序文とあとがきの人のブログ

画像はスマホでは拡大できます。記事の題名の下にあるタグをクリックまたはタップすると記事を細かく分類したページに移動します。最近は数学を語ることもあります。

数学における表現の簡略化について

数学では, 話者や読者の論理に高い厳密性が問われる. しかし, 数学において, 話者または読者の少なくとも一方がそれを破り, 表現を見やすく伝わりやすくすることがある.

 

例えば https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/10/10/115841 でも私がしたように, 関数を, 純粋な意味での集合から集合への写像f:A→Bとするのではなく, Aの任意の元xにBの元yが対応するときのy=f(x)と書かれる対応において, 対応fと従属変数yを同一視して, 関数をy=y(x)とすることである. 確かに正確ではないが, 具体例を扱うときや具体例に沿った論理展開をするときは便利であり, しかも厳密性は問題にならない. リンク先にあるように常微分方程式の初等的な解法は厳密性を犠牲にしなければ説明しにくい.

 

また, 多様体の接空間においても, 接ベクトルとベクトル場を同じ記号で書くことがある. 例えば2次元多様体Mの点pにおける接空間(T_p)(M)は局所座標を(x, y)とするとき2つの接ベクトルから成る基底

{(∂/∂x)_p, (∂/∂y)_p}

を持つが, ここでも右下の添え字pを取って基底を

{∂/∂x, ∂/∂y}

と書くことがある. 余接空間(T_p)*(M)についても同様に, 基底を

{(dx)_p, (dy)_p}

と書く代わりに

{dx, dy}

と書くことがある. もちろんこれらはベクトル場や微分形式の正確な定義を既知とした上での表現である.

また, リーマン計量gを内積gということもある. これはリーマン計量gが各点q∈Mで定める内積g_qとgを意図的に混同しているのだが, これは突き詰めて言えば最初の例である.

微分幾何において多様体の接空間やリーマン計量は多様体それ自体と同じくらいよく出てくるのでそれに関する式もたくさん出てくるし, 高次元になればそれだけ右下の添え字pがたくさん必要だが, 後者の書き方をすると式が簡単になるのである. 例えば「2次元リーマン多様体Mの余接空間(T_p)*(M)にMのリーマン計量gから定まる内積をg'と書く」とあれば, これについて, Mの各点qに対して

(g'_q)((dx)_q, (dy)_q)

=(g_q)((∂/∂x)_q, (∂/∂y)_q)

という式を

g'(dx, dy)=g(∂/∂x, ∂/∂y)

と簡単に書ける上に本質が見やすい. (なお, 普通g'もgと書く. )

 

数学の初学者には悩ましい習慣かもしれないが, 使い慣れたら便利である. それ以上の深い意味はないが…

中2の冬に発見した数学

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パスカルの三角形は0段目から4段目までは0≦n≦4に対する11^nの各位の数を並べたものでもある. 対応するのは0≦n≦4の場合だけでn≧5だと11^nの各位の数を並べてもパスカルの三角形とは対応しない. これは中2の冬に発見した. 11=10+1 と, 二項係数≦9となるnは0≦n≦4の場合に限られることによる.


これは「5次以上の代数方程式は代数的な解の公式を持たない」に似ている.

「数」と「数字」の違い

よく, 一般人向けに

素数とは1と自分自身以外で割り切れない数字

や,

偶数とは2で割り切れる数字

奇数とは2で割り切れない数字

という表現がされていることがある. しかしこれらは誤りである.


数は概念である. 名前はまだない. そこで「0」「1」「2」「3」…など名前をつけていくのである. 0, 1, 2, 3,…は数字という文字である. しかし数の概念自体には数字を使う必然性はない. ただ, わかりやすさ, 見やすさ, 伝わりやすさのために数を表すのに数字(や小数点や分数など)が使われているだけである. 数の概念自体は理論上は数字とは無関係なのである. 数の厳密な定義と構成を知っている人なら, 数の概念は数字を使わずとも表現できることが容易に想像できるだろう. 概念と, それを表す文字に何を使うかは関係ないのだ.


例えば, 実数の公理的定義を書こう. 便宜上0, 1という数字を使うが, これはわかりやすさのためで, o, e という文字を使っても同じである. (0, 1の性質を満たす物は一意的に定まるので0, 1と書いても良い)


実数全体の集合Rは完備な全順序体として定義される. すなわち演算+と×, 関係≧が定義され

(∀:任意の, ∃:或る〜が存在して)

(1) ∀a, b∈R: a+b=b+a

(2) ∀a, b, c∈R: (a+b)+c=a+(b+c)

(3) ∃0∈R: ∀a∈R, a+0=a

(4) ∀a∈R, ∃(−a)∈R: a+(−a)=0

(5) ∀a, b∈R: a×b=b×a

(6) ∀a, b, c∈R: (a×b)×c=a×(b×c)

(7) ∃1∈R: ∀a∈R, a×1=a

(8) ∀a∈R, a≠0 ⇒ ∃(1/a)∈R: a×(1/a)=1

(9) 0≠1

(10) ∀a, b, c∈R: a×(b+c)=a×b+a×c

(11) ∀a∈R: a≧a

(12) ∀a, b∈R, a≧b かつ b≧a ⇒ a=b

(13) ∀a, b, c∈R, a≧b かつ b≧c ⇒ a≧c

(14) ∀a, b∈R, a≧b と b≧a の少なくとも一方が成り立つ

(15) ∀a, b, c∈R: a≧b ⇒ a+c≧b+c

(16) ∀a, b, c∈R, a≧b かつ c≧0 ⇒ ac≧bc

(17) Rは連続性を持つ集合である:Rの上に有界な空でない任意の部分集合は上限を持つ.

の(1)-(17)を満たす集合を実数全体の集合と定義し, その要素を実数と呼ぶのである. ペアノの公理系よりも前にこれで実数を定義し, ここから自然数を定義することもできる. 詳しくは杉浦光夫氏の「解析入門Ⅰ」を参照されたい. また「新訂版 数理解析学概論」でも自然数からの数の構成から実数の構成に至った所で実数の完備な全順序体としての定義可能性に言及している.


この中で0, 1は幸いにも通常の意味での0, 1に一致する. しかし理論上は無関係であることがわかっていただけるだろうか.


文字が概念を表すとも限らない. 例えば意味のない文字列や感情を表す文字は概念たりえない. また概念がどの文字を用いて表されるかは非本質的である. 不便だが, 漢数字を使ってもかまわないのである. 2匹の犬の「2」と数として抽象化された「2」には大きな隔たりがある. 数字とは数を表す文字であり概念ではないのだ.


こちらも参照されたい :https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024

0の0乗0^0=1と定めると便利なことについて

まず, 0^0が普通の意味では定められないことの説明として, 2変数関数

f(x, y)=x^y

が(x, y)=(0, 0)で不連続であることを挙げることがある. 確かに実際,

lim_(x→0, y→0)0^y=0

lim_(x→0, y→0)x^0=1

となり, lim_(x→0, y→0)f(x, y)は存在しない. ゆえにf(0, 0)をどう定めてもf(x, y)=x^y

は(x, y)=(0, 0)で不連続である.


しかし以前(https://pdem.hatenadiary.com/entry/2021/04/28/063032)にも話した通り, これは0^0をこの意味で(つまりlim_(x→0, y→0)x^yとして)定義できないことを意味し, 真に0^0が定義できない理由よりは弱いのである.


しかし便宜上, 0^0=1と定めると便利である. 例えば関数のマクローリン展開(冪級数展開)を

f(x)=Σ a_n x^n = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 +… (収束円板の内部の任意のxに対して)

と書くとき

f(0)=a_0

であってほしい. そのためにはn=0のとき

a_n x^n = a_0 x^0 = a_0

であってほしい. これは当然x=0でも成り立つべきだから, 0^0=1と定めない限りはx=0の場合を考慮して

f(x)=a_0 + Σ_(n≧1) a_n x^n

としないといけない. これは冗長である.


実は測度論でも0^0=1と定めると, 距離空間における0次元ハウスドルフ測度が数え上げ測度になる. このことを説明しよう.

(X, d)を距離空間, AをXの部分集合とする.

Aのδ-被覆とはAの被覆 {U_i} (A⊆U_1∪U_2∪…)でU_iの直径diam(U_i)=sup{d(x, y) | x, y∈U_i}≦δとなる物を言う. 実数s>0に対して

((H_δ)^s)(A)=infΣ{diam(U_i)^s | {U_i}はAのδ-被覆}

とするとδ→0のとき任意のAに対して左辺は(被覆を取る範囲が狭くなるからその下限は)単調増加するので, ∞を込めて極限(H^s)(A)が存在する. H^sをs次元ハウスドルフ外測度という. ここからカラテオドリの方法によりs次元ハウスドルフ測度が定まる. 直観的にはAに「直径がδ以下」という意味で細かい被覆を取り, 被覆をどんどん細くした極限でAの大きさを測るのである.


(日本語の本だと猪狩氏の「実解析入門」と新井「ルベーグ積分講義」と邦訳の「プリンストン解析学講義Ⅲ 実解析」しか参考にならない. )


diam(U_i)=0のときU_iは一点から成る(U_iが異なる二点を含めば直径は正となるから).

diam(U_i)=0, s=0のとき, diam(U_i)^s=1と定めれば, (H^s)(A)はAの要素の個数または∞となり, H^sは数え上げ測度になる.


数え上げ測度による数列(自然数全体の集合Nまたは整数全体の集合Zから実数体Rまたは複素数体Cへの写像としての意味)の積分は数列の項の和になる.


他にも, 順序数(https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024)の演算でも順序数αに対して順序数としての冪α^0=1と定められている. (「新訂版 数理解析学概論」)


今のところ, 0^0を1と定めたことによるパラドックスは発生していない.

急減少関数が可積分であることの証明 (2022年11月25日最終訂正)

多くの本では既知または行間としている.

急減少関数の典型例:exp(−|x|^2)

注意:exp(−|x|)は急減少関数ではない.

急減少関数について詳しくはこちらを参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/12/25/170131

数学ではなぜ0で割ってはいけないのか(4月30日7:14 最終推敲)

実は, 数学でも0で割ることはある. ただし, 例外的かつ便宜上である.


まず, あえてありきたりな説明をする. それには一理あるが問題点もあるからである.


反比例の関数y=1/xを考えてみたい(グラフは下にある). まず関数とは何か考えよう. 座標平面(xy平面)を想像してほしい. 数直線(いわゆるx軸)の或る区間の全ての数xに対して, 別の数直線(いわゆるy軸)への対応があり, xに対してただ一つyの値が定まるとき, yはxの関数であるという. このときxを独立変数, yを従属変数という. x軸やy軸は実数(real number)全体の集合(Rと表す)であり区間はその部分集合であるから, 関数とはRの部分集合の要素にRの要素をただ一つ対応させる物とみなすことができる. この観点では, 関数とは或る集合の全ての要素に(一般には別の)集合の要素をただ一つ対応させる物とみなすことができる. この考えは後ほど再考する.


さて, 関数y=1/x(変数xの分子と分母をひっくりかえした分数を対応させる関数)のx=0付近の関数値を調べよう. (^は累乗を表す)

x=0.1=1/10とすると, y=10となる. 

x=0.01=1/100=1/(10^2)とすると, y=100となる.

x=0.0001=1/10000=1/(10^4)とすると,

y=10000となる.

x=0.00000001=1/100000000=1/(10^8)とすると, y=100000000=10^8となる.

このように, x>0の範囲でxを0に近づけていくと, 関数y=1/xの値yはいくらでも大きくなる.

では, x<0の範囲でxを0に近づいてみよう.


x=−0.1=−1/10とすると, y=−10となる. 

x=−0.01=−1/100=−1/(10^2)とすると, y=−100となる.

x=−0.0001=−1/10000=−1/(10^4)とすると, y=−10000となる.

x=−0.00000001=−1/100000000=−1/(10^8)とすると, y=−100000000=−10^8となる.

これらのことから, x≠0の範囲で定義された関数y=1/xを, x=0でも「うまく」定義することは不可能に思えてくるであろう. それは, x>0でxを0に近づけるとyの値はいくらでも大きくなり, まさに数学で言う正の無限大に発散する(つまりy>0でyの値がいくらでも大きくなる)ことだけではなく, x<0でxを0に近づけるとyの値は負で絶対値がいくらでも大きくなり, まさに数学で言う負の無限大に発散する(つまりy<0で絶対値|y|がいくらでも大きくなる)ことによる.「うまく」とは, 難しく言ってしまえば, 関数y=1/xがx=0でも連続であるように(簡単に言うとグラフが点(0, 1/0)でもつながっているように)1/0を定義できないということである. 特定の近づけ方について考えたが, どのような近づけ方でも同様であることが知られている. これはaを0でない定数としてy=a/xを考えても同様である(a<0の場合はyの正負が上述と入れ替わるが得られる結論は同じである). 1/0が「うまく」定義できないのだから, 当然3/0とか−4/0なども「うまく」定義できない. 反比例の関数のグラフをご存知の方は, x=0での値をどのように定めてもx=0でグラフはつながっていないことがすぐにわかるだろう.

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しかしこれは, 0で割ることを「うまく」定義できない理由, 特に関数y=1/xがx=0でも連続であるように定義できない理由であり, 0で割ることを定義できない理由ではないのである. ありきたりな説明をしたが, このような問題点があることは広く知られてほしい. グラフによる説明をしても, それは論理によって説明したことにならない. これは2変数関数z=x^yを(x, y)=(0, 0)でも連続であるように定義できない理由が, 0^0を定義できない理由ではないことに本質的に同じである. ちなみに多くの場合, 0^0は1と暗黙の了解で定義されている. それについては後日話そう.


では, なぜ通常の数学では0で割ることを四則演算の定義から除外するのか. 話は単純である. まず0とは, 任意の実数aに対してa+0=aを満たす実数として定義される. つまり, 少し厳密に言うと,「任意の数aに対してa+0=aを満たす数」が0という言葉の意味である. これと分配法則と減法の定義から, 「0a=0」が証明される. 本当は数(すなわち実数)の厳密な定義から話をしたいが, とりあえず「0にどんな数をかけても0である」というのは定義ではなく定理であり本当は証明が必要ということだけ知っておいていただきたい. これを利用すれば, 説明は簡単である.


まず, どんな数aに対してもa/0が定義できるとする. 0に何をかけても0なので,

(a/0)×0=0

が成り立つ. 一方, 0で約分ができるので(厳密には除法の定義: a/bとはbx=aの解xであることより(a/b)×b=aが成り立つので)

(a/0)×0=a

ゆえに

a=(a/0)×0=0

つまり「どんな数も0に等しい」という結論が得られる. これは当然成り立たない. 成り立たない結論が得られたのは数を0で割ることができると仮定したからである. つまり, 零環(1=0を仮定する, ゆえに全ての要素aと0が等しい(a=a×1=a×0=0)ような集合)のような例外的な数学を好き好む訳ではない限り, 0で割ることは認めないのが普通である. 零環を環論の例外とすることも, これが背景にあるのである.


しかし, もちろんこれは数を実数の範囲で考えるからで, 複素数の範囲で考え, リーマン球面(集合としては複素平面Cに無限遠点∞を加えたものC∪{∞})における, 独立変数も従属変数も複素数とした複素関数の理論において, 便宜上, 全ての複素数cに対して

c+∞=∞+c=∞,

c×∞=∞×c=∞ (c≠0),

c/0=∞ (c≠0), c/∞=0

と定義する(複素解析を知っている人向けに言うと, 無限遠点∞は実部または虚部の少なくとも一方の絶対値が正の無限大+∞の「複素数」であるから, こう定義するのは自然であろう). つまりリーマン球面からリーマン球面への関数は通常の複素数の四則演算に加えてこれらの演算も加味されて定義されている. もちろんこれは0で割ってはいるが, あくまで理論を見通し良くするための便宜上の定義に過ぎない. リーマン球面ではなく複素平面においては, 当然0では割れない. それは上の論法を繰り返せばわかる.


肝心の複素数とは何か, について話すとまた話が脱線するし, ありきたりな説明をしても多分納得のいく人は少ないので, 今回はこれぐらいに.


ちなみに海外では, 分数は分子から書き括線(かっせん)を引き, 分母を書く.

a/b は a over b, a divided by b,

1/2 は the harf,

1/3 は one third

と読む.


数とは何か考えた, こちらの記事も参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36940024

振り子の運動方程式θ''(t)=−sin(θ(t))の解の一意存在(4月30日訂正)

f:id:PDEM:20210421115250j:plain(t, θ)=(0, 0)の近傍でsinθ〜θと近似すれば

θ(t)=asin(t) (aは任意定数)

が近似解となることからわかるように, この方程式にはθ(0)=0, θ'(0)=1を満たす解θが存在することが予想される. それを, 常微分方程式の解の一意存在定理である, コーシー-リプシッツの定理の系を用いて証明してみた. なお物理定数はスケール変換で全て1とした. 振り子の長さをL, 重力加速度をgとすると

θ''(t)=−(g/L)sinθ

であるが, 解の一意存在の証明の際に−(g/L)は定数Kに吸収される.