序文とあとがきの人のブログ

画像はスマホでは拡大できます。記事の題名の下にあるタグをクリックまたはタップすると記事を細かく分類したページに移動します。最近は数学を語ることもあります。

数学を学ぶ全ての良き人々へ

最近, 数学を学ぶ人が増えている気がする. 数学の入門書も, 検定教科書や学習参考書とは書き方が違う物が多数出版されている. また私は, 私のAmazonレビューやブログ記事の勉強成果の記事が, 少しでも後継のためになればと思いながら書いているので, 今日は数学の初心者向けの話をしよう. 本の紹介と数学の内容と学び方について. どれも互いに関連し合っているので記事は分けない.


まず, 高校までの数学にしろ大学数学にしろ大学院の数学にしろ, 1冊や2冊の本だけで理解するのは難しいだろう. 私は高校数学だけでも4種類の学習参考書と4冊の検定教科書型参考書を基に学んだ. しかしそれらは全て絶版になったし, 学習指導要領の変更もあるので, 高校数学の本やそれを含む本を3冊だけ紹介しよう.


宮越「高校数学+α 基礎と論理の物語」

同「高校数学+α なっとくの線形代数

(どちらも共立出版)

吉田「オイラーの贈り物 人類の至宝e^iπ=−1を学ぶ」(東海大学出版会)


どれにも私のAmazonレビューがあるのでそれも参照されたい. どれも初歩からていねいに解説している. ただ高校数学を本当に全く知らない方は一度なんでもいいから学習参考書を(理解できるかどうかはともかく)読んでおくか, 宮越氏の1冊目をおすすめしたい.


現代の数学は, 集合と写像の言葉で記述されるので, 集合や関数や関数を一般化した写像の概念についてたくさんの具体例と共に理解しておくとよい. 宮越氏の2冊ではそれらにも言及されている.


ちなみに, 現代数学を俯瞰する圏論における物の集まりや射は必ずしも集合や写像とは限らないが, 集合や写像の言葉や例やそこから展開される現代数学を知らなければ理解できないであろう(自戒を込めて).


例えば実1変数実数値関数は数直線Rの部分集合からRの部分集合への対応, すなわち実数全体の集合Rの部分集合からRの部分集合への対応である. これはグラフが座標平面R×Rの部分集合であることから想像がつくであろう. なおここでの対応では関数値は変数の値を一つ定める毎にただ一つに定まるとする. そのような集合の間の対応が関数, より広く言って写像である. これぐらいの例ならまだ簡単だが, 例えば集合Xの部分集合全体の集合(冪集合)P(X)も集合となる. これは最初は想像がつきにくいのではなかろうか. 例えばXが平面ならばP(X)は平面図形全体の集合, Xが空間ならばP(X)は空間図形全体の集合である(「次元」が「退化」している場合, 例えば平面内の線分や点も平面図形とみなす). また, 微分は関数の集合から関数の集合への或る種の写像である. このように数学では論理でしか理解できない対象も多々現れるので(例えば無限次元空間), 論理で理解する練習もするとよい.


なお, 例えば「自然数全体の集合N」を「自然数の集合N」とかもっと略して「自然数N」と言うことも時々あるので注意されたい. 例えば宮越氏の本でも吉田氏の本でも「自然数全体の集合N」の意味で「自然数N」という記述がある. また, 実数値関数をR値関数, 一般に集合Aから集合Bへの写像を(A上の)B値関数と言うこともある. また, 例えば「定義域全体で微分不可能な連続関数」を「至る所微分不可能な連続関数」と言うことがある. ちなみにこのような関数は存在する. 高木関数とかワイエルシュトラス関数と呼ばれている. 強いて直観的に言うと定義域全体でグラフが尖っている連続曲線である.


関数やその微分積分は, 微分方程式という応用数学で多々現れる物の他に, 多様体という或る種の図形を記述するためにも使われる(実は多様体も例えば物理学にはよく出てくるらしいが). また図形の性質を調べるために代数学, すなわち(大雑把に言えば)要素に演算が定義された集合についての抽象的な理論の手法がよく使われる. そのうち線型性(せんけいせい)を取り出したのが線型代数(線形代数)である. 微分積分線型代数, 集合と写像(つまり初歩的な集合論), そして位相空間論が現代数学のどの分野を学ぶにもだいたい必要であるか補助になる.


ただいきなり厳密な数学はわからないと思う. 抽象的で論理性が高いからである. というか厳密な数学は本質的には論理だけで出来ている. しかし最初は直観的に理解しやすいほうがいいだろう. その大学数学の初歩で私がおすすめしたい本は


江川「大学1•2年生のためのすぐわかる数学」(東京図書)

小形「キーポイント 多変数の微分積分」(岩波書店)

藤岡「手を動かしてまなぶ 微分積分」(裳華房)

加藤「大学教養 微分積分」(数研出版)

黒田「微分積分」(共立出版)

庄田「集合•位相に親しむ」(現代数学社)

松坂「集合•位相入門」(岩波書店)

内田「集合と位相」(裳華房)

藤岡「手を動かしてまなぶ 集合と位相」(裳華房)

薩摩-四ツ谷「キーポイント 線形代数」(岩波書店, これだけは今のところAmazonレビューなし)

齋藤「線型代数入門」(東京大学出版会)


である. 特に, 本当に大学数学を何も知らなければ, 江川氏の本と庄田氏の本と加藤氏の本と薩摩-四ツ谷の2氏の本は最初に読むと良いだろう.


数学の本を読む際は, 最初から全ての証明や補題や難しい例を追うと論理展開がつかめずモチベーション低下や消失あるいはかえって浅い理解になることがある. 証明や補題や難しい例は, わからなければ後回しにして, まずは話の流れをつかんでから, 厳密に理解しなおすと良い. 実際, 数学は最初から厳密に構築されてきた学問ではないし, 例えば最初からε-論法を理解できた人はいない.


またε-論法がやっと理解できても「一様連続」や「一様収束」の理解には少し苦労するかもしれない. 一様連続とは直観的に言うと, 定義域の任意の2点間での関数値の違いがその2点の取り方に依らずに一定値以下, もっとくだけて言うと定義域の任意の2点間で激しく振動しない関数であり, 一様収束は関数列のグラフが定義域のどこでも極限関数のグラフにきれいに偏らずに近づくことである.


とりあえず言いたいことはだいたい言えたし長くなったので今日はこの辺で.

解析学に現れる半群とその応用(変更•加筆版)

数学の応用分野では時間変数tと空間変数xの多変数関数が現れる. t(つまりただの実変数)のこともあればt>0t≥0のこともあるそして空間変数xとはユークリッド空間^Nの変数である.

 

例えば, fを非斉次項または非線型項として

熱方程式

∂u/∂t−△uf,

シュレディンガー方程式

i ∂u/∂t△uf,

ナビエ-トークス方程式

∂u/∂t−△u▽p−(u•▽)uf

▽•u0

が挙げられる. (超関数の意味での微分▽pは消去できる. https://mathlog.info/articles/3433  参照. )

 

時間変数tと空間変数xの関数u(t, x)について, uを時間区間(区間)Iから関数空間(バナッハ空間などの線型位相空間)Xへの写像It→u(t)Xとみなすバナッハ空間とは完備なノルム空間である.

 

するとuについてバナッハ空間値の微分積分やバナッハ空間値の複素解析そして関数解析が使えるつまり時間変数とはパラメータ変数(ただの実変数), 空間変数とは^Nに属する変数である.

 

u自体が属する関数空間としては写像

It→u(t)X

Xの位相で連続な空間C^0(I; X), Xの位相でC^1級な関数の空間C^1(I; X)などがある. Iが有界区間, Xがバナッハ空間ならこれらは

|| u || = sup{ ||u(t)|| : t∈I}

|| u || = sup{ ||u(t)||+||∂u/∂t|| : t∈I} )

で再びバナッハ空間とな. C(I; X)の要素のリーマン積分は通常と同じ方法で(絶対値をノルムに置き換えて)定義され, C^1(I; X)の要素のtIについての微分も通常と同じ方法で定義される.

 

発展方程式(時間変数を含む偏微分方程式)関数解析の方法で解の構成をすることができるそのためには線型作用素の生成する連続半群(t∈[0, ∞)によって要素が連続的にパラメータ付けされた半群以下単に半群とも言う)が使われる.

 

線型作用素の生成する連続半群とは定数係数斉次(同次)線型連立常微分方程式の解の概念が根底にある. AN×N定数行列とし^N値未知関数の変数をt≥0とするとき行列の指数関数により,

du/dtAu0

の初期値u(0)^Nの解は

u(t)(e^(−tA))u(0)

で与えられるこのAをバナッハ空間の間(A:V→V)の定義域D(A)Vで稠密な閉作用素(AのグラフがV×V閉集合)として, uをバナッハ空間V値関数, u(0)をバナッハ空間D(A)の元としても有界線型作用素半群

{e^(−tA)}_(t≥0), e^(−tA):V→V

が生成されると

∂u/∂tAu0

の解u

u(t)(e^(−tA))u(0)

で与えられる. (半群の演算は作用素V→Vの合成とする. ) これを用いると外力項f(t)( もしくはuについての非線型f(u(t)) )を持つ発展方程式

∂u/∂tAuf

( ∂u/∂tAuf(u) )

の解u定数係数非斉次線型連立常微分方程式の解法と同様に

u(t)(e^(−tA))u(0)

∫_[0, t](e^(−(t−s)A))f(s)ds

( u(t)(e^(−tA))u(0)

∫_[0, t](e^(−(t−s)A))f(u(s))ds )

で与えられる(デュアメルの原理).

 

この積分方程式の一意解u或るバナッハ空間Yにおいて縮小写像Φ:Y→Y,

Φ[u](t)(e^(−tA))u(0)

∫_[0, t](e^(−(t−s)A))f(u(s))ds

不動点として構成するのが現代の発展方程式論の常套手段である. (Φ不動点uが存在すればΦ[u](t)u(t)だから両辺をt微分すればもとの方程式が得られる. ) なお多くの場合この意味での解は超関数の意味での解になっている.

 

特に或る1≤p<∞を用いて

f(u(s))|u(s)|^p

となっているとu(s)L^p(^N), またはソボレフ空間などのL^p(^N)の部分空間の要素となるように選ぶ必要があるここにもL^p空間の重要性がある.

 

微分作用素A, 初期値u(0), 外力項fについて様々な仮定を置くことにより解が構成される例えば非斉次項f(t)を持つ

∂u/∂tAuf

について

Xをバナッハ空間,

AX上の解析的半群を生成し,

fC^θ([0, ∞); X) (0<θ<1, ヘルダー連続)

とすると任意のu(0)Xに対して一意解

uC([0, ∞); X)C( (0, ∞); D(A))C^1((0, ∞); X)

が存在する. Aが生成する半群が連続半群だとしか言えない場合は少なくともu(0)D(A)までしか言えずu(0)Xとは限らない.

 

一般には解の構成で有界区間Iは小さく取らなければならない例えばナビエ-トークス方程式の半群積分方程式による解の構成では時間局所解しか得られておらず時間大域的となるためには初期値のノルムが小さくなければならないことが知られている.

 

解析的半群より条件が緩い連続半群について, 私の大好きなヒレ-吉田の定理がある.

 

バナッハ空間X上の線型作用素Aが

|| e^(−tA) ||  ≤ Me^(−βt)

を或る実定数M≥1, βをもって満たす連続半群の生成作用素であるための必要充分条件

(1) Aは定義域D(A)がXで稠密な閉作用素であり,

(2) 任意のλ>βはλ∈ρ(A)であり, 任意の自然数n≥0に対して

|| (λ−A)^(−n) || ≤ M(λ−β)^(−n)

が成り立つことである. ここで

ρ(A)はAのレゾルベント集合,

λ=λ id_X,

(λ−A)^(−n)は(λ−A)^(−1)のn回の合成である.

 

特にこの不等式

|| (λ−A)^(−n) || ≤ M(λ−β)^(−n)

の見た目がすごくきれいで美しいので, 私はヒレ-吉田の不等式と呼んでいる.

 

参考文献:

八木「放物型発展方程式とその応用(可解性の理論」(岩波書店)

黒田「関数解析」(共立出版)

藤田-黒田-伊藤「関数解析()

共著「これからの非線型偏微分方程式(日本評論社)

小川「非線型発展方程式の実解析的方法」(シュプリンガー・ジャパン)

超関数超入門 第二弾

δ(x)=0 (x≠0), δ(0)=∞, ∫_R δ(x)dx=1 を満たす関数δは存在しない. ただ近似的にそのような関数を作ることはできる. しかしいずれも反則的な項別積分をしなければならない.


仮にそのような関数δが存在するとして,

∫_R δ(x)φ(x)dx=φ(0)

に着目し, 積分の線型性と, φを変数と見た時の一様収束についての

φ→∫_R δ(x)φ(x)dx

連続性を見ると, 超関数の定義が見えてくる.


超関数の定義において, 1のKについてはKがコンパクト集合という意味である.


(L^1)_loc(^N)の関数の具体例は殆んど至る所で連続な実数値関数を思い浮かべると良いだろう. 実際, 殆んど至る所で連続な実数値関数はリーマン積分可能であり, それはルベーグ積分に等しい.


f, g∈(L^1)_loc(^N)が定める超関数[f]について, 変分法の基本補題(新訂版440ページ目, 定理17.15)より

∀φ∈D, [f](φ)=[g](φ) 

⇔ f(x)=g(x) a.e. x∈^N

なのでfとfが定める超関数[f]は同一視することができる. ゆえに同じ文字fで書いている.


超関数は超関数の意味では何回でも微分可能である. 書き忘れたが, 超関数の微分の定義において多重指数αの長さ|α|=α_1+…+α_N. fがC^∞級なら部分積分によりfの通常の意味の偏導関数は超関数の意味の導関数に一致する. αによる超関数の意味での微分またはαによるφ∈Dの微分を∂^α, 通常の意味の微分をD^αと書くと, 超関数の意味での微分の定義と部分積分により

〈 (∂^α)f, φ 〉

=(−1)^|α|〈 f, (∂^α)φ 〉

(−1)^|α|〈 f, (D^α)φ 〉

(−1)^|α| (−1)^|α| 〈 (D^α)f, φ 〉

〈 (D^α)f, φ 〉

これが任意のφ∈Dに対して成り立つので

(∂^α)f=(D^α)f.


応用については新訂版のレビュー(https://www.amazon.co.jp/gp/aw/review/476870462X/R11XNGNRDZB3SY?ref=pf_ov_at_pdctrvw_srp)も参照されたい.

分配法則から広がる「負×負=正」の話

小学生に分配法則がなぜ成り立つのか直観的に教えた時の写真が見つかったのと, 最近Twitterで「負×負=正」について話題になっていて, 言いたいことがあるのでそれを書く. 以下では厳密に数を定義する話は省略しているため, 完全に厳密な証明, そして一般論に従った証明はしない. その代わり直観的なわかりやすさを重視する. しかし正当化は厳密に数を定義すれば(それが一般人には難しいだろうけど)容易である.


まず, 負の数と負の数を掛けたら正の数になることを証明するには, 既成の数学では, これから説明するように, 0に負の数を掛けても0になることが言えないといけない. しかし実はこれは初等教育では検定教科書や学習参考書を含めて誰も教えてくれない. せいぜい「正の分数と0を掛けたら0になる」「0と0を掛けたら0になる」ことしかわかっていない. 突き詰めて言うと, 負の数と0の掛け算すら定義されていない. 小学校までは, 正の分数の四則演算と, これらのことしかわかっていない. それでも中学校ではいきなり負の数と0の掛け算が前置きもなく現れる. しかしここでは, 話を簡単にするため, 厳密な理論で正当化される「負の数と0の掛け算」は定まっている物と仮定する. また, 負の数と負の数を掛けたら正の数になることを示すには, (−1)×(−1)=1だけ示せればいいと言う人も少なくないが, そのためには, 正の数a, bに対して

(−1)a=−a

{(−1)×(−1)}(a×b)=(−a)×(−b)

が言えなければならない. 上の式の左辺はaの(−1)倍であり, 右辺はa+(−a)=0を満たす数(−a)である. つまりマイナスについて, 左辺はaの(−1)倍として, 右辺はaの符号を反転させる物として, 左辺と右辺で定義が違うのである. (ベクトル空間の言葉で厳密に言うと, 左辺はベクトルaのスカラー(−1)倍, 右辺はベクトルaの逆ベクトルである. ) 左辺と右辺で異なるマイナスを同じaに作用させたら同じ結果になることは明らかではないし, ここで数学がわからなくなった(元)中学生もいるのではないか. しかしこれの証明は話が脱線するのでとりあえず後回しにする. 下の式は, 負の数と正の数が混在していても, 上の式が成り立つと仮定したら, 交換法則と結合法則が成り立つことに含まれているが, それも明らかではない. しかし厳密には数(より正確に言うと実数)とは正負に関係なく交換法則と結合法則を含むいくつかの性質(公理系)を満たす物として定義されるので(そのように定義しても他の定義と同等), これも証明なしに認めることにする.


0に負の数を掛けたら0になることを証明しよう. aを正の数とする.

0×(−a)=0×(−a)+0×a (0×正の数=0より)

=0×{(−a)+a)} (分配法則より)

=0×0 (−aの定義より)

=0 (0に0を掛けたら0になるのは既知)

ゆえに最左辺と最右辺より0×(−a)=0となる. (初等教育に沿った記事なので, あえて環論でよくある証明は書かなかった. )


これを用いて(−a)×(−b)=a×bを証明しよう.

{(−a)×(−b)}−(a×b) (左辺−右辺=0を示したい)

={(−a)×(−b)}+(−1)(a×b) (「上の式」より)

={(−a)×(−b)}+{(−a)×b} (「上の式」より)

=(−a)×{(−b)+b} (分配法則)

=(−a)×0 (−bの定義より)

=0 (先程示した等式より)

ゆえに最左辺と最右辺より

{(−a)×(−b)}−(a×b)=0

だから(−a)×(−b)=a×bとなる.


そして, 保留しておいた「上の式」を示そう. aを正の数とする.

(−1)a+a (足すと0になることを言いたい)

=(−1)a+1a (厳密には1の定義式1a=aより)

={(−1)+1)}a (分配法則より)

=0a

=0

ゆえに最左辺と最右辺より(−1)a+a=0, だから

(−1)a=−a

が言えた.


以上は, 自然数を厳密に定義し, そこから整数, 有理数, 実数を順々に構成するか, 実数を公理系により定義すれば正当化されるが, 直観的にはもう明らかであろう.


なお, 負の数と負の数を掛けたら正の数になることを示すには

−(−a)=a

が示せればいいと言う人もいるが, これはaの逆ベクトルの逆ベクトルはもとのaという意味であり, つまり掛け算の話ではなく, 符号の反転の反転はもとに戻るという話だから, 根本的に意味が違う.


数学は誰でもわかる物ではない. 初等教育では色々と不充分である. これからも気が向いたら初等教育と専門の数学の間の断崖絶壁に階段を掛けてゆきたい.

算数の疑問と測度論

私は小学生の頃, 2つの図形を合わせて作られる図形の面積や体積は, それぞれの図形のそれぞれの面積や体積の合計だと習った.


例えば, 2つの三角形でそれぞれの或る1辺が等しい物たちを, その辺を合わせて合体させると, 多角形ができるが, その多角形の面積は, それぞれの三角形の面積の合計であり,


2つの直方体でそれぞれの或る1つの面が等しい物たちを, その面を合わせて合体させると, 新たな直方体ができるが, その直方体の体積は, それぞれの直方体の体積の合計であると.


より具体的に言うと, 形が同じで裏表が逆の2つの三角形を, どれかの辺を重ね合わせて平行四辺形を作ると, その平行四辺形の面積は, それぞれの三角形の面積の合計になる.


また, 形が同じ直方体を, どれかの面を重ね合わせて新たな直方体を作ると, その体積はそれぞれの合計になる.


しかし, 小学生時代, 中学生時代の私は, ここで疑問を持った.


「重なり合う部分の面積や体積は考えなくていいのか?」「それが0だと厳密に証明できないか?」


つまり, 図形A, Bの合体をA∪Bとし, 共通部分(いわば「重なり合う部分」)をA∩B, 一般に図形Sの面積または体積(Sが平面図形なら面積, 空間図形なら体積)をμ(S)とする時,

μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)

ではなく,

μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)−μ(A∩B)

(重なり合う部分を二重に足しているから)

が成り立つのではないかと, 私は考えたのだ. そして長い年月が経ち, 測度論を学んで, それは正しかったのだと本でわかった. (補足:図形は平面や空間の中の点の集合である. )


測度論の立場からは, 

μ(A∩B)=0

であることがわかる. しかしこのことは自明ではない割には誰も教えてくれない気がする.


測度論では, 一般に

AとBが交わらない ⇒ μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)

は確かに成り立つことであると認めて話を進めるが,

μ(A∩B)=0 ⇒ μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)

は暗黙の了解としている. (AとBが交わらないならμ(A∩B)=0だが, μ(A∩B)=0でもAとBが交わることが有り得る. A∩Bがすぐ後述の場合または1点から成る場合. )


μ(S)として, 例えば面積や体積を一般化したルベーグ測度を考えれば, 上に書いた具体例で

μ(A∩B)=0

が成り立つことは定義から簡単に導かれる(被覆をする区間の1つが任意に小さくできるからA∩Bは零集合になる)が, 私はこのあたりに昔から引っかかっていた.


つまり, 2次元空間すなわち平面の中の, 線分, すなわち1次元の図形は, いくらでも細い長方形に含まれるから, 面積がゼロなのである.


また, 3次元空間すなわち常識的な意味での空間の中の, 面, すなわち2次元の図形は, いくらでも薄い直方体に含まれるから, 体積がゼロなのである.


これらには実数の稠密性からの或る帰結:

「実数a≧0が任意の正の実数εに対して

a<ε

ならばa=0である」

が背景にある.


もしかしたら同じ思いをする人がいるかもしれないので書いた次第である.



共役作用素のグラフに関する命題について (加筆•訂正済み)

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もし関数解析をご存知でなければ, バナッハ空間は有限次元線型空間, Xの双対空間はXからRへの線型写像(例えば固定したベクトルaに対して内積を用いて定まる写像X∋x→(a, x)∈Rなど)の成す空間, ヒルベルト空間は有限次元線型空間, Tの共役作用素はTの随伴変換と読み替えていただきたい. 有限次元線型空間は計量線型空間である. これは各ベクトルを基底の元の成分による線型結合として書いて成分の成す数ベクトルの内積を考えればよい.


参考文献

齋藤「線型代数入門」

谷島「新版 ルベーグ積分関数解析

宮寺「関数解析

梶原「複素関数論」

数学の思い出

2005年, 小6の時, 私には初恋にして両想いの人がいた. 彼女とは席替えで隣同士になった. 生きるのが楽しかった. 或る日, 直方体の体積を求める問題を解いたら, 掛け算の順序を訂正された. 彼女は中学受験をする人だったから塾などで順序についてこだわった教育を受けたのだろう. しかし, 直方体の縦•横•高さは向きを変えれば変わるのでそのようなこだわりは意味がないのではなかろうか. ちなみに彼女とは今はもう何も話せない. 小学校を卒業してから私は精神的に病み始めた.

中学生になって, 数学を学んでいくうちに疑問が沸々と浮かんできた. なぜ基礎や初歩が論理的に曖昧なまま厳密化せずに問題を解いてばかりなのか. 問題もいわゆる文章題は, 数学を使った問題とは言えても, 数学その物の問題ではないだろう. みかんがx個, 池の周りをグルグル, 点Pがどうのこうの, そんなのは数学ではないはずだ. 例えば「数」とは何か, なぜ負の数に負号がつくと正の数になるのか, なぜ負の数と負の数を掛けると正の数になるのか, 0とは何か, なぜ0に何を掛けても0なのか,「図形」とは何か, 突き詰めて言うと「1」「+」「=」「2」「1+1=2」とは何か, そういうことを私は知りたかった. また, √2が2乗すると2になる正の数なら, √2とは2の1/2乗ではないのかと気づいた. そして√2の√2乗がどんな数か知りたかった. しかしこれらは誰も教えてくれなかった. ゆえに私は中学生ながらも高校や大学の数学を独学し始めた. 2007年11月のことである. 幸い図書室には良い数学の本が何冊もあった. 最初は式の展開と因数分解からである.

純粋に数学に感動し始めたのもこの辺りからである. いわゆる連立方程式で未知数は2つあるのに解は存在すれば1組に定まること, いわゆる二次方程式で2乗の項があるにもかかわらず解が求まることに感動した.

数学を独学していくうちに, 微分積分に感動した. 微分法を使って増減表を書いてグラフが描けたり, 分数関数1/xの原始関数が対数関数を用いてlog(x)+Cと表されたり, マクローリン展開で関数を「無限次の多項式」で表せたりすることに, 中学生時代の私は感動した. そして, オイラーの公式, 特にe^(iπ)=−1に大興奮したのである. 私のうわさを聞いた先輩が微分積分の簡単な本を貸してくれたりもした.

高校生になって, 簡単な微分積分線型代数複素関数の本をよく読んでいた. 病気で留年した後の2010年には石原-矢野両氏の「解析学概論」, 高木氏の「解析概論」, 杉浦氏の「解析入門」, 新井氏の「ルベーグ積分講義」, 猪狩氏の「実解析入門」にのめり込み, 解析学にハマっていった. この時からルベーグ積分については何冊も読むようになり, ルベーグ積分オタクになってゆく. 夏には冷房の効いた部屋に引きこもってひたすらルベーグ積分を学んでいた.

高校は病気により休学と留年をした. 留年後は同級生からの嫌がらせもあり, 四年制の入りやすく通いやすい高校に転校する話もあったが, 高校卒業の資格が手に入るのが遅れるのを理由に2011年1月に予備校に転学した. その頃から実解析にハマっていく. 同年11月に高卒認定試験を受験した東工大の教室にはベッセルの不等式がうっすらと書かれてあったのを見た.

2012年頃, 超関数という概念に感動し, わからない所を教えてもらおうとしたが, リアルでもネットでもどこでも教えてくれる人はいなかった.「大人の数学教室」なる物も頼りなかった. 結局自分で学び考えた.

この頃からAmazonにレビューを書き始めた. 理由はあるが, 有名人になるためではなかった. しかし結果として多数の本にレビューを書いたこと,「数理解析学概論」を熱心に読んだレビューを書いたのを著者の北田先生がご覧になり新訂版序文に載ったことなどで有名人になった. 新訂版序文の人になった時(2016年12月29日)は大興奮して, 当時大好きだった女の子にメッセージを送りまくった. ちなみにそれが原因ではないが, 彼女からは恋愛対象から外された.

年は明確に覚えてないが, 関数解析, 偏微分方程式, 代数学, 幾何学, 圏論, 多変数複素解析などにも手を出し, 超関数を用いて偏微分方程式の研究をした. 代数学は松坂氏の「代数系入門」から, 幾何学は松本氏の「多様体の基礎」から始めた. 有限次元と無限次元の違いや類似, 台がコンパクトな超関数, 準同型定理, 微分幾何の接続の概念, 圏論の考え方, ヘルマンダーの方法に感動した.

しかし20代後半(2018年頃)になってから集中力や気力が低下し脳が疲れやすくなった. 長文を書く気力もなくなった. そんなもどかしさを抱えながらも今もあらゆる数学をしている. しかし数学基礎論は序論だけ, 代数幾何は序論すらよくわからないままである. いつかは理解したい.