序文とあとがきの人のブログ

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実数は実在するのか

この記事は, 以前公開していた高校数学の論理的問題点に関する記事を取り下げたのと, その後に考えたことがあるから書いた.


数とは何か. これは難しい問である. まず, ありきたりの説明を少し改良してみよう.


自然数とは, 

1, 2, 3, 4, 5, …

のような, 1にどんどん1を足して得られる数である(自然数を0から始めることもある. 

https://pdem.hatenadiary.com/entry/2021/06/09/192338).

整数とは,

−3, −2, −1, 0, 1, 2, 3, …

のような, 自然数に負号を付けた物たちと0のことである(注意:引き算のマイナスと負号のマイナスは意味が違う. また, −(−a)=aだからと, 負数×負数が正数になる訳ではない.

https://pdem.hatenadiary.com/entry/2022/04/25/165427).

有理数とは,

−(5/3)=(−5)/3=5/(−3), 355/113, 29=29/1, 0=0/2

など, pを整数, qを0でない整数として

p/q

と表される数である. ちなみに電卓でもわかるように, 355/113=3.141592である.

実数とは, 数直線(後述)の上の点として表される数である. 実数のうち無理数とは有理数でない物である. 例えば

√2, −√5, π, 3+√7, π−3, √π

がある. π−3はπの小数部分, √πは解析学で良く出るガウス積分の値である.


有理数は, 小数で表すと, 小数点以下同じ数の並びが無限に繰り返されるか, どこかで止まる. 例えば

1/9=0.111111…, 5/4=1.25 .

無理数は小数で表そうとすると, 小数点以下無限にかつ不規則に数字が並び, 原理的に書き切れない. 例えば,

√2=1.41421356237… ,

e=2.7182818284590452353602874… ,

π=3.1415926535897932384626433…

のように. ちなみにe+πやeπが無理数かは未解決である.

つまり, 有理数無理数を, 小数点以下の数字の並びに着目して定義することもできそうである.

しかし, よく考えてほしい. そもそも「数」が未定義なのである. だから, よく「実数は実在するけど虚数は実在しない」と言われるが,「数」さえ何らかの意味で定義してしまえば, これらは少なくとも多少は論理的に安全になるのである. そして今は「数」とは結局, この場では複素数とするのがいいだろう(こちらの記事も参照されたい: https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024 ). もちろん, 実数の厳密な定義と構成をした上での話である.


自然数ですら抽象的な概念である. なぜなら, 

1個, 2個, 3個, …

1回, 2回, 3回, …

1円, 2円, 3円, …

と,

1, 2, 3, …

の間には, 抽象度の壁がある. 知的障害や学習障害を抱えた方々には, お金の計算はできるが普通の足し算ができない, ということがあるらしい. それほど高い壁になってしまっている(こちらも参照:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2021/08/01/170805 ).


しかし, 抽象的な概念でも理解してしまえば, 普通の人はなんの不自由もなく使いこなせている.


負の整数や0も, 有理数も, 無理数も, 例えば負債とか気温とか, 割合とか, 計測とかで使われている, 概念である. 例えば, 1辺の長さがaの正方形の対角線の長さの二乗は三平方の定理より

a^2 + a^2 =2 a^2

だから対角線の長さは(√2)aで, aが√2の有理数倍でないときは無理数である.


しかしa=1としてみても, 実際に, 1cmぴったりの長さを作図するのは無理だから, √2cmというのも実在しないのである. 全ての物質は素粒子からできている. それが集まって原子を成し, 原子が分子を成して, 分子が物資として存在している. そこに実数のような連続性はなく, つぶつぶが離散的に, たくさんの隙間を作っている. 


数直線とは, 直線上に原点Oを定め, Oには0を対応させ, 基準点Eには1を対応させ, 正の実数aにはOEの長さのa倍の点AをOからEに向かう向きに(つまりaOE=OAとなるように), 負の実数 −b にはOEの長さのb倍の点Bを, OからEに向かう逆向きに(つまり −bOE=OBとなるように)対応させた物である. しかしながら, 任意に小数を作った時(例えば1.234567891011… とか, −10.100100010000… とか)に, それに対応する実数(或いは点)が実数全体の集合の中に(数直線上に)存在するか, 問題が生じる. これを教育現場ではごまかしている.


数学は概念で構成されている. だから理論上矛盾なく実在すればいい. 虚数は実在しないというなら, それが虚数という概念が存在しないということなら, 実数も実在しないのである. そして残念ながら直線は実在せず, 作ろうとしても有限の長さだし隙間だらけなのである. しかし実際には, 2つの実数a<bに対して例えば

a<(a+b)/2<b (任意の2点間に必ず中点がある)

であるように, 隙間にも実数が存在しうるのである.


実数も虚数も実在する. 数学の理論上矛盾なく定義され構成されている. なんなら, 虚数も, 現実世界に反映する工学や量子力学には必須である. 工学ではオイラーの公式が, 量子力学ではシュレディンガー方程式が, 最も簡単な実数でない複素数である虚数単位iを含む. 確かに, 実数の二乗は0以上の実数, ではあるが, それが複素数のi^2=−1と矛盾する訳ではあるまい. iは複素数だが実数ではないのだから.