PDEMのブログ

新訂版序文の人のブログ

数学における3つの未解決のミレニアム懸賞問題速習(2020.10.26加筆)

この記事ではクレイ数学研究所から100万ドル(約1億円)の懸賞金がかけられた7つのミレニアム懸賞問題のうち3つについて話す.

1.リーマン予想

これは局所的なリーマンゼータ関数, すなわち変数を複素数sとし実部Re(s)>1の範囲で定義された, 自然数n≧1のs乗の逆数の無限和を関数値とする関数

Z(s)=Σ(n=1→∞)(1/(n^s)) (Re(s)>1)

複素平面全体に解析接続して得られる大域的なリーマンゼータ関数ζ(s)についての予想である. f:id:PDEM:20201026083920j:plain

解析接続とは簡単に言うと, 複素変数の関数としての微分可能性を保ちながら定義域を拡大することである. 実変数の関数では例えば座標平面に限られた範囲で描かれた関数のグラフを滑らかに伸ばすことで微分可能なまま定義域を自由に拡大できる. しかし複素変数の関数では微分可能性は非常に厳しい条件であり, 自由に拡大することはできない.

ζ(s)はZ(s)とは別物の関数で, ζ(s)は「自明な零点」として負の偶数を持つ. すなわちζ(s)は負の偶数で関数値が0になる. そして「自明でない零点」つまり負の偶数以外でζ(s)の値を0にする複素数sは全て

Re(s)=1/2

を満たすであろう, というものがリーマン予想である.

現在ではこれが正しいことを示唆しているかのような結果がいくつも出ている. 例えば, リーマン予想を満たすようなζ(s)の自明でない零点sは無限個存在することが知られている.

たまにZ(s)とζ(s)を意図的に混同して

1+2+3+…=−1/12

ということから解析接続を似非科学のように見たり意味のわからないことを言う人がいるが, 正しくは局所的なリーマンゼータ関数Z(s)と大域的なリーマンゼータ関数ζ(s)は別物なので,

1+2+3+…=∞

ζ(−1)=−1/12

である.

リーマン予想素粒子物理学と関係があるらしい.

2.ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ

この方程式は流体力学の基礎となる非線型連立偏微分方程式である. u(t, x, y, z)をxyz空間の或る領域の点と実数(時間)t>0を変数とする空間ベクトルに値をとる関数(いわば流体の速度ベクトル), p(t, x, y, z)を定義域は同様の実数値関数(いわば流体に加わる圧力)とすると

∂u/∂t+(u・▽)u−△u+▽p=0

div(u)=0

f:id:PDEM:20201026203136j:plain

という連立方程式である. ただし数学ではスケール変換で物理定数の絶対値を全て1とするのでそれに従った. 外力を考慮することもある. uの偏微分は各成分ごとに行うので, これは未知関数が3+1=4個(uの3つの成分とp)の方程式である.「ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ」は, 適当に初期値の属する関数空間と未知関数の属する関数空間を定めたとき, 任意の初期値に対して, 物理学的に意味のある解が存在するか, すなわち, ただ一つで, 何回でも微分可能で, 時間変数に制限がなく, 初期値の連続な変化に応じて解が連続的に変化するもの, が存在するかという問である. 実は大変都合が良いことに, uの存在が言えれば自動的にpの存在も言えることが知られている. これは超関数を使うとナビエ-ストークス方程式を未知関数がuだけの方程式に書き換えられること, 或いは関数解析的方法により未知関数の属する関数空間をuの成す空間と▽pの成す空間の直和に分解でき射影作用素によりuだけの方程式に帰着できることによる.

難しい話が続いたが, 数学では解を持たない方程式や解が無数にある方程式はいくらでもある. 常微分方程式でも非線型方程式は初期値によって解の存否や一意性は異なってくる. 偏微分方程式については定数係数線型方程式でも解が存在しない例がある. そもそも非線型偏微分方程式では解を計算で求めることは殆んど不可能である. そこで解の存在が示せれば, その方程式を近似して解くことの論理的背景かつ近似した方程式の解の存在の保証となる. つまり非線型偏微分方程式を線型偏微分方程式で近似して計算などにより解を近似することが机上の空論ではなくなる. ここでは偏微分方程式ではなく簡単な非線型常微分方程式と中学数学程度の代数方程式で, 方程式の解の一意性が成り立たない例や解が存在しない例を説明しよう. yをxの微分可能な実関数とする. 微分方程式

dy/dx=2√y

の解y=y(x)は変数分離法によりCを任意定数として

y(x)=x^2+2Cx+C^2

ここで初期条件y(0)=0を満たす解は

y(x)=x^2

が得られるが, 他に変数分離法を使う前に排除した定数関数

y(x)=0

があり, 初期値問題の解の一意性が成り立たない. また

x=√y−C

であるから, 例えば初期条件y(0)=−1を満たす解y(x)は存在しない. ゆえに初期条件によってはこの微分方程式は解も持たない. 以下, 微分を知らない人のために代数方程式で説明する. xとyを未知数とする.

0x=1

の解は存在しない. 仮に両辺を0で割ることができたとしてx=1/0が数とする. 0にどんな数かけても0であるという定理があるので, x=1/0を左辺に代入すると0=1となってしまい普通の数学に矛盾する.

0x=0,

2x+3y=4

4x+6y=8

の解は無数にある. 下の二元一次連立方程式については, 4x+6y=8が2x+3y=4と同じなので, tを実数として

(x, y)=(t, (4−2t)/3)

の形の実数の組が全てこの連立方程式の解となるからである. これはx=tとしてyについて解いて得られる. 図形的に言うとxy平面の2つの直線がたまたま一致し交点が無数にある状態である. また, 連立方程式

x+5y=6

x+5y=7

の解はxとyについてどんなに数を拡張しても存在しない. 連立方程式は複数の方程式を「かつ」で結びつけたものだから, 6=7が得られるがこれはありえないからである. 図形的に言うと2つの直線が平行であり交点が存在しない状態である.

話が逸れたが, 物理学では, 微分方程式の解は, 簡単に言うと「ただ一つ」で「微分可能」で「時間大域的」で「初期値の連続な変化に順応する」ようなものに物理学的意味がある. 短時間で値が発散する, すなわち「爆発」するナビエ-ストークス方程式の解の存在も知られているが, 時間変数に制限の無い解の存在はまだ知られていない. ただ, 日本人数学者の藤田と加藤が, ほぼ解決に近い結果を出している.「藤田-加藤の強解」が時間大域的であることが証明されたら, このミレニアム問題も解決する. ナビエ-ストークス方程式は人工血管や航空機や気象予測など流体が関わる多くの場面で使われている.

3.ヤン-ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題

これは主張に物理学が含まれるため完全な理解は私もできていない. しかしヤン-ミルズ方程式についてはやっと理解できたので, ヤン-ミルズ方程式についてだけ解説する.

まず微分形式というものを大雑把に説明する. 0次微分形式とは関数である. 1変数xの1次微分形式はf(x)dxの形の式が一例である. 2変数(x, y)の2次微分形式はf(x, y)dxdyの形の式が一例である. 3変数(x, y, z)の3次微分形式はf(x, y, z)dxdydzの形の式が一例である. 積分されるものは関数ではなく微分形式と考えることがある. また置換積分の際にいわゆる「dx=g'(t)dt」がよく現れるが, これも1次微分形式である.

xの微分可能な関数f(x)がx=aで極値をとるときf'(a)=0が成り立つ. aをf(x)の臨界点という. これは関数や微分形式を変数とする関数, つまり汎関数についても同様である. ヤン-ミルズ方程式は, ゲージ理論においてヤン-ミルズ汎関数の第一変分を0にする或る種の微分形式が満たす偏微分方程式である. 少しだけ詳しく言うと, 或るベクトル束(多様体の一種)Eに値をとる1次微分形式の「共変外微分」(微分作用素の一種)Dの随伴作用素をD*(Eに値をとる2次微分形式に対する微分作用素)とし, Eの接続(共変微分)から定まる接続形式から定まる曲率形式(Eに値をとる2次微分形式)Ωに対する偏微分方程式

D*Ω=0

である. f:id:PDEM:20201026091403j:plain

逆に曲率形式から接続形式が, 接続形式から接続が定まる. ヤン-ミルズ方程式を満たす曲率形式から定まる接続が, ヤン-ミルズ汎関数の臨界点である. Eが具体的に何かは微分幾何の詳しい知識が必要なので, ここでは或る多様体だと認識して頂きたい.

「ヤン-ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題」については私も詳しくは知らず, またリーマン予想やナビエ-ストークス方程式については数々の数学者たちの詳しい研究成果や本質的な具体例まで紹介したかったが, なるべく初等的な解説にしたかったので, このあたりにする. いつか日本人からミレニアム問題の解決者が現れることを願う.