクトル分解も扱われている上に附録で整数と有理数と実数と複素数の簡単な構成もしている, 齋藤正彦氏の「線型代数入門」(https://pdem.hatenadiary.com/entry/36861878)のほうが線型代数の入門書としても数学それ自体の入門書としても優れているので,「線型代数入門」をおすすめしたい. 私は「線型代数入門」で理論的な線型代数を初めて理解できた上に数学的思考力も身に付いた.


本書も読んで損はないくらいていねいに書かれてあるので良くない本ではないが,「ビジュアル化」が必ずしも明確ではないという印象を受けた.

自作正誤表.

44ページ目 上から2行目
Im f は0以上の実数であるから
↓正
Im f の元は0以上の実数であるから

46ページ目 下から1行目
が成り立つときにいう
↓正
が成り立つことをいう

47ページ目 上2
ゼロベクトルに写す→ゼロベクトルに写る

61ページ目 問題4.
行列表現→表現行列

83ページ目 証明 上7
…であるようなkがある→…であるようなkがあるとする

104ページ目 証明 上4
各x_iを1次と見て→各x_iを1次式と見て

125ページ目 上5
…ときにいう→…ことをいう

130ページ 証明 (3)⇒(2) 上4
が成り立つ→が成り立つとする

143ページ目 証明
「dimU=mとする. 」が抜けている.

152ページ目 基底の変更と表現行列
行列表現→表現行列

161ページ目 下1
1次独立式→1次独立

163ページ目 下2
和とスカラー倍を定義して→和とスカラー倍を定義すると


(Amazonでは埋もれてしまったのでこちらに転記した)

数学ではなぜ0で割ってはいけないのか(4月30日7:14 最終推敲)

実は, 数学でも0で割ることはある. ただし, 例外的かつ便宜上である.


まず, あえてありきたりな説明をする. それには一理あるが問題点もあるからである.


反比例の関数y=1/xを考えてみたい(グラフは下にある). まず関数とは何か考えよう. 座標平面(xy平面)を想像してほしい. 数直線(いわゆるx軸)の或る区間の全ての数xに対して, 別の数直線(いわゆるy軸)への対応があり, xに対してただ一つyの値が定まるとき, yはxの関数であるという. このときxを独立変数, yを従属変数という. x軸やy軸は実数(real number)全体の集合(Rと表す)であり区間はその部分集合であるから, 関数とはRの部分集合の要素にRの要素をただ一つ対応させる物とみなすことができる. この観点では, 関数とは或る集合の全ての要素に(一般には別の)集合の要素をただ一つ対応させる物とみなすことができる. この考えは後ほど再考する.


さて, 関数y=1/x(変数xの分子と分母をひっくりかえした分数を対応させる関数)のx=0付近の関数値を調べよう. (^は累乗を表す)

x=0.1=1/10とすると, y=10となる. 

x=0.01=1/100=1/(10^2)とすると, y=100となる.

x=0.0001=1/10000=1/(10^4)とすると,

y=10000となる.

x=0.00000001=1/100000000=1/(10^8)とすると, y=100000000=10^8となる.

このように, x>0の範囲でxを0に近づけていくと, 関数y=1/xの値yはいくらでも大きくなる.

では, x<0の範囲でxを0に近づいてみよう.


x=−0.1=−1/10とすると, y=−10となる. 

x=−0.01=−1/100=−1/(10^2)とすると, y=−100となる.

x=−0.0001=−1/10000=−1/(10^4)とすると, y=−10000となる.

x=−0.00000001=−1/100000000=−1/(10^8)とすると, y=−100000000=−10^8となる.

これらのことから, x≠0の範囲で定義された関数y=1/xを, x=0でも「うまく」定義することは不可能に思えてくるであろう. それは, x>0でxを0に近づけるとyの値はいくらでも大きくなり, まさに数学で言う正の無限大に発散する(つまりy>0でyの値がいくらでも大きくなる)ことだけではなく, x<0でxを0に近づけるとyの値は負で絶対値がいくらでも大きくなり, まさに数学で言う負の無限大に発散する(つまりy<0で絶対値|y|がいくらでも大きくなる)ことによる.「うまく」とは, 難しく言ってしまえば, 関数y=1/xがx=0でも連続であるように(簡単に言うとグラフが点(0, 1/0)でもつながっているように)1/0を定義できないということである. 特定の近づけ方について考えたが, どのような近づけ方でも同様であることが知られている. これはaを0でない定数としてy=a/xを考えても同様である(a<0の場合はyの正負が上述と入れ替わるが得られる結論は同じである). 1/0が「うまく」定義できないのだから, 当然3/0とか−4/0なども「うまく」定義できない. 反比例の関数のグラフをご存知の方は, x=0での値をどのように定めてもx=0でグラフはつながっていないことがすぐにわかるだろう.

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しかしこれは, 0で割ることを「うまく」定義できない理由, 特に関数y=1/xがx=0でも連続であるように定義できない理由であり, 0で割ることを定義できない理由ではないのである. ありきたりな説明をしたが, このような問題点があることは広く知られてほしい. グラフによる説明をしても, それは論理によって説明したことにならない. これは2変数関数z=x^yを(x, y)=(0, 0)でも連続であるように定義できない理由が, 0^0を定義できない理由ではないことに本質的に同じである. ちなみに多くの場合, 0^0は1と暗黙の了解で定義されている. それについては後日話そう.


では, なぜ通常の数学では0で割ることを四則演算の定義から除外するのか. 話は単純である. まず0とは, 任意の実数aに対してa+0=aを満たす実数として定義される. つまり, 少し厳密に言うと,「任意の数aに対してa+0=aを満たす数」が0という言葉の意味である. これと分配法則と減法の定義から, 「0a=0」が証明される. 本当は数(すなわち実数)の厳密な定義から話をしたいが, とりあえず「0にどんな数をかけても0である」というのは定義ではなく定理であり本当は証明が必要ということだけ知っておいていただきたい. これを利用すれば, 説明は簡単である.


まず, どんな数aに対してもa/0が定義できるとする. 0に何をかけても0なので,

(a/0)×0=0

が成り立つ. 一方, 0で約分ができるので(厳密には除法の定義: a/bとはbx=aの解xであることより(a/b)×b=aが成り立つので)

(a/0)×0=a

ゆえに

a=(a/0)×0=0

つまり「どんな数も0に等しい」という結論が得られる. これは当然成り立たない. 成り立たない結論が得られたのは数を0で割ることができると仮定したからである. つまり, 零環(1=0を仮定する, ゆえに全ての要素aと0が等しい(a=a×1=a×0=0)ような集合)のような例外的な数学を好き好む訳ではない限り, 0で割ることは認めないのが普通である. 零環を環論の例外とすることも, これが背景にあるのである.


しかし, もちろんこれは数を実数の範囲で考えるからで, 複素数の範囲で考え, リーマン球面(集合としては複素平面Cに無限遠点∞を加えたものC∪{∞})における, 独立変数も従属変数も複素数とした複素関数の理論において, 便宜上, 全ての複素数cに対して

c+∞=∞+c=∞,

c×∞=∞×c=∞,

c/0=∞, c/∞=0

と定義する(複素解析を知っている人向けに言うと, 無限遠点∞は実部または虚部の少なくとも一方の絶対値が正の無限大+∞の「複素数」であるから, こう定義するのは自然であろう). つまりリーマン球面からリーマン球面への関数は通常の複素数の四則演算に加えてこれらの演算も加味されて定義されている. もちろんこれは0で割ってはいるが, あくまで理論を見通し良くするための便宜上の定義に過ぎない. リーマン球面ではなく複素平面においては, 当然0では割れない. それは上の論法を繰り返せばわかる.


肝心の複素数とは何か, について話すとまた話が脱線するし, ありきたりな説明をしても多分納得のいく人は少ないので, 今回はこれぐらいに.


ちなみに海外では, 分数は分子から書き括線(かっせん)を引き, 分母を書く.

a/b は a over b, a divided by b,

1/2 は the harf,

1/3 は one third

と読む.


数とは何か考えた, こちらの記事も参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024

振り子の運動方程式θ''(t)=−sin(θ(t))の解の一意存在(4月30日訂正)

f:id:PDEM:20210421115250j:plain(t, θ)=(0, 0)の近傍でsinθ〜θと近似すれば

θ(t)=asin(t) (aは任意定数)

が近似解となることからわかるように, この方程式にはθ(0)=0, θ'(0)=1を満たす解θが存在することが予想される. それを, 常微分方程式の解の一意存在定理である, コーシー-リプシッツの定理の系を用いて証明してみた. なお物理定数はスケール変換で全て1とした. 振り子の長さをL, 重力加速度をgとすると

θ''(t)=−(g/L)sinθ

であるが, 解の一意存在の証明の際に−(g/L)は定数Kに吸収される.

分数の計算でなぜ通分が必要かなどの話

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(2枚目で線型代数の定理の自作証明がどうしても写ってしまうのはお許し願いたい. )


数学や数学を応用する場面では, 全体を「1」としたとき, 今考えている量が, それに対してどれくらいの割合(比率・濃度・密度, …)かを考えることが多々ある. 数学内部でも古典的確率論では必ず起こる事象の確率を1として, 個々の事象の確率を考える. 百分率では全体を1すなわち100%とし, 一部分の割合を0(=0/100)以上1(=100/100)以下の数値で表す. 例えば33.333…%=33/100である.

分数とは, 全体を「1」としたとき, 今考えている量が, それに対してどれくらいの割合(比率・濃度・密度, …)かを表す数である.

ゆえに, 分数は約分ができる. 例えば

(2×3×5)/(3×5×7) (a/bはb分のa)

は比率としては

2/7

に等しい.

これを踏まえて, 分数の足し算と引き算で通分が必要な理由と, 掛け算では通分は要らない理由, そして分数の割り算で割る数の分母分子をひっくりかえす理由をまとめてみた. あえて文字式は使わなかった. 

数学が苦手な人は, 他にも

√7+√3=√10

のような「記号の足し算」の類をしてしまうが, 分数の計算を分子と分母の2変数関数R×(R−{0})→Rとみなしても, √を関数[0, ∞)→[0, ∞)とみても, これらは準同型写像にならない. 多くの関数は射ではないのである.

比について, a:b=c:dならばad=bcなのは, b≠0かつd≠0ならば

a:b=c:dとは本来はa/b=c/dの意味であるから, 両辺にbdを掛ければad=bcが得られる.

実際は既約分数a/b, c/dに対して

a/b+c/d=(ad+bc)/bd,

a/b×c/d=ac/bd

は定義であるが, なぜそう定義するのか考えるのも数学である. 減法と除法はここから定義される. すなわち

a/b−c/d=(ad−bc)/bd,

(a/b)/(c/d)=(a/b)(d/c)/(c/d)(d/c)=(a/b)(d/c)

=ad/bc.

連比と, なぜ0で割ってはいけないのか, 本当に0で割ってはいけないのかは, またの機会に.

青チャートのレビューと高校数学についての考察(Amazonから転記)

青チャートと赤チャートⅠ+Aの表紙裏の「三角形の成立条件」において「b-c<a<b+c」とあるが, 例えばb=2, c=3, a=1/2とすると, この不等式を満たすが, 仮定はbとcについて対称なので, bとcを入れ替えることが可能なはずだが, 入れ替えると左側の不等式は成り立ち得ない. 紙の上にこれらの長さを持つ線分を書いてみても(頭の中で思い浮かべても)明らかに三角形を作りえないことが分かるだろう.


以下は教科書とも共通点が多い内容の不備や誤謬である.

・実数の定義について

無理数を, 小数と(規則無く並ぶ数字(≠数)を途中から)連点(…)で表現することでは無理数を定義できない. 与えられた無理数に近い値の有理数を書いたことにしかならないからだ. 連点はあいまいな表現で, 規則が無いことを説明しない. 与えられた無理数(例えばπとしよう)に近い値の有理数はいくらでもある. (355/113, πの小数点以下を適当に切り捨てたもの, など. )

小数点以下に数を無限に規則性もなく並べたものが「数」であるのか, 疑問に思う人も多いのではないか. 数と言えば有理数までしか具体的に表現できないのに小数点以下の数字(≠数)の並びに規則が無いことに実感が湧かない人も多いのではないか.

私が旧高校1年生だった或る日の休み時間に高校数学Ⅲで学ぶ程度の積分の式とその値(計算の仕方は2変数関数の積分による)「√π」を黒板に書いたら, 友人に「√πってあるの?」と疑問を持たれた.

数直線に乗っている任意に選んだ点に対して或るひとつの実数が存在すると述べても, 点に対応する実数の存在を証明しないといけない.「直線には切れ目が無く」ても, 選んだ点に或るひとつの実数が必ず対応しているとは高校数学では証明不可能であり, 高校数学Ⅲにおいて学ぶ連続関数は全て存在しないことになる.

確かに直線には切れ目がないことを公理(理論の前提とする仮定)として(何なら現実にある線分を分子や原子の細かさで見た場合の隙間を数理モデル化するために無いとして)認めれば数直線という概念で実数を感覚的に理解できる.

だが, 本来なら「循環しない無限小数は, π, √2, √(π+2), 数学Ⅲで学ぶ『自然対数の底』e, e+√3, など無数に存在する『ことが知られて』いて, 実数を数直線上に並べたときには整数の並びにあるような隙間は無くなる『ことが知られている』」「数直線上の任意の点には必ず或る実数が対応する『ことが知られている』」というような, 理解の補助になるであろうことを, 脚注またはコラムで加筆するべきではないか?

無理数の存在が高校数学では説明できない. 例えば√2 が無理数であることの証明は高校数学の範囲内であるが, それはあくまで「『√2という実数が存在するならば(ここで√2は実数であることを前提としている)』√2は有理数無理数のどちらかで, 有理数であると仮定し既約分数で表されるとすると, 既約分数としての表示に反する結論が得られるため, √2は無理数でしかありえない」という意味である. √2が実数として存在するか否かについては何も言及していない.

「数」という世界は有理数のみで充分成り立っていると思う人は多いかもしれない. すると「有理数『でない』数」の突然な出現に困惑するのではないか.

さらに,「Ⅱ+B」における a(>0) を累乗する指数関数a^xの定義で, 無理数 √3 の累乗 a^(√3) を√3の(10進法による)小数表示を既知としているため, それを「知らないか, 知ることができないか, 使えない」立場になるとa^(√3)は定義不可能である. 「要求する精度に応えられる√3にいくらでも近い有理数が存在する」ことを暗黙の了解で用いているのだが, それは高校数学における無理数の定義「循環しない無限小数」に従い前もって述べておくべきだし, 遅くともここでは学ぶ人に疑問を持たせないために断り書きが必要であろう. もっと致命的な問題もある. 「『√3にいくらでも近い有理数は無限に存在する』が, 指数を√3に等しくなるように限りなく近づけるとき, 『√3への近づき方に依らず』に『必ず』或る『ひとつの』実数に限りなく近づく『ことが知られている』」かどうか不明なのである. もちろん(微分積分の土台である)実数の連続性により正しいことが分かる.

実数の連続性は, 実数を有理数から成るコーシー列と呼ばれる数列と極限の概念および同値関係と商集合など集合論の初歩的な概念により作られた新しい集合の要素と定義すれば(有理数全体の集合の完備化による定義), 定理として得られる. または, 四則演算と大小関係が定義可能でそれらが両立している集合(例えば有理数全体の集合)において「実数の連続性」が成り立つことを「仮定できる」(実数の連続性を公理とする, すなわち前提にすることができる)集合がひとつ存在すると認めて実数全体の集合を定義すれば, 公理となる. 実数の連続性の公理は, 複数あるが全て同値で, 例えば, 図形などの感覚的な概念を用いずに集合の初歩だけで数直線には切れ目がないことを論理的に表現したもの(デデキント切断), 値が大きくなっていく数列が或る充分大きな定数より常に小さいなら必ず或る値に限りなく近づく(無限に大きくならない)こと, がある.

こうすると, 以上の問題は全て解決される. もちろん以上を高校数学で必ず詳しく学ぶ必要はない. ただ, せめて「…」を書き足すだけで混乱は起きにくくなるのはないか?

・不等式について

不等式を解く(xについての不等式を解くとはその不等式を満たすxの範囲を求めること, と書いてある)のと, 不等式を最も簡単な形に変形することが混同されている. 不等式を解く問題で変形した不等式を書いて解答となるのは, これらの定義の間に関係がないことを意味する. 解を求めるのは変形するのと違うからだ. 故に,「青チャート」にある「なお」以下の不等式の解の定義「不等式を満たす全ての解の集まり(=不等式を満たす実数を要素とする集合)を, その不等式の解とする」を採用することが, 後の集合の節を読んでも妥当性が分かる. そもそも「範囲」という言葉が定義されていない. 範囲を求めるということは実に意味不明である. 集合の観点からは「合わせた範囲」は「和集合」に他ならない.「共通範囲」は「共通部分」である. 従って「不等式を解くとは, その不等式の解を要素とする集合を求めることである」と定義すると以上の問題は解決される. 実用上では現状の書き方が便利であるので, 「略式の記法である」ことを前もって言うべきだろう.

・高校数学Aの幾何学の定理の証明にも使われ, その他の単元でも使われる「集合と命題」について

集合を述べるためにヴェン図などの図と論理を使っていて, 集合については図を使わなくとも論理だけで説明できることを図を使って述べている. そもそも数学は論理で作られているのだから. 全体集合の2つの部分集合による4つの部分集合への分割やド・モルガンの法則の図説は, あくまで感覚的な説明であり証明ではない. 或る数学者もこのような教育に「だまされ」て四苦八苦したと回顧している. しかしどちらも高校数学の範囲内で証明可能なのである.

そして命題と条件の概念を述べるために集合とヴェン図を用いている. これは明らかな循環論法であり, 先に論理を(図を用いてもいいが)集合を使わずに述べないと, この誤った理論は正当化できないし, 例えば与えられた命題とその対偶の同値性や背理法の正当性も容易に証明できる. これはコラムで紹介すると疑問が晴れるはず. 知的好奇心を持つ人も現れると思う.

また高校数学では集合の具体例は実は「A」「Ⅱ+B」「Ⅲ」にも探せば多くある(※)のに, それを(ちゃんと「集合」と明記していても適切な記法を使わず)意識させず, 「集合」が「風化」しているから現に大学数学に最初からつまづく人が多いのだろうし, 余りにも少なすぎる具体例しか知らず, 集合に偏見を持つ人が多い.

せめて「これは本当は循環論法であり正しい内容は大学で学ぶ」という断り書きがあり, 集合を意識させるだけでも, 数学徒の疑問に応えられるし, 知的好奇心を持つ人が増えるはず.

(※)平面図形, 空間図形(立体図形), 関数のグラフ, 曲線, 領域は点の集合である. 適当な性質を持つ実数や複素数の集合あるいは式または関数の集合も取り入れても良かろう.

・データの分析について

xの値がx_1, … ,x_n
yの値がy_1, … ,y_n
であるとき, 相関係数の定義式は(矢印を使えないのでギリシャ文字の「クシー」と「エータ」を使い)高校数学Bの「ベクトル」の概念から見直すと, n個の互いに直交する座標軸からなる「n次元空間」内の「ベクトル」として)ベクトルξ=(x_1, … ,x_n)とη=(y_1, … ,y_n)の成す角と言える. xとyの相関係数とは, ξとηの「内積」を, ξの「長さ」とηの「長さ」で割ったもので, ξとηの各成分 x_1, … ,x_n;y_1, … ,y_n は実数だから, nが2と3の場合は高校数学Bにおける内積の定義から出る不等式で, n≧4の場合でも「線形代数」における内積の定義からみちびかれる(nが2と3の場合は青チャートにもある)「コーシー-シュワルツの不等式」により, 相関係数の値は-1以上1以下であることが分かり, 故に或る0≦θ≦180°(=π)によりcosθと表わされるからである. 幾何学的には, このような背景がある.

幾何学について

中学校で学ぶいくつかの図形の性質の復習から論理展開が始まるが, 例えば, 対頂角は互いに等しいこと, 三角形の合同条件, 三角形の相似条件, が公理なのか証明なしに認める定理なのか, 明記されていない. なぜ証明なしに用いていいのか疑問に思う人は多いかもしれない.

実はこれらは定理なのであるが, それについて言及している本は, 今は無き「黒本」の「大学への数学A」と中学生向けの参考書の本棚で1, 2冊と「なっとくする数学の証明」で見た程度しか確認できていない. せめて「実は公理(理論の前提として正しいと認められる命題)ではなく定理(公理と論理とそれまでの定理だけで正しいと示される命題)であるが, 証明は省略する」というを入れるべきであろう.

ちなみに「三平方の定理」は第二次世界大戦中の大日本帝国の国策により「ピタゴラスの定理」の代わりに生まれた. そしてピタゴラスの定理の証明は100種類以上が知られていて, アインシュタインアメリカの大統領までもが考えていて, 今の中学数学の教科書にある証明は或るインド人による. 昔は等積変形による難解な証明が掲げらていた. 「大学への数学」(黒本)で知ったが, 証明にピタゴラスの定理を使わない, 第1余弦定理を連立方程式とみなして, cosA, cosB, cosC について解くと, 余弦定理と同値な式が現れる.

空間図形(立体図形)については, 主に幾何学(を代表とする理工学系の研究者および建築学の研究)者(?)からの「幾何学的感覚および空間的認識能力を身につけてから, 大学に入学して欲しい」などの要請で初めて追加されたのだろう. まだ内容は薄いが, 古いチャート式シリーズや昭和時代から読み継がれている「モノグラフ」から問題を寄せ集めたのだろう. そして基本事項は「平行」という用語以外は全て集合論で定式化できる. 「平行」も高校数学Bのベクトルの概念を用いれば簡単に定式化できる. 大学数学も意識した新課程の高校数学では, 他にも, 図を使わずに式のみで説明できることは, 幾何の問題をベクトルにより代数的に解く場面以外にもあるかもしれない. さらにオイラーの多面体定理は大学の幾何の「幾何学的普遍量」の概念につながってゆくのだが, 幾何学者はそれを意識しているのだろう.

・初等整数論の初歩について

かなりよくできていると思う. 整数の性質を高等学校で学ぶのは, やはり代数学の研究者たちから「代数を学ぶ前にその準備体操を高校でさせないのは如何なることか」という疑問や, 大学側の「整数の性質を使った入試問題を出題しやすくして欲しい」という要請によるのだろう. 整数の性質を数検1級対策程度にしかしていなかった(しかも精力的にやらず殆んど投げ出していた)私でも時間をかければ理解できる. ユークリッドの互助法は既知であったが図説は新鮮だった. 合同式, 剰余類, 整数論の基本定理まで扱われているのは, 代数学整数論につながるので非常に良いと思う.

実は各「青チャート」の「参考事項」には純粋数学またはその応用として貴重なものや興味深い内容も少なくなかったので, 私は高校1年生の新課程の数学については, 本書を選んだ. 受験数学しか載せない本よりはずっといいと思う.



・指数関数の定義について

無理数の指数に対する指数関数の定義がない. 後に指数を実数の範囲で考えているのだから内容の不備である.

aを底とする変数がxの指数関数a^xに対してxが無理数の場合は, xに収束する有理数の数列(例えばxを10進法で表わして小数第n+1桁以下は切り捨ててできる有理数の列){r_n}を任意に一つ取り, a^x=lim_(n→∞)a^(r_n)と定義する. この定義は{r_n}の選び方によらないことは簡単に示せる.

例えば, 2を底とする指数関数2^xに対してx=πとしたいときは, 例えばπに収束する有理数の列{r_n}={ 3.1, 3.14, 3.141, 3.1415, …}をとり{ 2^(3.1), 2^(3.14), 2^(3.141), 2^(3.1415), …}が近づく値を2^πと定める.

π<4であり2^(r_n)<2^4と考えることができるから数列{2^(r_n)}は単調増加で上に有界なために実数の連続性により収束する.

実数の指数の場合にも指数法則は成り立つことが知られている.

積分法について

原始関数と不定積分を混同している. また, 定積分が面積を表すことを示す時には, 暗黙の了解で, 微分すると0になる関数は定数関数に限ることを既知としている. そして「数学Ⅲ」において「数学Ⅱで学んだように, 定積分を便宜上グラフとx軸で囲まれて作られる図形の面積として定義すると」とあるが, 高校数学ⅡにおいてもⅢにおいても原始関数の上端と下端での値の差で定義している上に, Ⅱで「定積分は面積を表す」ことを「定理」として「証明」している. (しかも積分法における平均値の定理も暗黙の了解で用いている. )

n次元ベクトル空間の理論につながるコラムがあるのは大変よいと思う. 平面は2個の線型独立なベクトルで張られ, 空間は3個の線型独立なベクトルで張られることを説明し, 平面を2次元ベクトル空間, 空間を3次元ベクトル空間と呼んでいる.

不定積分は原始関数であることの証明

f(x)は閉区間[a, b]上の連続関数とする.

不定積分F(x)=∫_[a, x]f(t)dtが任意のx∈[a, b]に対してF'(x)=f(x)であることを示す.

(F(x)=∫_[a, x]f(t)dtが関数f(x)の[a, b]における不定積分の定義. 下端が定数a, 上端が変数x, 積分記号の右下に積分範囲を書くのが積分論では一般的)

h>0とする. h<0なら適当に記号を書き換えればいい.

(F(x+h)-F(x))/h=(∫_[x, x+h]f(t)dt)/h.

積分法における平均値の定理」により(青チャートの節末問題など参照;「最大値の定理」「中間値の定理」からすぐに示せる;微分積分では有名)或るθ∈(0, 1)が存在して(或る0と1の間に有るθで以下のようなものが存在する:)

右辺=(f(x+θh)h)/h=f(x+θh).

h→0とすれば仮定(f(x)は変数xの連続関数であること)により右辺→f(x).

だから微分の定義によりF'(x)=f(x).

x∈[a, b]は任意だから([a, b]に属する実数xは任意に選べるから)不定積分F(x)はf(x)の原始関数である.

高校数学の範囲内であり微分積分学の基本公式とも面積との関係もなく定義と実数の連続性のみで証明された.

基本公式はf(x)が有界な閉区間で変数xの連続関数でない限り存在するとは限らないし, 数学の理論上面積は定積分で定義されているから面積と関連づけて面積という概念を使い証明したら循環論法になる.

なお(a, b]の形の(無限)左半開区間でも任意のb>α>aに対して(b>α>aであるような任意の定数αに対して)有界(な)閉区間[α, b]上で証明すればαは任意だからaにいくらでも近くできるゆえ(いくらでも-∞に飛ばせるゆえ)h→0の極限が存在すれば(a, b]で証明したことになる.

不定積分は原始関数である. 原始関数は概念として不定積分ではない.


「非線型発展方程式の実解析的方法」の3年程の研究の感想と成果(Amazonのレビューのコメント欄から転記)

f:id:PDEM:20201225190900j:plain(先日, Amazonではレビューへのコメントの機能が廃止された. はてなブログでは二重以上の括弧は脚注になるので多少記号を変えた. また細部の表現を改めたが殆んど変更はない. 元々パソコンで書いた物であり, 多少見にくいかもしれないが, ご容赦いただきたい. 非線型発展方程式を学ぶ人々のお役に立てればうれしい. 一般に方程式の解を求めさせる問題は解の存在が前提である. )

 

予備知識は, 微分方程式(コーシー-リプシッツの定理・非斉次線型連立1階常微分方程式の解法・定数係数斉次線型2階常微分方程式の解法), 位相(ユークリッド空間の位相, 稠密性, 距離空間の完備化), 実解析(ルベーグ測度, ルベーグ積分, 微分積分の入れ替え, 積分の順序の交換, フーリエ変換, 超関数), 関数解析(バナッハ空間・ヒルベルト空間・半群, の初歩・定義域が適当な関数空間で稠密な有界線型作用素のノルムを保存する拡張・射影作用素・リースの表現定理・ハーン-バナッハの定理)であるが, ストークス方程式やナビエ-ストークス方程式, そして移流拡散方程式を理解したするには, ベクトル解析が少しだけ要る. 結局, 偏微分方程式の解法理論にある, 摂動法と逐次近似法およびDuhamelの原理は, 文章に用語として現れている様子で, 意味を知らなくても結論自体は理解できる. 偏微分方程式に対する逐次近似法とDuhamelの原理は, 金子「偏微分方程式入門」に記されていた.

トークス方程式やナビエ-ストークス方程式については, ヘルムホルツ分解も知らないと理解しにくいと思う. 超関数や半群についても載っている本が少ないので, また式の意味が伝わりにくいので, 私としては第13章と第16章の分の紙数は, 超関数と半群の解説に割くべきだと思う. 超関数の補足事項ついて, 私はこの場に知識としても字数としても可能な限り書いた.

割と誤植が多い. 証明には計算が多く, 独特の技巧や論理の飛躍がある. 全体的に説明が短くて埋めるべき行間が広い. 高度な内容が続く割には解説が少ない気がする. 独学や単体では無理だと感じた. この本で解説が足りていない事項は, 参考文献にあるのかもしれない.

しかし, 最先端の実解析(フーリエ解析, 特異積分作用素, 超関数, 関数不等式, 関数空間論, およびこれらの融合)と簡単な関数解析で, 時間変数を含む半線型偏微分方程式(線型項と非線型項に分けられる方程式)の解の適切性(ただひとつで, 可微分性が高く導関数も連続な解で, 初期値の連続な変化に対応して連続に変化する解の存在問題:すなわち数理物理学の観点からは存在して当たり前な解の存在問題)を, 時には読み物風に証明を省略したり文章で解説して, 概要を把握できる. 読んでいて不思議に感じたりもするから, 微分方程式に興味がある人は, 眺めるだけでも, 数学の広さ・深さ・意外な関係に, 強い印象を受けると思う.

定義を覚えて, 命題や定理や系だけを理解するのは簡単だと思う. 証明を抜きにしても読めるし, 内容は全体を観てもかなり貴重である. 和書としては, 他には書かれていない内容が多い. 論文の紹介も多い. 読んでいると応用解析の世界に吸い込まれる. 英訳が出るべきである. 証明を抜きにしたら, 洋書・本格的な専門書・論文よりは簡単なはずだから, この本で準備体操をすると, 挑む時の困難が解消されるかもしれない.

私としては抽象的な理論も少しは述べて欲しかった. 例えば「これからの非線型偏微分方程式」;藤田-黒田-伊藤「関数解析」;溝畑「偏微分方程式論」;柴田-久保「非線形偏微分方程式」「応用解析ハンドブック」に書いてある.

予備知識それ自体は標準的なものを超えず詳しくて楽しかった. 線型斉次熱方程式(∂_t)u:=(∂u/∂t)=△u, 線型斉次波動方程式 ((∂_t)^2)(u:=(∂^2)u/∂(t^2)=△u, 線型斉次シュレディンガー方程式 i(∂_t)u=−△u は, 見かけはよく似ているのに, 物理学では分野が違うのが面白いと思う. 第3章にあるように, (∂_t)u=△u の解で時間変数 t を虚数単位 i を用いて it に変えると, i(∂_t)u=−△u の解になることには感激した. 本文に詳しい説明はないが, 波動方程式に特殊相対論的思考を織り交ぜたクライン-ゴルドン方程式((∂_t)^2)u−△u+mu=f は, 波動方程式と「きわめて類似の性質を持つ」らしい. もっと多くを知りたくなった.

第1章は数式を交えた前書きのようなものである. ここではLが生成する半群(の元)をe^(−Lt)と書いているが線型代数に従えばe^(−tL)と書くべきだと思う. この本の全体を通じて, e^(−tL)のtを時間区間 I で動かして作られる集合{e^(−tL)}_(t∈I)を半群と言うか, 略式にその元e^(−tL)を半群と言うかは, どちらかにするか, 1回前者の言い方をして2回目に略式の言い方をして, その後はずっと略式か決めるべきだと思う. 第20章は, 本文の方程式との関連で, 個性的な方程式として連立方程式に変形できるものと本文で解説した方程式の連立方程式の紹介をしている面白い後書きである.

この本を読むには, 少なくとも 「
実解析入門」「これからの非線型偏微分方程式」が必要だった. フーリエ変換と超関数については「実解析入門」「ベクトル解析から流体へ」「物理数学入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「ルベーグ積分論」「新訂版 数理解析学概論」 「偏微分方程式論」が参考になる.

線型作用素が生成する半群については参考になる和書に「これからの非線型偏微分方程式」(黒田)「
関数解析」「応用解析ハンドブック」(藤田-黒田-伊藤)「関数解析」がある.

関数空間としては, 台がコンパクトで滑らかな関数の空間, 数列空間, L^p空間, ソボレフ空間, 急減少関数の空間, 緩増加超関数の空間, 弱L^p空間, (斉次)ベゾフ空間, (斉次)トリーベル-リゾルキン空間, ローレンツ空間, (実解析流)ハーディー空間, BMO空間, VMO空間, これらの適当な組み合わせから成る実補間空間が主役である. ソボレフ空間については実解析流にフーリエ変換と緩増加超関数を用いた定義もある.

関数不等式としては, ソボレフの不等式など, 作用素を施された関数と元の関数(または別の作用素を施された関数)のノルムの関係, 空間と空間の包含関係を表す不等式, L^p-L^q評価, Strichartz-Brenner評価, 数理物理学に由来するエネルギー不等式, などがある.

扱われる方程式は, 熱方程式(∂_t)u−△u=f, シュレディンガー方程式 i(∂_t)u+△u=f, 波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u=f, ストークス方程式(∂_t)u−△u+▽p=0;div(u)=0, ナビエ-ストークス方程式(∂_t)u+(u・▽)u=△u−▽p;div(u)=0, KdV方程式(∂_t)v+((∂_x)^3)v+(v^m)(∂_x)v=0, 波動方程式と熱方程式が合わさっていると考えると, 式の形が面白い2次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=f, 移流拡散方程式系(∂_t)ρ−△ρ+κ▽・(ρ▽ψ)=0;−△ψ=ρである. KdV方程式の扱いはかなり少ないように思う. 第16章の非線型放物型方程式と楕円型方程式の連立系である移流拡散方程式系は他書にはなく新鮮だった. ただ, ナビエ-ストークス方程式と関係があると言われても釈然とせず, 数学的な重要性がよく伝わらなかった. どなたかのご教授を享けたい.

L^p-L^q評価は, ある関数空間で方程式を解くときに, 初期値が「あばれない」なら, 初期値の可微分性が時間の経過と共に向上することを言っている. 「これからの非線型偏微分方程式」によれば, 初期値が微分できなくても解は局所的には可微分性が高まることを言っている.

S-B評価の意味は, ある関数空間で, その方程式から定まる縮小写像不動点の存在を示す方法により解くとき, 初期値から成る項と非斉次項または非線型項が, 時空で「あばれない」と, 縮小写像を定める式の右辺が「あばれない」ことを言っている. 初期値があばれすぎなければ, 不動点の存在が示しやすいのだろう.

集合の補集合を表すための c は, その集合の左上に付いている.

関数空間について全体に出てくるものについて,

A(I;X)={ u:I∋t→u(t)∈X : || ||u(t)||_X ||_A(I) <∞},

C(I;X)={ u:I∋t→u(t)∈X | ∀τ∈I, lim_(t→τ) || u(t)−u(τ) ||_X =0 i.e. I∋t→u(t)∈X はXの位相で連続 },

C^1(I;X)={ u∈C(I;X) | ∃v∈C(I;X), ∀t∈I, u'(t)=v(t) i.e. I∋t→u(t)∈X
はXの位相でC^1級 }.

局所L^p空間(L^p)_loc(Ω)も任意にコンパクト集合を選ぶごとにそれを固定することによりノルム空間と解釈すると分かりやすい.

以下Ω⊆R^n上の関数の空間の表記X(Ω)でΩがR^nの場合はX(Ω)を簡単にXと書くことにする.

第2章では, ルベーグ空間, 数列空間, ソボレフ空間を定義して, イェンセンの不等式, ヘルダーの不等式, ミンコフスキーの不等式を述べた後, フーリエ変換を解説し, バナッハの不動点定理の証明で終わる. 緩増加超関数と超関数を定義しているが, 超関数については認知度が低い位相, 線型位相空間論の「帰納極限」で定義されていて, 緩増加超関数は位相を込めずに単に急減少関数の空間上の線型汎関数としているが, この本では問題なかった. 参考のために通常の定義を書いておく. ブラケットエックス〈x〉=√(1+|x|^2)と定義されている. |x|>>1なら〈x〉〜|x|そして〈・〉∈C^∞である.

急減少関数の空間 S={ φ∈C^∞ | ∀番号m≧0, ∀多重指数α, |α|≦m ⇒ lim_(|x|→∞) |〈x〉^m (D^α)φ(x)|=0

(⇔ sup_x |〈x〉^m (D^α)φ(x)|<∞),

limφ_n=φ in S :⇔ ∀m, ∀α, |α|≦m ⇒ lim_(n→∞) sup_x |〈x〉^m (D^α)[(φ_n)(x)−φ(x)]|=0 },

緩増加超関数の空間 S*={ f :S→C : linear, [ limφ_n=φ in S]⇒[ f(φ_n) →〈f, φ〉:=f(φ) ]}.

試験関数の空間 D(Ω)={ φ∈((C^∞)_0)(Ω) | limφ_n=φ in D(Ω) :⇔ コンパクトな∃K⊂Ω, ∀n, supp(φ_n)⊆K, ∀α, 一様に lim(D^α)(φ_n)=(D^α)φ },

超関数の空間 D*(Ω)={ f :D(Ω)→C | [ limφ_n=φ in D(Ω) ]⇒[ linear f(φ_n)→〈f, φ〉:=f(φ) ]}.

距離空間においては, 写像が連続であることは点列連続であることに同値であることを基にして, S*とD*(Ω)を定義していると考えるといいと思う. 詳しくは, 有向集合において, 点列が収束するための条件を定めることは位相を入れることに同値であることによる. (宮島「関数解析」;具体的には「帰納極限」による(「新訂版 数理解析学概論」. ))

まずδ∈D*の定義はむしろ〈δ, φ〉=〈δ(x), φ(x)〉:=φ(0) .

D⊂S, S*⊂D*.

f, 〈f, φ〉について, φの変数がξであるときfをξを変数とする関数に作用させるときはこれらをf(ξ),〈f(ξ), φ(ξ)〉と表わす. そう書くと第3章と第15章は分かりやすくなると思うし精確である.

f の α による微分は (D^α)f :⇔ ∀φ, 〈 (D^α)f, φ 〉:=(−1)^|α|〈 f, (D^α)φ 〉である.

関数の超関数の意味での微分の定義において, 本文では(L^1)_loc関数の微分∈L^1としているが実は∈(L^1)_locである. 後に使われている多重指数を用いた標準的なものを書いておく. u∈(L^1)_locの多重指数αによる超関数の意味での微分 u_α とは

∃u_α∈(L^1)_loc, ∀φ∈(C^∞)_0,
∫ (u_α)(x)φ(x)dx
= (−1)^|α| ∫ u(x)(D^α)φ(x) dx .

感覚的には, u_αはuの|α|階微分を表現していると観て左辺を|α|回部分積分すると, uのα階微分を, uを直接αで微分せずに表現できるという意味である. u∈C^|α|ならば部分積分により u_α=(D^α)u a.e. となる.

fとC^∞級関数aとの積 af は af :⇔ ∀φ, 〈af, φ〉:=〈f, aφ〉で定められている. たたみ込み a*f は a*f :⇔ ∀x, (a*f)(x):=〈 f, a(x−・) 〉=〈 f(y), a(x−y) 〉で定義される. fが関数ならば, 以下に述べるように, fが超関数を定義することから, 関数のたたみ込みの定義と両立している. 超関数の微分の定義により a*f はC^∞級である. (「ベゾフ空間論」「楕円型・放物型偏微分方程式」. )

f∈S*のフーリエ変換 F[f]:⇔∀φ∈S, 〈 F[f], φ 〉:=〈 f, F[φ] 〉.

全てのf∈(L^1)_loc(Ω)に対して, 写像F:D(Ω)∋φ→∫_Ω f(x)φ(x)dx∈C とするとF∈D*(Ω), すなわちf∈(L^1)_loc(Ω)は超関数Fを定義する:〈F, φ〉:=∫_Ω f(x)φ(x)dx (φ∈D(Ω)). 変分法の基本補題により, 写像 f→F は殆んど至る所で単射で, F→f も単射なので, f←→F を同一視してf∈D*(Ω)と観て, 〈F, φ〉を〈f, φ〉で表わして (L^1)_loc(Ω)⊂D*(Ω) と観ている. 関数とそれが定める超関数の間の対応は, 線型性を保つので, この対応は殆んど至る所で単射かつ準同型写像(埋め込み写像)である. (付記:(L^1)_locが関数空間としては最も広く, 単に「関数」といえばこの空間の元とする. 変分法の基本補題ではなく, リースの表現定理を利用しても同一視できる. 「
ベゾフ空間論」の研究で発見した. )

本書ではD(Ω)をS, D*(Ω)をS*と考えてφ∈S, f∈S*としてよいと考えている.

fの台supp(f):={ x | ∀(xの開近傍)U_x, ∃φ, supp(φ)⊂U_x, 〈f, φ〉≠0 }である. fが関数ならば関数の台の定義 supp(f)=cl{ x | f(x)≠0 }(となる. (「ベゾフ空間論」「偏微分方程式論」と付録. )

ちなみに第3章について, (∂_t)G+LG=δ の解(∂_t+Lの基本解)Gを得ると, 台がコンパクトな超関数 f∈E* または台がコンパクトなC^∞級関数 f∈(C^∞)_0 に対して(∂_t)u+Lu=f の解はu=G*f∈D* または u=G*f∈C^∞で与えられる.

第3章では, フーリエ変換あるいは緩増加超関数またはそれらの併用で, 熱方程式, ストークス方程式, シュレディンガー方程式, 波動方程式の基本解を導出している. これらは後の章で用いる. 熱方程式(∂_t)u−△u=0 の基本解G_tで, t を it に変えると G_t が S_t になり, S_tがシュレディンガー方程式 i(∂_t)u+△u=0 の基本解になることには感動した. まさに熱力学と量子力学虚数単位 i により結ばれている. 「ベクトル解析から流体へ」によれば G_t→δ(t→0) in S* であることも面白い.

ここでは, 積分論における積分微分の入れ替えの定理と積分の順序の変更の定理を多用している. 私が確認した限りでは, 埋めるべき行間も含めると, 微分フーリエ変換フーリエ変換微分が8個の式で入れ替わり, フーリエ変換の積の積分フーリエ逆変換が元の関数のたたみ込みの積分になっている箇所が2つある.

そして〈f, φ〉を〈f(ξ), φ(ξ)〉と精確に書くと分かりやすいと思う. 超関数の偏微分方程式への応用を述べた和書で絶版でないものは, この本と井川「偏微分方程式論入門」「ベクトル解析から流体へ」しか知らない. 絶版書なら「偏微分方程式論」や「楕円型・放物型偏微分方程式」がある.

トークス方程式の基本解の導出では, 関数空間のヘルムホルツ分解を既知としているようにも感じた. 明確に解説するべきだと思う. ストークス方程式やナビエ-ストークス方程式の任意の解はdiv(u)=0なベクトルuと或る実数値関数pを用いて u+▽p と表わされる. 「ナヴィエ‐ストークス方程式の数理」「ベクトル解析から流体へ」および「Navier-Stokes方程式の解法」によれば

L^p=(L^p)_σ+G^p={ (C^∞)_0 の元でdivが0なもの全体のL^pノルムによる完備化 }+G^p={ u∈(L^p))^n | 超関数の意味でdiv(u)=0 }+{ ▽p∈(L^p)^n | p∈(L^p)_loc} (直和分解;p=2ならば直交分解) in R^n である.

シュレディンガー方程式の解の公式について, 応用解析では量子力学からの自然な要請で, 初期値と未知関数をL^2で考えるのと, 文脈からの推測では, 初期値 u_0∈(L^1)∩(L^2) であり, f(s)∈L^2を仮定すればu(t)∈L^2となるのであろう.

波動方程式の任意次元の解の公式でc>0としているが実はc≠0が正しくc<0にもなりうる. これは導出過程で時間変数∈Rであり2次元波動方程式の解の導出と後の章を観ることでも分かる. 外力や初期値が属する空間の決定には「高次元の解の公式と低次元の解の公式で整合性がなければならない」「連続関数の不定積分微分可能」「可微微分関数は連続関数」「外力と解が連続ならば初期値も必然的に連続」「初期値と解が連続ならば外力は必然的に連続」が背景にあるのだろうか?

3次元の解の公式の導出で, 充分な説明なしに((2π)^(1/2))^2と超関数δが現れているが, 導出を理解するには余分なので((2π)^(1/2))^2は無視してよい. 本文の式変形は,
〈F[δ], φ〉 =〈δ, F[φ]〉 =1/((2π)^(3/2))∫(e^(-ixξ))1φ(ξ)dξ|_(x=0) =〈1, φ〉
∴ F[δ]=1/((2π)^(3/2))
∴ F^(-1)[1]=((2π)^(3/2))δ
であることによる.

2次元の公式の導出では, β>1のときはβ=1+b(∃b>0)として α_+の代わりに −α_+を考えて(a^2)−(b^2)=(a−b)(a+b)を用いて評価するとα_<−β<−1, 1>−α_+>0を簡単に得て−1<α_+<0も簡単に得られた. β<−1のときはβ=−1−b(∃b>0)として同様に0<α_<1<α_+を簡単に得られた.

任意次元に対する公式は「物理数学入門」の他に「ベクトル解析から流体へ」にもある. 後者の付録には, クライン-ゴルドン方程式の特別な初期値問題の, 波動方程式の特別な初期値問題への帰着と任意次元に対する解の公式など, 興味深い解説もある.

第4章には, L^p空間より広い弱L^p空間, 実補間空間の根底にある実補間定理, ハーディー-リトルウッドの極大関数, L^p空間における分数階積分の評価式であるハーディー-リトルウッド-ソボレフの不等式, L^pにおける導関数の評価式であるソボレフの不等式やGagliardo-Nirenbergの不等式がある. 弱L^p空間については準ノルムの他にノルムも与えていてバナッハ空間としているのはいいと思う. S*によるソボレフ空間の定義があるが, L^p関数は緩増加超関数を定める)(L^p⊂S*(1≦p≦∞))(から, 定義式にある「f∈S*」を「f∈L^p」と考えた上で, ポテンシャルの定義式にあるフーリエ変換を, S*の意味で考えたものとすると, 定義が理解できると思う. (「ソボレフ空間の基礎と応用」. )

大関数については「実解析入門」「古典調和解析」「ベゾフ空間論」も参考にするといい. 「古典調和解析」には, 実補間定理の他にこの先にもある特異積分作用素BMO空間そしてカルデロン-ジグムンド分解の解説がある.

第5章では, 三線定理と複素補間定理を証明している. || f*g ||_r ≦|| f ||_p || g ||_q を複素補間定理を用いて証明する, その中で || f*g ||_p ≦|| f ||_p || g ||_1 を用いている. これは自明ではないが「実解析入門」と「ソボレフ空間の基礎と応用」などにこの不等式の証明がある. ハウスドルフ-ヤングの不等式は実はヤングの不等式で前者は「新版 ルベーグ積分関数解析」にもある. この章では複素補間定理における指数の代入が間違っている箇所が2か所あるので注意がいる. シュレディンガー方程式のL^p-L^q評価は「ベクトル解析から流体へ」も参考になる.

第6章では, Fourier multiplierとカルデロン-ジグムンド分解, 特異積分作用素を説明している. Carlson-Beurlingの不等式の証明は, 先ほど急にδが出てきたのと同じくらい, 論理が飛躍しすぎだと思う. そして, ヘルマンダー条件の証明で, 第7章で述べるリトルウッド-ペーリー分解を用いているのは, 違和感を持った. 確かに, 第7章の始めに定義が書いてあり, それを参考にすればいいのだが…できるなら先の章の内容を使わずに証明して欲しかった. 前者の不等式でも, この分解を用いようとしている. これらは数学書としてどうなのかと思う. 「後に第7章で述べる」くらいは書くべきだと思った.

第7章では, ベゾフ空間, トリーベル-リゾルキン空間, 実補間空間について解説されている. φが球対称という仮定は外せるかもしれない. ∀φ∈S, φ=Σ_(j∈Z) (φ_j*φ). すると(斉次)ベゾフ空間や(斉次)トリーベル-リゾルキン空間の定義の中の φ_j は, 直観で考えると f=Σ(φ_j)*f とみて, fを簡単な関数に分解する役割を担うと分かる. そしてsuppψ⊆{ξ:|ξ|≦2}. この4つの空間の定義はφやψの取り方によらずwell-definedである. (以上4つは「これからの非線型偏微分方程式」「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「ベゾフ空間論」による. )

ところで, 多項式関数p∈(L^1)_locだからP∈D*を定めている. 変数φ∈Sとすればルベーグの収束定理によりpはP∈S*を定める. そこでp∈S*とみている. (より精確には(L^1)_locの元は必ずしもS*の元ではない:多項式関数pは緩増加関数で, pφ∈S⊂L^1 とルベーグの収束定理を合わせてP∈S*が言える. )

斉次ベゾフ空間のノルムでは, 多項式関数の定める緩増加超関数の「ノルム」が0になってしまう. (「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」によれば|| f ||=0からsupp(F[f])⊆{0}となり f は多項式関数. )

そこで, 関数空間論では, 多項式関数の成す線型空間 P⊂S*とみて, 斉次ベゾフ空間と斉次トリーベル-リゾルキン空間を商空間 S*/P の元により定義している. 斉次ベゾフ空間の定義にある (S/{多項式})* は正しくはS*/Pである. 斉次トリーベル-リゾルキン空間の定義でも, f∈S*は正しくはf∈S*/Pである(「ベゾフ空間論」). なおルベーグの収束定理によれば, PはS*の位相で閉部分空間である.

ベゾフ空間とソボレフ空間の包含関係を述べているが, トリーベル-リゾルキン空間と, べゾフ空間・ソボレフ空間・ハーディー空間・BMO空間との包含関係については「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」に書いてある. 他の関数空間との包含関係については「べゾフ空間論」も参考になる.

実補間空間について. 線型位相空間 X, Yに対して, ある線型位相空間Zがあって, 連続な埋め込み X⊆Z, Y⊆Z があるとき, (X,Y)は両立組であるという. 両立組(X,Y)に対して, ある線型位相空間Zがあり, 連続な埋め込み X∩Y⊆Z⊆X+Y があるとき, ZはXとYの中間の空間であるという. X∩Y⊆Z⊆X+Y=span(X∪Y)という意味で, XとYを平面ベクトルとみて図を描くと, この定義は感覚的にも納得がいく.

実補間空間を「f∈S*に対して」定義しているが, 正しくは「f∈X+Yに対して」である. X, Yを含む最小の空間 X+Y のノルムは || f ||=inf{ || u ||_X +|| v ||_Y | f=u+v, u∈X, v∈Y }であり, X, Yに含まれる最大の空間 X∩Y のノルムに || f ||=|| f ||_X +|| f ||_Y ; =max{ || f ||_X, || f ||_Y }がある. これらは同値である.

(X_0, X_1)の実補間空間の定義を直観的に言うと, 0<θ<1, 0<p≦∞, 0<t<∞を用意して, (X_0)∩(X_1)と(X_0)+(X_1)の「中間のノルム」を, 時間変数tと中間を意味させる指数θを用いて定義し, そのt方向のL^pノルムが有限な空間として(X_0)と(X_1)の実補間空間(X_0 , X_1)_(θ, p) が定義されている.

「中間のノルム」は, 0<t<<1/2のときは X_0のノルムに近くなり, 0<t<1なら(X_0)+(X_1)と「同値でより小さい」ノルムになり, t=1のときに(X_0)+(X_1)のノルムに一致し, t>1ならば(X_0)+(X_1)でのノルムと「同値でより大きな」ノルムを用意して,

それに0<t<1ならば, t^−θ>1をかけて, t=1ならば1をかけて, t>1ならば 0<t^−θ<1をかけて, そのL^pノルムを算出する前に, 有用な関数不等式に含まれることもあり非常に緩やかに増加する関数 log(t) の変化率 1/t をかけて, 値とその変化率をうまく調節してから算出したL^pノルムが有限な関数の空間として定義しているのだろう. 定義式でt=1しかもp<∞なら1点での積分はその点における被積分関数の値と考えられるから(X_0)+(X_1)のノルムの定義式に等しくなる.

第8章では, 関数の再配列, それを用いた(L^p)(Ω)を拡張したローレンツ空間L^(p, σ)(Ω)を解説している. 1≦p≦∞ ⇒ L^(p, p)(Ω)=L^p(Ω)⊆L^(p, σ)(Ω). ハウスドルフ測度による集合の計測は「実解析入門」「ルベーグ積分講義」「ルベーグ積分論」などが参考になる.

第9章では, ハーディー空間 H^p とそのアトム分解, BMO空間とVMO空間, ハーディー-ソボレフ空間を説明している.

H^pの定義はL^1関数として扱うφの選び方によらずにwell-definedである)(「これからの非線型偏微分方程式」)(. L^1空間の近似単位元でもある軟化子 φ_λ については「実解析入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「偏微分方程式論」に解説があり参考になった. 1<p<∞ならば H^p=L^p である. だからかアトム分解については0<p≦1の場合に限っている. 個人的には1<p<∞の場合のアトム分解にも興味がある. F(・, s=0, p=1, σ=2)=H^1となり, H^p=L^p=F(・, s=0, p=p, σ=2)であるから, これらを包括して「ベゾフ空間論」が詳しそうである.

(H^1)*=BMO, (VMO)*=H^1を示しているが, ここではハーン-バナッハの定理とリースの表現定理を用いている. 関数解析の多くはない出番だと思う.

BMO空間については, 定数関数のBMOセミノルムが0になり, BMOセミノルムが0となる関数は, 殆んど至る所で定数関数となるが, ここでも他の資料でも, (L^p)_locを定数関数の空間で割ることはしていない. バナッハ空間にする必要がないからなのであろうか?

第10章からは, これらの諸論を基に第12章と第13章を除いて独立に書いてある.

第10章では, 分数冪ラプラシアンに対するハーディー空間によるL^p-L^q型評価を述べている. ここから線型作用素の生成する半群の理論が表面的に使われる.

2次元消散型準地衡流方程式 (∂_t)ω+κ((−△)^(θ/2))ω+(u・▽)ω=0;u=▽^⊥((−△)^(−1/2))ω により分数冪ラプラシアンを導入している. これが渦度ω(t)=rot(u(t))を用いた2次元ナビエ-ストークス方程式 (∂_t)ω−△ω+(u・▽)ω=0;u=▽^⊥((−△)^(−1))ω (κも指数の分母も1としてθも1としたもの)と類似の表現をしているのは非常に面白い. ここでは前者の方程式の適切性の概要を述べた後 (∂_t)u+((−△)^(θ/2))u=0 の初期値問題を扱う. 私としては流体力学の方程式として前者の方程式にも興味がある.

第11章では, 古典停留位相法と波動方程式のL^p-L^q評価の解説に充てられている. 関数空間の原子であるL^p空間がここまで役立つとは・・・意外でもありおどろきでもある.

第12章では, シュレディンガー方程式波動方程式のS-B評価を述べている. シュレディンガー方程式波動方程式に許容指数対を定義している. 第13章はその続編と言える. 私の考えでは, 初学の読者のためにも著者の前置きの通りにも, 13章の分量を超関数と半群に割くべきだと思う.

第14章では, 熱方程式の最大正則性原理を解説している. 実補間, L^p-L^q型評価, S-B評価を巧みに用いている. まさに実解析的である. 初めに抽象的な発展方程式の話があるので, 私としてはそういう話も多く書いて欲しかった.

第15章では, 準備のための非線型熱方程式と, ナビエ-ストークス方程式の適切性を解説している.

ここでもL^pのヘルムホルツ分解を暗黙のうちに用いている. これは前もって解説をするべきだと思う. この分解により, uの存在が言えれば, もうひとつの未知関数の存在が言える. ゆえに一般には, 作用素 P:L^p→(L^p)_σ から定まるストーク作用素 A=−P△ により (∂_t)u+Au+P((u・▽)u)=0 と変形して解析されている.

ナビエ-ストークス方程式については「ナヴィエ-ストークス方程式の数理」と「ナビエ-ストークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「Navier-Stokes方程式の解法」も詳しい. なお本書では弱解の定義式で誤植により右辺の符号が正しいものと逆になっていることには注意がいる. 弱解の定義式ではuをu(s), φをφ(s)と書くとよい. 第1章と同様にAが生成する半群(の元)をe^(−At)と書いているが線型代数に従ってe^(−tA)と書くべきだろう.

第15章にあるナビエ-ストークス方程式の弱解の定義式について. 内積を( ・|・)と書くと, このように考えても同値である:

(u_0 | φ(0))=∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))+(▽u(t) | ▽φ(t))+(u(t)・▽u(t) |φ(t))) dt

(著者, 小薗, 岡本)(抽象発展方程式の弱解の定義式に沿ったやり方. 本文と似ている. この方程式の場合は好ましくない)

 

(u_0 |φ(0))=∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))−(u(t) | △φ(t))+)((u(t)・▽)u(t) |φ(t)))) dt

((私, 柴田-久保 (「非線形偏微分方程式」189頁を参考にした)

(u(t) |φ(t))=(u_0 |φ(0))+∫_[0, t] (−(u(τ) | (∂_τ)φ(τ))−(u(τ) | △φ(τ))+)((u(τ)・▽)u(τ) |φ(τ)})) dτ

((私, 柴田) 抽象発展方程式の弱解の存在定理に沿った定義. 私はこれが最も好ましいと思う. 理由は私の「これからの非線型偏微分方程式」のレビューにある)

この分野の多くの研究者の悪い習慣だが u・▽u は本来は (u・▽)u と書くべきである. u が R^m 値なら ▽u を無理に定義しても, それが ∈R^(m^2) になるか, m次正方行列になってしまうからである. これもふまえて私は上述に整合性を保たせようとしている.

第17章では, シュレディンガー方程式とKdV方程式について, L^pを用いた適切性の話が書いてある. シュレディンガー方程式については, 第12章で述べた許容指数対というものを使っている. S-B評価を多用している. この本ではKdV方程式やその線型化のエアリー方程式の扱いが少ないのが残念である. 私の高校の恩師はKdV方程式について少し研究したようだが, 特に何か大きな話は聞けなかった.

第18章では, 私が興味を持つ波動方程式の適切性を説明している.

第19章では, 熱方程式と波動方程式が隠れている消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=(|u|^α)u が主役である. まず, この方程式とそれに関係が深い (∂_t)v−△v=(|v|^α)v の適切性の概要を述べて, 中盤で再び ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=(|u|^α)u の適切性を述べている. 3次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u+(∂_t)u=0の解は, t→∞とすると (∂_t)u−△u=0 と ((∂_t)^2)u−△u=0 の解の和になると述べられている. これは実に面白い.

第20章はあとがきである.

個人的には, 数学的にも面白い波動方程式と類似の性質を多く持つらしく, 見かけも似ているクライン-ゴルドン方程式 ((∂_t)^2)u−△u+mu=((|u|^(p−1))u, シュレディンガー方程式波動方程式の連立系であるZakharov方程式 i(∂_t)u+△u=uv; ((∂_t)^2)v−△v=△(|u|^2), シュレディンガー方程式とクライン-ゴルドン方程式の連立系であって中間子モデルを扱う湯川カップリングモデル i(∂_t)u+△u=uv; ((∂_t)^2)v−△v+mv=−|u|^2 に興味がある. 研究してみたかった.

[付録]

supp(f)が閉集合なのは, その補集合が開集合であることを言えばよい.

x∈supp(f)でないとすると, xの開近傍U(x)がとれてsupp(φ)⊂U(x)となる任意の関数φに対して〈f, φ〉=0とできる. U(x)に含まれる任意の点yをとると, U(x)はyの開近傍だから, U(x)をうまくとれば, 必ずy∈supp(f)とはならないようにできる. ゆえに U(x)⊆supp(f)^c となり, supp(f)^cは開集合だからsupp(f)は閉集合である.

fが関数のときA=closure of { x | f(x)≠0 }とする.

y∈Aでないとするとyの開近傍U(y)がとれて任意のz∈U(y)に対してf(z)=0となる. よってsupp(φ)⊂U(y)である任意の関数φに対して

〈f, φ〉=∫ f(x)φ(x) dx =0

であるからy∈supp(f)ではない. すなわちsupp(f)⊆Aである.

次にy∈Aとしてyの任意の開近傍U(y)をとる. U(y)∩A∋zでf(z)≠0となるものが存在する. f(z)はいっぱんには複素数だが, 実部と虚部に分けて考えればよいので, fはzの近傍で実数として一般性を失わない. よってfの連続性よりzのある近傍V(z)∋xでf(x)>0かf(x)<0. ゆえにsupp(φ)⊂V(z)である任意の関数φで0でないものに対して

〈f, φ〉=∫ f(x)φ(x)dx ≠0

だから, y∈supp(f)であり, A⊆supp(f)が成り立つ.

これらを合わせてA=supp(f)である.



ご参考になれば幸いです。(2017年3月23日最終推敲)

溝畑氏の「偏微分方程式論」についてはこちらを参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36613662

藤田-黒田-伊藤「関数解析」についてはこちらも参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36870412

超関数の定義の背景:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/05/10/202341

ナビエ-ストークス問題について:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/10/10/115841

北田先生の「新訂版 数理解析学概論」についてはこちら: https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E4%BB%A3%E6%95%B0/dp/476870462X/ref=cm_cr_srp_mb_rvw_txt?ie=UTF8