序文とあとがきの人のブログ

画像はスマホでは拡大できます。記事の題名の下にあるタグをクリックまたはタップすると記事を細かく分類したページに移動します。最近は数学を語ることもあります。

分数の計算でなぜ通分が必要かなどの話

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数学や数学を応用する場面では, 全体を「1」としたとき, 今考えている量が, それに対してどれくらいの割合(比率・濃度・密度, …)かを考えることが多々ある. 数学内部でも古典的確率論では必ず起こる事象の確率を1として, 個々の事象の確率を考える. 百分率では全体を1すなわち100%とし, 一部分の割合を0(=0/100)以上1(=100/100)以下の数値で表す. 例えば33.333…%=33/100である.

分数とは, 全体を「1」としたとき, 今考えている量が, それに対してどれくらいの割合(比率・濃度・密度, …)かを表す数である.

ゆえに, 分数は約分ができる. 例えば

(2×3×5)/(3×5×7) (a/bはb分のa)

は比率としては

2/7

に等しい.

これを踏まえて, 分数の足し算と引き算で通分が必要な理由と, 掛け算では通分は要らない理由, そして分数の割り算で割る数の分母分子をひっくりかえす理由をまとめてみた. あえて文字式は使わなかった. 

数学が苦手な人は, 他にも

√7+√3=√10

のような「記号の足し算」の類をしてしまうが, 分数の計算を分子と分母の2変数関数R×(R−{0})→Rとみなしても, √を関数[0, ∞)→[0, ∞)とみても, これらは準同型写像にならない. 多くの関数は射ではないのである.

比について, a:b=c:dならばad=bcなのは, b≠0かつd≠0ならば

a:b=c:dとは本来はa/b=c/dの意味であるから, 両辺にbdを掛ければad=bcが得られる.

実際は既約分数a/b, c/dに対して

a/b+c/d=(ad+bc)/bd,

a/b×c/d=ac/bd

は定義であるが, なぜそう定義するのか考えるのも数学である. 減法と除法はここから定義される. すなわち

a/b−c/d=(ad−bc)/bd,

(a/b)/(c/d)=(a/b)(d/c)/(c/d)(d/c)=(a/b)(d/c)

=ad/bc.

連比と, なぜ0で割ってはいけないのか, 本当に0で割ってはいけないのかは, またの機会に.

「非線型発展方程式の実解析的方法」の3年程の研究の感想と成果(Amazonのレビューのコメント欄から転記)


(先日, Amazonではレビューへのコメントの機能が廃止されたはてなブログでは二重以上の括弧は脚注になるので多少記号を変えたまた細部の表現を改めたが殆んど変更はない元々パソコンで書いた物であり多少見にくいかもしれないがご容赦いただきたい非線型発展方程式を学ぶ人々のお役に立てればうれしい一般に方程式の解を求めさせる問題は解の存在が前提である. )


 

予備知識は微分方程式(コーシー-リプシッツの定理・非斉次線型連立1階常微分方程式の解法・定数係数斉次線型2常微分方程式の解法), 位相(ユークリッド空間の位相稠密性距離空間の完備化), 実解析(ルベーグ測度ルベーグ積分微分積分の入れ替え積分の順序の交換フーリエ変換超関数), 関数解析(バナッハ空間・ヒルベルト空間・半群の初歩・定義域が適当な関数空間で稠密な有界線型作用素のノルムを保存する拡張・射影作用素・リースの表現定理・ハーン-バナッハの定理)であるがトークス方程式やナビエ-トークス方程式そして移流拡散方程式を理解したするにはベクトル解析が少しだけ要る結局偏微分方程式の解法理論にある摂動法と逐次近似法およびDuhamelの原理は文章に用語として現れている様子で意味を知らなくても結論自体は理解できる偏微分方程式に対する逐次近似法とDuhamelの原理は金子「偏微分方程式入門」に記されていた.

トークス方程式やナビエ-トークス方程式についてはヘルムホルツ分解も知らないと理解しにくいと思う超関数や半群についても載っている本が少ないのでまた式の意味が伝わりにくいので私としては第13章と第16章の分の紙数は超関数と半群の解説に割くべきだと思う超関数の補足事項ついて私はこの場に知識としても字数としても可能な限り書いた.

割と誤植が多い証明には計算が多く独特の技巧や論理の飛躍がある全体的に説明が短くて埋めるべき行間が広い高度な内容が続く割には解説が少ない気がする独学や単体では無理だと感じたこの本で解説が足りていない事項は参考文献にあるのかもしれない.

しかし最先端の実解析(フーリエ解析特異積分作用素超関数関数不等式関数空間論およびこれらの融合)と簡単な関数解析時間変数を含む半線型偏微分方程式(線型項と非線型項に分けられる方程式)の解の適切性(ただひとつで微分性が高く導関数も連続な解で初期値の連続な変化に対応して連続に変化する解の存在問題:すなわち数理物理学の観点からは存在して当たり前な解の存在問題)時には読み物風に証明を省略したり文章で解説して概要を把握できる読んでいて不思議に感じたりもするから微分方程式に興味がある人は眺めるだけでも数学の広さ・深さ・意外な関係に強い印象を受けると思う.

定義を覚えて命題や定理や系だけを理解するのは簡単だと思う証明を抜きにしても読めるし内容は全体を観てもかなり貴重である和書としては他には書かれていない内容が多い論文の紹介も多い読んでいると応用解析の世界に吸い込まれる英訳が出るべきである証明を抜きにしたら洋書・本格的な専門書・論文よりは簡単なはずだからこの本で準備体操をすると挑む時の困難が解消されるかもしれない.

私としては抽象的な理論も少しは述べて欲しかった例えば「これからの非線型偏微分方程式;藤田-黒田-伊藤「関数解析;溝畑「偏微分方程式論」;柴田-久保「非線形偏微分方程式」「応用解析ハンドブック」に書いてある.

予備知識それ自体は標準的なものを超えず詳しくて楽しかった線型斉次熱方程式(∂_t)u:(∂u/∂t)△u, 線型斉次波動方程式((∂_t)^2)u:(∂^2)u/∂(t^2)△u, 線型斉次シュレディンガー方程式 i(∂_t)u−△u 見かけはよく似ているのに物理学では分野が違うのが面白いと思う3章にあるように, (∂_t)u△u の解で時間変数 t 虚数単位 i を用いて it に変えると, i(∂_t)u−△u の解になることには感激した本文に詳しい説明はないが波動方程式に特殊相対論的思考を織り交ぜたクライン-ゴルドン方程式((∂_t)^2)u−△umu波動方程式と「きわめて類似の性質を持つ」らしいもっと多くを知りたくなった.

1章は数式を交えた前書きのようなものであるここではLが生成する半群(の元)e^(−Lt)と書いているが線型代数に従えばe^(−tL)と書くべきだと思うこの本の全体を通じて, e^(−tL)tを時間区間 I で動かして作られる集合{e^(−tL)}_(tI)半群と言うか略式にその元e^(−tL)半群と言うかはどちらかにするか, 1回前者の言い方をして2回目に略式の言い方をしてその後はずっと略式か決めるべきだと思う20章は本文の方程式との関連で個性的な方程式として連立方程式に変形できるものと本文で解説した方程式の連立方程式の紹介をしている面白い後書きである.

この本を読むには少なくとも 実解析入門」「これからの非線型偏微分方程式」が必要だったフーリエ変換と超関数については「実解析入門」「ベクトル解析から流体へ」「物理数学入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「ルベーグ積分論」「新訂版 数理解析学概論」 偏微分方程式論」「新版 ルベーグ積分関数解析」が参考になる.

線型作用素が生成する半群については参考になる和書に「これからの非線型偏微分方程式(黒田)関数解析」「応用解析ハンドブック」(藤田-黒田-伊藤)関数解析」がある.

関数空間としては台がコンパクトで滑らかな関数の空間数列空間, L^p空間ソボレフ空間急減少関数の空間緩増加超関数の空間L^p空間, (斉次)ベゾフ空間, (斉次)リーベル-ゾルキン空間ローレンツ空間, (実解析流)ハーディー空間, BMO空間, VMO空間これらの適当な組み合わせから成る実補間空間が主役であるソボレフ空間については実解析流にフーリエ変換と緩増加超関数を用いた定義もある.

関数不等式としてはソボレフの不等式など作用素を施された関数と元の関数(または別の作用素を施された関数)のノルムの関係空間と空間の包含関係を表す不等式, L^p-L^q評価, Strichartz-Brenner評価数理物理学に由来するエネルギー不等式などがある.

扱われる方程式は熱方程式(∂_t)u−△uf, シュレディンガー方程式 i(∂_t)u△uf, 波動方程式((∂_t)^2)u−△uf, トークス方程式(∂_t)u−△u▽p0;div(u)0, ナビエ-トークス方程式(∂_t)u(u▽)u△u−▽p;div(u)0, KdV方程式(∂_t)v((∂_x)^3)v(v^m)(∂_x)v0, 波動方程式と熱方程式が合わさっていると考えると式の形が面白い2次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u(∂_t)uf, 移流拡散方程式系(∂_t)ρ−△ρκ▽(ρ▽ψ)0;−△ψρである. KdV方程式の扱いはかなり少ないように思う16章の非線型放物型方程式と楕円型方程式の連立系である移流拡散方程式系は他書にはなく新鮮だったただナビエ-トークス方程式と関係があると言われても釈然とせず数学的な重要性がよく伝わらなかったどなたかのご教授を享けたい.

L^p-L^q
評価はある関数空間で方程式を解くときに初期値が「あばれない」なら初期値の可微分性が時間の経過と共に向上することを言っている「これからの非線型偏微分方程式」によれば初期値が微分できなくても解は局所的には可微分性が高まることを言っている.

S-B
評価の意味はある関数空間でその方程式から定まる縮小写像不動点の存在を示す方法により解くとき初期値から成る項と非斉次項または非線型項が時空で「あばれない」と縮小写像を定める式の右辺が「あばれない」ことを言っている初期値があばれすぎなければ不動点の存在が示しやすいのだろう.

集合の補集合を表すための c その集合の左上に付いている.

関数空間について全体に出てくるものについて,

A(I;X)
{ u:It→u(t)X : || ||u(t)||_X ||_A(I) ∞},

C(I;X)
{ u:It→u(t)X | τI, lim_(t→τ) || u(t)−u(τ) ||_X 0 i.e. It→u(t)Xの位相で連続 },

C^1(I;X)
{ uC(I;X) | vC(I;X), tI, u'(t)v(t) i.e. It→u(t)X
Xの位相でC^1 }.

局所L^p空間(L^p)_loc(Ω)も任意にコンパクト集合を選ぶごとにそれを固定することによりノルム空間と解釈すると分かりやすい.

以下Ω^n上の関数の空間の表記X(Ω)ΩがR^nの場合はX(Ω)を簡単にXと書くことにする.

2章ではルベーグ空間数列空間ソボレフ空間を定義してイェンセンの不等式ヘルダーの不等式ミンコフスキーの不等式を述べた後フーリエ変換を解説しバナッハの不動点定理の証明で終わる緩増加超関数と超関数を定義しているが超関数については認知度が低い位相線型位相空間論の「帰納極限」で定義されていて緩増加超関数は位相を込めずに単に急減少関数の空間上の線型汎関数としているがこの本では問題なかった参考のために通常の定義を書いておくブラケットエックス〈x〉=√(1|x|^2)と定義されている. |x|>>1なら〈x〉〜|x|そして〈・〉∈C^∞である.

急減少関数の空間 S{ φC^∞ | 番号m0, 多重指数α, |α| lim_(|x|→∞) |x^m (D^α)φ(x)|0

(
 sup_x |x^m (D^α)φ(x)|∞),

limφ_n
φ in S : m, α, |α| lim_(n→∞) sup_x |x^m (D^α)[(φ_n)(x)−φ(x)]|0 },

緩増加超関数の空間 S*{ f :S→ : linear, [ limφ_nφ in S]⇒[ f(φ_n) →f, φ:f(φ) ]}.

試験関数の空間 D(Ω){ φ((C^∞)_0)(Ω) | limφ_nφ in D(Ω) : コンパクトな∃KΩ, n, supp(φ_n)K, α, 一様に lim(D^α)(φ_n)(D^α)φ },

超関数の空間 D*(Ω){ f :D(Ω)→ | [ limφ_nφ in D(Ω) ]⇒[ linear f(φ_n)→f, φ:f(φ) ]}.

距離空間においては写像が連続であることは点列連続であることに同値であることを基にして, S*D*(Ω)を定義していると考えるといいと思う詳しくは有向集合において点列が収束するための条件を定めることは位相を入れることに同値であることによる. (宮島「関数解析」;具体的には「帰納極限」による(「新訂版 数理解析学概論」. ))

まずδD*の定義はむしろ〈δ, φ〉=〈δ(x), φ(x):φ(0) .

D
S, S*D*.

f, 
f, φ〉について, φの変数がξであるときfξを変数とする関数に作用させるときはこれらをf(ξ),f(ξ), φ(ξ)〉と表わすそう書くと第3章と第15章は分かりやすくなると思うし精確である.

 α による微分 (D^α)f : φ,  (D^α)f, φ :(−1)^|α| f, (D^α)φ 〉である.

関数の超関数の意味での微分の定義において本文では(L^1)_loc関数の微分L^1としているが実は∈(L^1)_locである後に使われている多重指数を用いた標準的なものを書いておく. u(L^1)_locの多重指数αによる超関数の意味での微分 u_α とは

u_α(L^1)_loc, φ(C^∞)_0,
∫ (u_α)(x)φ(x)dx
 (−1)^|α| ∫ u(x)(D^α)φ(x) dx .

感覚的には, u_αu|α|微分を表現していると観て左辺を|α|回部分積分すると, uα微分, uを直接α微分せずに表現できるという意味である. uC^|α|ならば部分積分により u_α(D^α)u a.e. となる.

f
C^∞級関数aとの積 af  af : φ, af, φ:=〈f, aφ〉で定められているたたみ込み a af : x, (af)(x):=〈 f, a(x−〉=〈 f(y), a(x−y) 〉で定義される. fが関数ならば以下に述べるように, fが超関数を定義することから関数のたたみ込みの定義と両立している超関数の微分の定義により aC^∞級である. (「ベゾフ空間論」「楕円型・放物型偏微分方程式. )

f
*フーリエ変換 F[f]:⇔∀φS,  F[f], φ :=〈 f, F[φ] .

全てのf(L^1)_loc(Ω)に対して写像F:D(Ω)φ→∫_Ω f(x)φ(x)dx とするとFD*(Ω), すなわちf(L^1)_loc(Ω)は超関数Fを定義する:F, φ:∫_Ω f(x)φ(x)dx (φD(Ω)). 変分法の基本補題により写像 f→F 単射, F→f 単射なので, f←→F を同一視してfD*(Ω)と観てF, φ〉を〈f, φ〉で表わして(L^1)_loc(Ω)D*(Ω) と観ている関数とそれが定める超関数の間の対応は線型性を保つのでこの対応は単射(埋め込み写像)である. (付記:(L^1)_locが関数空間としては最も広く単に「関数」といえばこの空間の元とする変分法の基本補題ではなくリースの表現定理を利用しても同一視できるベゾフ空間論」の研究で発見した. )

本書ではD(Ω)S, D*(Ω)S*と考えてφS, fS*としてよいと考えている.

f
の台supp(f):{ x | (xの開近傍)U_x, φ, supp(φ)U_x, f, φ≠0 }である. fが関数ならば関数の台の定義 supp(f)cl{ x | f(x)≠0 }(となる. (「ベゾフ空間論」「偏微分方程式論」と付録. )

ちなみに第3章について, (∂_t)GLGδ の解(作用素∂_tLの基本解)Gを得ると台がコンパクトな超関数 fE* または台がコンパクトなC^∞級関数 f(C^∞)_0 に対して(∂_t)uLuの解はuGfD* または uGfC^∞で与えられる.

3章ではフーリエ変換あるいは緩増加超関数またはそれらの併用で熱方程式トークス方程式シュレディンガー方程式波動方程式の基本解を導出しているこれらは後の章で用いる熱方程式(∂_t)u−△uの基本解G_t, t  it に変えると G_t  S_t になり, S_tシュレディンガー方程式i(∂_t)u△uの基本解になることには感動したまさに熱力学と量子力学虚数単位 i により結ばれている「ベクトル解析から流体へ」によれば G_t→δ(t→0) in S* であることも面白い.

ここでは積分論における積分微分の入れ替えの定理と積分の順序の変更の定理を多用している私が確認した限りでは埋めるべき行間も含めると微分フーリエ変換フーリエ変換微分8個の式で入れ替わりフーリエ変換の積の積分フーリエ逆変換が元の関数のたたみ込みの積分になっている箇所が2つある.

そして〈f, φ〉を〈f(ξ), φ(ξ)〉と精確に書くと分かりやすいと思う超関数の偏微分方程式への応用を述べた和書で絶版でないものはこの本と井川「偏微分方程式論入門」「ベクトル解析から流体へ」しか知らない絶版書なら「偏微分方程式論」や「楕円型・放物型偏微分方程式」がある.

トークス方程式の基本解の導出では関数空間のヘルムホルツ分解を既知としているようにも感じた明確に解説するべきだと思うトークス方程式やナビエ-トークス方程式の任意の解はdiv(u)0なベクトルuと或る実数値関数pを用いて u▽p と表わされる「ナヴィエトークス方程式の数理」「ベクトル解析から流体へ」および「Navier-Stokes方程式の解法」によれば

L^p
(L^p)_σG^p{ (C^∞)_0 の元でdiv0なもの全体のL^pノルムによる完備化 }G^p{ u(L^p))^n | 超関数の意味でdiv(u)0 }{ ▽p(L^p)^n | p(L^p)_loc} (直和分解;p2ならば直交分解) in ^n である.

シュレディンガー方程式の解の公式について応用解析では量子力学からの自然な要請で初期値と未知関数をL^2で考えるのと文脈からの推測では初期値 u_0(L^1)(L^2) であり, f(s)L^2を仮定すればu(t)L^2となるのであろう.

波動方程式の任意次元の解の公式でc0としているが実はc≠0が正しくc0にもなりうるこれは導出過程で時間変数∈Rであり2次元波動方程式の解の導出と後の章を観ることでも分かる外力や初期値が属する空間の決定には「高次元の解の公式と低次元の解の公式で整合性がなければならない」「連続関数の不定積分微分可能」「可微微分関数は連続関数」「外力と解が連続ならば初期値も必然的に連続」「初期値と解が連続ならば外力は必然的に連続」が背景にあるのだろうか?

3
次元の解の公式の導出で充分な説明なしに((2π)^(1/2))^2と超関数δが現れているが導出を理解するには余分なので((2π)^(1/2))^2は無視してよい本文の式変形は,
〈F[δ], φ =〈δ, F[φ]〉 1/((2π)^(3/2))∫(e^(ixξ))1φ(ξ)dξ|_(x0) =〈1, φ
 F[δ]=1/((2π)^(3/2))
 ^(1)[1]=((2π)^(3/2))δ
であることによる.

2
次元の公式の導出では, β1のときはβ1b(b0)として α_+の代わりに −α_+を考えて(a^2)−(b^2)(a−b)(ab)を用いて評価するとα_−β−1, 1−α_+0を簡単に得て−1α_+0も簡単に得られた. β−1のときはβ−1−b(b0)として同様に0α_1α_+を簡単に得られた.

任意次元に対する公式は「物理数学入門」の他に「ベクトル解析から流体へ」にもある後者の付録にはクライン-ゴルドン方程式の特別な初期値問題の波動方程式の特別な初期値問題への帰着と任意次元に対する解の公式など興味深い解説もある.

4章には, L^p空間より広い弱L^p空間実補間空間の根底にある実補間定理ハーディー-リトルウッドの極大関, L^p空間における分数階積分の評価式であるハーディー-リトルウッド-ソボレフの不等式, L^pにおける導関数の評価式であるソボレフの不等式やGagliardo-Nirenbergの不等式があるL^p空間については準ノルムの他にノルムも与えていてバナッハ空間としているのはいいと思う. S*によるソボレフ空間の定義があるが, L^p関数は緩増加超関数を定める)(L^p*(1p∞))(ことを思い出すと定義が理解できると思う.

大関数については「実解析入門」「古典調和解析」「ベゾフ空間論」も参考にするといい「古典調和解析」には実補間定理の他にこの先にもある特異積分作用素BMO空間そしてカルデロン-ジグムンド分解の解説がある.

5章では三線定理と複素補間定理を証明している. || fg ||_r || f ||_p || g ||_q を複素補間定理を用いて証明するその中で || fg ||_p || f ||_p || g ||_1 を用いているこれは自明ではないが「実解析入門」と「ソボレフ空間の基礎と応用」などにこの不等式の証明があるハウスドルフ-ヤングの不等式は実はヤングの不等式で前者は「新版 ルベーグ積分関数解析」にもあるこの章では複素補間定理における指数の代入が間違っている箇所が2か所あるので注意がいるシュレディンガー方程式L^p-L^q評価は「ベクトル解析から流体へ」も参考になる.

6章では, Fourier multiplierカルデロン-ジグムンド分解特異積分作用素を説明している. Carlson-Beurlingの不等式の証明は先ほど急にδが出てきたのと同じくらい論理が飛躍しすぎだと思うそしてヘルマンダー条件の証明で7章で述べるリトルウッド-ペーリー分解を用いているのは違和感を持った確かに7章の始めに定義が書いてありそれを参考にすればいいのだができるなら先の章の内容を使わずに証明して欲しかった前者の不等式でもこの分解を用いようとしているこれらは数学書としてどうなのかと思う「後に第7章で述べる」くらいは書くべきだと思った.

7章ではベゾフ空間リーベル-ゾルキン空間実補間空間について解説されている. φが球対称という仮定は外せるかもしれないφ, φΣ_(j) (φ_jφ). すると(斉次)ベゾフ空間や(斉次)リーベル-ゾルキン空間の定義の中の φ_j 直観で考えると fΣ(φ_j)とみて, fを簡単な関数に分解する役割を担うと分かるそしてsuppψ|ξ|2}. この4つの空間の定義はφψの取り方によらずwell-definedである. (以上4つは「これからの非線型偏微分方程式」「ナビエ-トークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「ベゾフ空間論」による. )

ところで多項式関数p(L^1)_locだからPD*を定めている変数φSとすればルベーグの収束定理によりpPS*を定めるそこでpS*とみている. (より精確には(L^1)_locの元は必ずしもS*の元ではない:多項式関数pは緩増加関数で, pφSL^1 ルベーグの収束定理を合わせてPS*が言える. )

斉次ベゾフ空間のノルムでは多項式関数の定める緩増加超関数の「ノルム」が0になってしまう. (「ナビエ-トークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」によれば|| f ||0からsupp(F[f]){0}となり f 多項式関数. )

そこで関数空間論では多項式関数の成す線型空間 P⊂S*とみて斉次ベゾフ空間と斉次トリーベル-ゾルキン空間を商空間 S*/ の元により定義している斉次ベゾフ空間の定義にある (/{多項式})* は正しくはS*/Pである斉次トリーベル-ゾルキン空間の定義でも, fS*は正しくはfS*/Pである(「ベゾフ空間論」).

ベゾフ空間とソボレフ空間の包含関係を述べているがリーベル-ゾルキン空間とべゾフ空間・ソボレフ空間・ハーディー空間・BMO空間との包含関係については「ナビエ-トークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」に書いてある他の関数空間との包含関係については「べゾフ空間論」も参考になる.

実補間空間について線型位相空間 X, Yに対してある線型位相空間Zがあって連続な埋め込み XZ, Yがあるとき, (X,Y)は両立組であるという両立組(X,Y)に対してある線型位相空間Zがあり連続な埋め込み XYZXがあるとき, ZXYの中間の空間であるという. XYZXYspan(XY)という意味で, XYを平面ベクトルとみて図を描くとこの定義は感覚的にも納得がいく.

実補間空間を「fS*に対して」定義しているが正しくは「fXYに対して」である. X, Yを含む最小の空間 Xのノルムは || f ||inf{ || u ||_X || v ||_Y | fuv, uX, vY }であり, X, Yに含まれる最大の空間 Xのノルムに || f |||| f ||_X || f ||_Y ; max{ || f ||_X, || f ||_Y }があるこれらは同値である.

(X_0, X_1)
の実補間空間の定義を直観的に言うと t0のときX_0のノルムに一致し, 0θ1, 0p∞, 0tを用意して, (X_0)(X_1)(X_0)(X_1)の「中間のノルム」を時間変数tと中間を意味させる指数θを用いて定義しそのt方向のL^pノルムが有限な空間として(X_0)(X_1)の実補間空間(X_0 , X_1)_(θ, p) が定義されている.

「中間のノルム」は, 0t<<1/2のときは X_0のノルムに近くなり, 0t1なら(X_0)(X_1)と「同値でより小さい」ノルムになり, t1のときに(X_0)(X_1)のノルムに一致し, t1ならば(X_0)(X_1)でのノルムと「同値でより大きな」ノルムを用意して,

それに0t1ならば, t^−θ1をかけて, t1ならば1をかけて, t1ならば 0t^−θ1をかけてそのL^pノルムを算出する前に有用な関数不等式に含まれることもあり非常に緩やかに増加する関数 log(t) の変化率 1/t をかけて値とその変化率をうまく調節してから算出したL^pノルムが有限な関数の空間として定義しているのだろう定義式でt1しかもpなら1点での積分はその点における被積分関数の値と考えられるから(X_0)(X_1)のノルムの定義式に等しくなる.

8章では関数の再配列それを用いた(L^p)(Ω)を拡張したローレンツ空間L^(p, σ)(Ω)を解説している. 1p∞  L^(p, p)(Ω)L^p(Ω)L^(p, σ)(Ω). ハウスドルフ測度による集合の計測は「実解析入門」「ルベーグ積分講義」「ルベーグ積分論」などが参考になる.

9章ではハーディー空間 ^p とそのアトム分解, BMO空間とVMO空間ハーディー-ソボレフ空間を説明している.

^pの定義はL^1関数として扱うφの選び方によらずにwell-definedである)(「これからの非線型偏微分方程式)(. L^1空間の近似単位元でもある軟化子 φ_λ については「実解析入門」「ソボレフ空間の基礎と応用」「偏微分方程式論」に解説があり参考になった. 1pならば ^pL^p であるだからかアトム分解については0p1の場合に限っている個人的には1pの場合のアトム分解にも興味がある. F(, s0, p1, σ2)=H^1となり^pL^pF(, s0, pp, σ2)であるからこれらを包括して「ベゾフ空間論」が詳しそうである.

(
^1)*BMO, (VMO)*=H^1を示しているがここではハーン-バナッハの定理とリースの表現定理を用いている関数解析の多くはない出番だと思う.

BMO
空間については定数関数のBMOセミノルムが0になり, BMOセミノルムが0となる関数は殆んど至る所で定数関数となるがここでも他の資料でも, (L^p)_locを定数関数の空間で割ることはしていないバナッハ空間にする必要がないからなのであろうか?

10章からはこれらの諸論を基に第12章と第13章を除いて独立に書いてある.

10章では分数冪ラプラシアンに対するハーディー空間によるL^p-L^q型評価を述べているここから線型作用素の生成する半群の理論が表面的に使われる.

2
次元消散型準地衡流方程式 (∂_t)ωκ((−△)^(θ/2))ω(u▽)ω0;u▽^((−△)^(−1/2))ω により分数冪ラプラシアンを導入しているこれが渦度ω(t)rot(u(t))を用いた2次元ナビエ-トークス方程式(∂_t)ω−△ω(u▽)ω0;u▽^((−△)^(−1))ω (κも指数の分母も1としてθ1としたもの)と類似の表現をしているのは非常に面白いここでは前者の方程式の適切性の概要を述べた後 (∂_t)u((−△)^(θ/2))uの初期値問題を扱う私としては流体力学の方程式として前者の方程式にも興味がある.

11章では古典停留位相法と波動方程式L^p-L^q評価の解説に充てられている関数空間の原子であるL^p空間がここまで役立つとは・・・意外でもありおどろきでもある.

12章ではシュレディンガー方程式波動方程式S-B評価を述べているシュレディンガー方程式波動方程式に許容指数対を定義している13章はその続編と言える私の考えでは初学の読者のためにも著者の前置きの通りにも, 13章の分量を超関数と半群に割くべきだと思う.

14章では熱方程式の最大正則性原理を解説している実補間, L^p-L^q型評価, S-B評価を巧みに用いているまさに実解析的である初めに抽象的な発展方程式の話があるので私としてはそういう話も多く書いて欲しかった.

15章では準備のための非線型熱方程式とナビエ-トークス方程式の適切性を解説している.

ここでもL^pヘルムホルツ分解を暗黙のうちに用いているこれは前もって解説をするべきだと思うこの分解により, uの存在が言えればもうひとつの未知関数の存在が言えるゆえに一般には作用素P:L^p→(L^p)_σ から定まるストーク作用素 A−P△ により (∂_t)uAuP((u▽)u)と変形して解析されている.

ナビエ-トークス方程式については「ナヴィエ-トークス方程式の数理」と「ナビエ-トークス方程式 クレイ懸賞問題のいま」「Navier-Stokes方程式の解法」も詳しいなお本書では弱解の定義式で誤植により右辺の符号が正しいものと逆になっていることには注意がいる弱解の定義式ではuu(s), φφ(s)と書くとよい1章と同様にAが生成する半群(の元)e^(−At)と書いているが線型代数に従ってe^(−tA)と書くべきだろう.

15章にあるナビエ-トークス方程式の弱解の定義式について内積|)と書くとこのように考えても同値である:

(u_0 | φ(0))
∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))(▽u(t) | ▽φ(t))(u(t)▽u(t) |φ(t))) dt

(
著者小薗岡本)(抽象発展方程式の弱解の定義式に沿ったやり方本文と似ているこの方程式の場合は好ましくない)

 

(u_0 |φ(0))∫_[0, T] (−(u(t) | (∂_t)φ(t))−(u(t) | △φ(t)))((u(t)▽)u(t) |φ(t)))) dt

((
柴田-久保)(非線形偏微分方程式189頁を参考にした)

(u(t) |φ(t))
(u_0 |φ(0))∫_[0, t] (−(u(τ) | (∂_τ)φ(τ))−(u(τ) | △φ(τ)))((u(τ)▽)u(τ) |φ(τ)})) dτ

((
柴田抽象発展方程式の弱解の存在定理に沿った定義私はこれが最も好ましいと思う理由は私の「これからの非線型偏微分方程式」のレビューにある)

この分野の多くの研究者の悪い習慣だが u▽u は本来は (u▽)u と書くべきである. u  ^m 値なら▽u を無理に定義してもそれが ^(m^2) になるか, m次正方行列になってしまうからであるこれもふまえて私は上述に整合性を保たせようとしている.

17章ではシュレディンガー方程式KdV方程式について, L^pを用いた適切性の話が書いてあるシュレディンガー方程式については12章で述べた許容指数対というものを使っている. S-B評価を多用しているこの本ではKdV方程式やその線型化のエアリー方程式の扱いが少ないのが残念である私の高校の恩師はKdV方程式について少し研究したようだが特に何か大きな話は聞けなかった.

18章では私が興味を持つ波動方程式の適切性を説明している.

19章では熱方程式と波動方程式が隠れている消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u(∂_t)u(|u|^α)u が主役であるまずこの方程式とそれに関係が深い (∂_t)v−△v(|v|^α)v の適切性の概要を述べて中盤で再び ((∂_t)^2)u−△u(∂_t)u(|u|^α)u の適切性を述べている. 3次元消散型波動方程式 ((∂_t)^2)u−△u(∂_t)u0の解は, t→∞とすると (∂_t)u−△u ((∂_t)^2)u−△uの解の和になると述べられているこれは実に面白い.

20章はあとがきである.

個人的には数学的にも面白い波動方程式と類似の性質を多く持つらしく見かけも似ているクライン-ゴルドン方程式 ((∂_t)^2)u−△umu((|u|^(p−1))u, シュレディンガー方程式波動方程式の連立系であるZakharov方程式 i(∂_t)u△uuv; ((∂_t)^2)v−△v△(|u|^2), シュレディンガー方程式とクライン-ゴルドン方程式の連立系であって中間子モデルを扱う湯川カップリングモデル i(∂_t)u△uuv; ((∂_t)^2)v−△vmv−|u|^2 に興味がある研究してみたかった.

[付録]

supp(f)
閉集合なのはその補集合が開集合であることを言えばよい.

x
supp(f)でないとすると, xの開近傍U(x)がとれてsupp(φ)U(x)となる任意の関数φに対して〈f, φ〉=0とできる. U(x)に含まれる任意の点yをとると, U(x)yの開近傍だから, U(x)をうまくとれば必ずysupp(f)とはならないようにできるゆえに U(x)supp(f)^c となり, supp(f)^cは開集合だからsupp(f)閉集合である.

f
が関数のときAclosure of { x | f(x)≠0 }とする.

y
Aでないとするとyの開近傍U(y)がとれて任意のzU(y)に対してf(z)0となるよってsupp(φ)U(y)である任意の関数φに対して

f, φ〉=∫ f(x)φ(x) dx 0

であるからysupp(f)ではないすなわちsupp(f)Aである.

次にyAとしてyの任意の開近傍U(y)をとる. U(y)Azf(z)≠0となるものが存在する. f(z)はいっぱんには複素数だが実部と虚部に分けて考えればよいので, fzの近傍で実数として一般性を失わないよってfの連続性よりzのある近傍V(z)xf(x)0f(x)0. ゆえにsupp(φ)V(z)である任意の関数φ0でないものに対して

f, φ〉=∫ f(x)φ(x)dx ≠0

だから, ysupp(f)であり, Asupp(f)が成り立つ.

これらを合わせてAsupp(f)である.



ご参考になれば幸いです。(2017323, 202228日最終推敲)

溝畑氏の「偏微分方程式論」についてはこちらを参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36613662

藤田-黒田-伊藤「関数解析」についてはこちらも参照されたい:https://pdem.hatenadiary.com/entry/36870412

超関数の定義の背景:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/05/10/202341

ナビエ-トークス問題について:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2020/10/10/115841

北田先生の「新訂版 数理解析学概論」についてはこちら: https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E4%BB%A3%E6%95%B0/dp/476870462X/ref=cm_cr_srp_mb_rvw_txt?ie=UTF8

「新訂版 数理解析学概論」のAmazonレビューに関して

今日を最後にAmazonレビューのコメント機能が廃止されるので一部を書き換えた上で転記:

 

超関数Eと台がコンパクトな超関数fの合成積 E*f∈D' は任意のφ∈Dに対して
〈E*f, φ〉=〈E(x),〈f(y), φ(x+y)〉〉
により定義されている.〈f(y), φ(x+y)〉がxの関数として∈Dだからである(※4). なお‪φ∈Dの変数をxとするときφ(x)に超関数f∈D'を作用させる( φ→f(φ) =〈f, φ〉を求める)ときはfをf(x)と書き〈f, φ〉を〈f(x), φ(x)〉と書く‬. 局所可積分関数とその関数が一意に定める超関数の同一視により, E∈L^p(1≦p≦∞)かつf∈C^∞の台がコンパクトなときxをx−yに置き換え, ヘルダーの不等式とフビニの定理とルベーグ測度の平行移動不変性を用いると, 任意のφ∈Dに対して
∫(E*f)(x)φ(x)dx=∫(∫E(x−y)f(y)dy)φ(x)dx
が得られ変分法の基本補題よりE*fは通常の合成積
(E*f)(x)=∫E(x−y)f(y)dyとなる.
E∈D' かつ f∈Dの場合はC^∞級関数として
(E*f)(x) =〈E(y), f(x−y)〉
により定義されている. やはりE∈L^pであれば
(E*f)(x)=∫E(y)f(x−y)dy=∫E(x−y)f(y)dyとなる. 

 

(※4)超関数fの台の定義を本文と異なる形で書くと, B(x, ε)を点x∈R^nのε近傍(中心x半径rの開球)として
supp(f)={ x | ∀ε>0, ∃φ:試験関数, suppφ⊂B(x, ε) ⇒〈f, φ〉≠0 }.
(supp(f))^c={ x | ∃ε>0, ∀φ:試験関数, suppφ⊂B(x, ε) ∧〈f, φ〉=0 }なので
(supp(f))^c=∪_(ε>0){ x |∀φ:試験関数, suppφ⊂B(x, ε) ∧〈f, φ〉=0 }
は「fが0となる点から成る最大の開集合」ゆえにfの台は「fが0でない点から成る最小の閉集合」である.

また〈f(y), φ(x+y)〉を (f(y), φ(x+y)) と書くことにすると

supp(f(y), φ(x+y)) ⊆ ∪_(x∈supp(φ))(x+supp(f))
でありsupp(f)とsupp(φ)はコンパクトだからsupp(f(y), φ(x+y))もコンパクトである.
さらに任意の多重指数αに対して
(D^α)(f(y), φ(x+y))=(D^α)(f, φ(x+・))=(-1)^|α|(f, (D^α)φ(x+・))
であるから(f(y), φ(x+y))はxの関数として台がコンパクトなC^∞級関数である.
そしてfはD(R^n)の位相で連続な線型汎関数であるから
φ_n→φ in D(R^n) ⇒ (f(y), (φ_n)(x+y))→(f(y), φ(x+y)) in D(R^n)
ゆえに(f(y), φ(x+y))=(f, φ(x+・))∈D(R^n)である.

「新訂版 数理解析学概論」についてはこちら:https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E4%BB%A3%E6%95%B0/dp/476870462X/ref=cm_cr_srp_mb_rvw_txt?ie=UTF8

リーマン予想などの数学の重要な未解決問題『ミレニアム懸賞問題』の入門記事

ここでは, 数学のミレニアム懸賞問題のうち3つを解説する.

 

  1. リーマン予想

これは解析接続されたリーマンゼータ関数についての予想である.

解析接続とは簡単に言うと, 複素変数の関数としての微分可能性を保ちながら定義域を拡大することである. 実変数の関数では例えば座標平面に限られた範囲で描かれた関数のグラフを滑らかに横に伸ばすことで微分可能なまま定義域を自由に拡大できる. しかし複素変数の関数では微分可能性は非常に厳しい条件であり, 自由に拡大することはできない.

 

ζ(s)Z(s)とは別物の関数で, ζ(s)は「自明な零点」として負の偶数を持つ. すなわちζ(s)は負の偶数で関数値が0になる. そして「自明でない零点」つまり負の偶数以外でζ(s)の値を0にする複素数sは全て

Re(s)1/2

を満たすであろう, というものがリーマン予想である.

 

現在ではこれが正しいことを示唆しているかのような結果がいくつも出ている. 例えば, リーマン予想を満たすようなζ(s)の自明でない零点sは無限個存在することが知られている(1変数なので可算でありリーマンの明示公式は意味を持つ). つまりリーマン予想sζ(s)の自明でない零点ならばRe(s)1/2」とは違うが「Re(s)1/2を満たすζ(s)の自明でない零点sは無限個存在する」のである.

 

たまにZ(s)ζ(s)を意図的に混同して

123−1/12

ということから解析接続を似非科学のように見たり意味のわからないことを言う人がいるが, 正しくは局所的なリーマンゼータ関数Z(s)と大域的なリーマンゼータ関数ζ(s)は別物なので,

123

ζ(−1)−1/12

である.

リーマン予想素粒子物理学と関係があるらしい.

 

2.ナビエ-トークス方程式の解の存在と滑らかさ

 

この方程式は流体力学の基礎となる非線型連立偏微分方程式である. u(t, x, y, z)(u_1(t, x, y, z), u_2(t, x, y, z), u_3(t, x, y, z))xyz空間の或る領域の点(x, y, z)と実数(時間)t0を変数とする空間ベクトルに値をとる関数(いわば流体の速度ベクトル), p(t, x, y, z)を定義域は同様の実数値関数(いわば流体に加わる圧力)とすると

∂u/∂t(u▽)u−△u▽p0

div(u)0

という連立方程式である. ただし数学ではスケール変換で物理定数の絶対値を全て1とするのでそれに従った. 外力を考慮することもある. これは非圧縮性粘性流体の運動方程式である.

∂u/∂t(u▽)u

が流体の流速を表す. u偏微分は各成分u_kごとに行うので, これは未知関数が314(uの3つの成分とp)の方程式である.「ナビエ-トークス方程式の解の存在と滑らかさ」は, 適当に初期値の属する関数空間と未知関数の属する関数空間を定めたとき, 任意の初期値に対して, 物理学的に意味のある解が存在するか, すなわち, ただ一つで, 何回でも微分可能で, 時間変数に制限がないが存在するかという問である. 実は大変都合が良いことに, uの存在が言えれば自動的にpの存在も言えることが知られている. これは超関数を使うとナビエ-トークス方程式を未知関数がuだけの方程式に書き換えられること(Mathlog参照), 或いは関数解析的方法により未知関数の属する関数空間をuの成す空間と▽pの成す空間の直和に分解でき射影作用素によりuだけの方程式に帰着できることによる.

 

難しい話が続いたが, 数学では解を持たない方程式や解が無数にある方程式はいくらでもある. 常微分方程式でも非線型方程式は初期値によって解の存否や一意性は異なってくる. 偏微分方程式については定数係数線型方程式でも解が存在しない例がある. そもそも非線型偏微分方程式では解を計算で求めることは殆んど不可能である. そこで解の存在が示せれば, その方程式を近似して解くことの論理的背景かつ近似した方程式の解の存在の保証となる. つまり非線型偏微分方程式を線型偏微分方程式で近似して計算などにより解を近似することが机上の空論ではなくなる. ここでは偏微分方程式ではなく簡単な非線型常微分方程式と中学数学程度の代数方程式で, 方程式の解の一意性が成り立たない例や解が存在しない例を説明しよう.

yx微分可能な実関数とする. 微分方程式

dy/dx2√y

の解yy(x)は変数分離法によりCを任意定数として

y(x)x^22CxC^2 (y0なのでx−C)

ここで初期条件y(0)0を満たす解は

y(x)x^2 (x0)

が得られるが, 他に変数分離法を使う前に排除した定数関数

y(x)0

があり, 初期値問題の解の一意性が成り立たない. また

x√y−C

であるから, 例えば初期条件y(0)−1を満たす解y(x)は存在しない. ゆえに初期条件によってはこの微分方程式は解も持たない. 以下, 微分を知らない人のために代数方程式で説明する. xyを未知数とする.

0x1

の解は存在しない. 仮に両辺を0で割ることができたとしてx1/0が数とする. 0にどんな数かけても0であるという定理があるので, x1/0を左辺に代入すると01となってしまい普通の数学に矛盾する.

0x0

の解xは無限に存在する. 連立方程式

2x3y4

4x6y8

の解も無数にある. この連立方程式については, 4x6y82x3y4と同じなので, tを実数として

(x, y)(t, (4−2t)/3)

の形の実数の組が全てこの連立方程式の解となるからである. これはxtとしてyについて解いて得られる. 図形的に言うとxy平面の2つの直線がたまたま一致し交点が無数にある状況である. また, 連立方程式

x5y6

x5y7

の解はxyについてどんなに数を拡張しても存在しない. 連立方程式は複数の方程式を「かつ」で結びつけたものだから, この連立方程式から「67」が得られるがこれはありえないからである. 図形的に言うとxy平面で2つの直線が平行であり交点が存在しない状況である.

 

話が逸れたが, 物理学では, 微分方程式の解は, 簡単に言うと「ただ一つ」で「微分可能」で「時間大域的」で「初期値の連続な変化に順応する」ようなものに物理学的意味がある. 短時間で値が発散する, すなわち「爆発」するナビエ-トークス方程式の解の存在も知られているが, 時間変数に制限の無い解の存在はまだ知られていない. ただ, 日本人数学者の藤田と加藤が, ほぼ解決に近い結果を出している.「藤田-加藤の強解」が時間大域的であることが証明されたら, このミレニアム懸賞問題も解決する. ナビエ-トークス方程式は人工血管や航空機や気象予測など流体が関わる多くの場面で使われている.

 

3.ヤン-ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題

 

これは主張に物理学が含まれるため完全な理解は私もできていない. しかしヤン-ミルズ方程式についてはやっと理解できたので, ヤン-ミルズ方程式についてだけ解説する.

まず微分形式というものを大雑把に説明する. 0微分形式とは関数である. 1変数x1微分形式はf(x)dxの形の式が一例である. 2変数(x, y)2微分形式はf(x, y)dxdyの形の式が一例である. 3変数(x, y, z)3微分形式はf(x, y, z)dxdydzの形の式が一例である. 積分されるものは関数ではなく微分形式と考えることがある. また置換積分の際にいわゆる「dxg'(t)dt」がよく現れるが, これも1微分形式である.

 

x微分可能な関数f(x)xa極値をとるときf'(a)0が成り立つ. af(x)の臨界点という. これは関数や微分形式を変数とする関数, つまり汎関数についても同様である. ヤン-ミルズ方程式は, ゲージ理論においてヤン-ミルズ汎関数の第一変分を0にする或る種の微分形式が満たす偏微分方程式である. 少しだけ詳しく言うと, 或るベクトル束(多様体の各点に多様体が乗った, 多様体の一種)Eに値をとる1微分形式の「共変外微分(微分作用素の一種)Dの随伴作用素D*(Eに値をとる2微分形式に対する微分作用素)とし, Eの接続(共変微分)から定まる接続形式から定まる曲率形式(Eに値をとる2微分形式に対する偏微分方程式

D*Ω0

である.

[]

逆に曲率形式から接続形式が, 接続形式から接続が定まる. ヤン-ミルズ方程式を満たす曲率形式から定まる接続が, ヤン-ミルズ汎関数の臨界点である. Eが具体的に何かは微分幾何の詳しい知識が必要なので, ここでは或る多様体だと認識して頂きたい.

 

「ヤン-ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題」については私も詳しくは知らず, ヤン-ミルズ方程式の存在からヤン-ミルズ理論の存在が言えるのか, よくわかっていない. 本来なら「ヤン-ミルズ理論の存在と質量ギャップ問題」かもしれない. またリーマン予想やナビエ-トークス方程式については数々の数学者たちの詳しい研究成果や本質的な具体例まで紹介したかったが, なるべく初等的な解説にしたかったので, このあたりにする. いつか日本人からミレニアム懸賞問題の解決者が現れることを願う.

 

(Twitterのプロフィールに載せているので, 便宜上すべてのタグを付けた. )

 

参考文献:

黒川『リーマン予想の150年』(日本評論社)

黒川-小山『リーマン予想のこれまでとこれから』(日本評論社)

岡本『ナヴィエ-ストークス方程式の数理』(東大出版会)

岡本-中村『関数解析』(岩波書店)

小川『非線型発展方程式の実解析的方法』(丸善出版)

小林『接続の微分幾何ゲージ理論』(裳華房)

2年前に書いた超関数超入門

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厳密な定義より直観的なわかりやすさを優先したので多少論理に無理がある箇所があるのは許していただきたいが, 超関数(distribution)を連続線型汎関数と定義する理由をデルタ関数を用いて説明した. 超関数はデルタ関数とそれに関する演算の厳密化が発端なので, デルタ関数から超関数を説明するのが自然だし, 実際説明もしやすい. 連続性を課す理由, 線型汎関数と定義する理由もわかりやすいと思う. 多様体の理論も極めれば偏微分方程式の解の存在問題になり, 多様体上の超関数(カレント)が用いられている.


超関数に関する過去の記事も参照されたい:

https://pdem.hatenadiary.com/entry/2019/12/18/015341(偏微分方程式の弱解の構成に関する考察)

偏微分方程式の一意解の存在について

2016年1月31日に偏微分方程式の一意的な解を構成する方法を予想した.

全てのヒルベルト空間Hの双対空間H*はリースの表現定理によりHと線型同型かつ距離同型ゆえにH*=Hと見なしている上に, Hとしてソボレフ空間を選べばH*は超関数の空間である(後述)から,

与えられた偏微分方程式(P)に対して適当な可積分性や可微分性を定めたヒルベルト空間Hで(P)の解u∈Hが存在しそうなものを用意して, 適当な超関数としての連続線型汎関数d∈H*を定義しておいて, リースの表現定理により∃!v∈H, ∀φ:test function,〈d, φ〉= (v, φ) 

と表現するときに,

vが(P)の解 u=v であることを言えたら, ∃!u∈H, (P)の解を構成できたことになる. H*=Hだからuをdと同一視できるのでuは超関数の意味での解でもある.

または, 共役指数 1<p<∞, q, 1/p+1/q=1 に対してL^p空間の連続線型汎関数の表現定理を用いて, 開集合Ω上の超関数∂∈D*(Ω)⊃(L^p)*(Ω)としての連続線型汎関数∂∈(L^p)*(Ω)を定義しておく.

L^q(Ω)=(L^p)*(Ω)は, ヒルベルト空間Hと整合性を保たせたいなら, Hは適当な実数sによる可微分性を課してp=2としたソボレフ空間H=W^(s, 2)(Ω)⊆L^2(Ω)=(L^2)*(Ω)⊂D*(Ω)となるから, より広い関数空間L^q(Ω)=(L^p)*(Ω)⊂D*(Ω)の中で(P)の解∂∈L^q(Ω)を構成できるかもしれない. (ただし, 計量による性質:空間の直交分解可能性, 実数値の内積で任意の2つの元の成す角を定義できること, 正規直交基底の存在, などは失われる. )

以上の全ての関数空間Xに対して, D(Ω)がXで稠密であり, 関数列{φ_n}⊂D(Ω)のD(Ω)に入っている位相による収束を仮定すると{φ_n}がXに入っている位相により収束するので, ∀f∈X*⊂D*(Ω), fの連続性をD*(Ω)の位相により定めれば, X*は超関数の空間になる. (P)の解u∈X*を構成できて, 例えばX*=Xだとかuが或る程度滑らかなら, u∈Xにもなりうる.

現実にはuに数理科学や幾何学などから要請される, 例えば, 有界性u∈L^∞(Ω)や可積分性と可微分性u∈W^(s, p)(Ω)およびΩの境界の形状によるuの性質そして非斉次性などがXに反映され, (P)の解u∈X*(≠X)の構成は殆んど多くが困難なのだろう.

数学でいう数とは何か (2022.7.25.加筆•訂正)

以前の記事『数とは何か』と『「数とは何か」における用語について』の内容を取捨選択しまとめて, 再論してみようと思う. 以下の記述は『新訂版 数理解析学概論』による. この本については文末に付すリンク先にあるAmazonのレビューも参照されたい.

以下, かなり長くなるが, 段階ごとに読むか時間が充分ある時に読んでみていただきたい.

代数学では, ほぼ全ての数学の分野が
・集合
・その集合に定まる数学的構造
・集合と集合の間の数学的構造を保つ写像(要素の間の構造を保つ規則的な対応)
によって記述されている. このことは現代数学を学ばれている方々には周知の事実であろう.

『数とは何か』を考察するためには, そもそも現代数学において数学的概念がどのように定義されているかを見直さなければならない.

代数学では, ほぼ全ての概念が, おおむね
・何らかの方法によって構成されたか存在を仮定した集合の要素
・何らかの定理によって存在が保証された何らかの集合の要素
・集合と集合の間の然るべき性質を持つ写像
によって定義されている. ここでは, ひとつめとふたつめの考え方に従うことにする.

誰もが無理数を学んだ時に『循環しない無限小数は本当にあるのだろうか』と思わなかっただろうか. 高校数学の範囲内で√2が無理数であることは証明できても√2が実数であることは高校数学の範囲では厳密に証明できない. ひとつの理由は『数』が未定義だからである. また, 複素数を学んだ時に虚数単位iの導入によっては複素数が受け入れ難い概念ではなかっただろうか. これもひとつの理由は『数』が未定義だからである. しかし『数』を厳密に定義することは, 以下にも述べるようにひとことで表せる物ではない. 高校数学の検定教科書と学習参考書には, せめて定義の不備と数の定義の難しさを明記するべきであり, 内容によってはコラムで紹介すべきであろう. しかし数学教育の話は今回はさておき, 数とは何か, 私が考えた数学的な答えを書いていこうと思う.

まず集合を厳密に定義しなければならない. しかしそれを完全に述べるより本質的な考え方のみを述べるほうがわかりやすいであろう.

集合は, 直観的に言うと『範囲が明確な物の集まり』である. しかしこの定義からは集合論においていくつもパラドックスが発生した.『普通の数学』をする上では困らないものだが, 今回はこのパラドックスに関わる公理と概念を必要とする. つまり, ここでは集合は『集合という概念が満たすべき性質を挙げたいくつかの前提を認めることにして』公理的に(いくつかの性質を満たす物として)集合を述べたい. 有名なものは, ZF公理系とそれに選択公理を付け加えたZFC公理系, およびZFC公理系に類の公理を最初に付け加えたものと同値なGB公理系である. 話を簡単にするためにZFC公理系について, その中からいくつか抜き出して, 本質にある考え方を述べてみよう.

・要素が同じ集合は等しい(外延性公理)
・要素を持たない集合が存在する(空集合の公理)
・任意のふたつの物に対してそれらだけから成る集合が存在する(非順序対の公理)
・任意の集合族(要素が集合である集合)に対してその全ての要素の和集合が存在する(和集合の公理)
・或る無限集合が存在する(無限公理の本質)
・任意の写像について, 定義域が集合ならば, その像は集合である(置換公理の言い換え)
・任意の集合は自分自身を構成に含まない(正則性公理の本質)
・任意の集合に対してその全ての部分集合から成る集まりは集合である(冪集合の公理)
・任意の集合族で, その全ての要素が空集合ではなく互いに素である物に対して, その集合族からひとつずつ要素を選び出して作った集合が存在する(選択公理

細かい説明はあえてしないが, これらを認めると, 例えばふたつの集合または集合族の全ての要素に対する和集合の存在や共通部分の存在あるいは直積集合の存在や点列の構成などの正当性が保証され, 現代数学において暗黙のうちに前提としている集合に関する操作が正当化されるのである.

次に数とは何か考えるために必要な数学的構造の説明をしよう. 以下でも厳密性は追及しない.

空でない集合S上の関係Rとは, Sの任意の要素 a, b に対して, 組(a, b)が満たすか満たさないを判定できる規則Rのことをいう. (a, b)がRを満たすときaRbと書く. 例えばSを平面図形(或る平面上の点の集合:線分・直線・三角形・四角形の周と内部の和集合・円板など)全体の集合Pとするとき, Pにおける関係として相等関係=や合同関係≡あるいは相似関係∽や包含関係⊂がありうる.

空でない集合Sに定義された関係Rが順序関係または単に順序であるとは, Sの任意の要素 a, b, c に対して
aRa は成り立たず,
aRb かつ bRc ならば aRc(推移律)
を満たすことである. 例えば上の例でPにおいて真部分集合の包含関係⊂は順序関係である. また後述の自然数全体の集合Nにおいて大小関係<は順序関係である. 順序が定義された集合を順序集合という.

順序集合Sにおける順序関係Rが, Sの任意の要素a, bに対して
aRb または bRa または a=b
ときRはSにおける全順序関係または単に全順序という(この場での定義であり一般の物とは異なる). 全順序が定まっている集合を全順序集合という. またSを全順序集合とするとき, Sの任意の空でない部分集合が最も小さい要素を持つならば, Sは整列集合であるという.

また, 順序の推移律とはことなるが, 集合Sが推移的であるとは, B∈S, A∈BならばA∈Sとなることである.

ここで空集合の公理と外延性公理により一意存在が保証されている空集合{}を用いて自然数を直観的に構成する方法がある. 後の都合上この定義を選ぶ. これは非順序対の公理と無限公理を表に出すように書けば以下のようになる:

0={}, 1={0}, 2={0, 1}, 3={0, 1, 2}, ….

0∈1∈2∈3∈…, つまり任意の自然数 n に対して m∈n, ℓ∈m ならば ℓ∈n. すなわちNは推移的である. またNの∈についての任意の空でない全順序部分集合は∈について最も小さい要素を持つ. 例えばNの部分集合{1, 2, 3, 5, 7}は∈について1が最小の要素である. これらはまさに順序数が持つ性質である. 

空でない集合αが∈を順序関係とする順序集合であり, αが推移的かつ∈についてαが整列集合であるとき, αを順序数という.

また先述の選択公理は次の整列可能定理と同値である:

任意の空でない集合は適当な順序により整列集合とすることができる.

任意の整列集合にはただひとつの順序数が対応しその整列集合と「順序同型」となる.

整列可能定理を演算(和, 積, 定数倍, など)の定まった集合に適用するとき, この順序はその演算と整合性のある物とは限らず, また具体的に論理式で記述できるとも限らない. しかし整数全体の集合Zにも, 有理数全体の集合Qにも, 実数全体の集合Rにも, これらが整列集合となるような順序が定められるのである(それは大小関係とは異なるが).

そしてQの切断全体の集合とするRの構成は, 順序数の基本的な性質と並行しているのである. 例えばQの切断αの定義に含まれる或るひとつの条件は整列集合Sの切片Bの定義に類似している. 上では<をSの順序, 下では有理数の大小関係とする時, 
[ x∈B ∧ y∈S, y<x] ⇒ y∈B
[ r∈α ∧ s∈Q, s<r] ⇒ s∈α (他に2条件がある)
有理数rから成る主切断r*と有理数の同一視は, αが順序数でx∈αならばx={y∈α | y<x}={y∈α | y∈x}であることを基にしているように見える.
r*={p∈Q | p<r}
Qの切断によるRの構成については『新訂版 数理解析学概論』のレビューにて言及しておいたのでそれを参照されたい. 複素数や数ベクトルが実数の組であることを考え, またこれらも物理量などを表す数と考えると, 結局, 数とは順序数と類似した概念またはその組と言えるのではなかろうか. 実数全体の集合Rは順序数のような物として構成できる. その要素つまり実数は順序数にはならないが順序数と良く似た性質を持つのである.

(2022年7月25日追記)
この考えに関して, 超現実数という概念が存在するようである. また, 順序数についての和と積は交換法則を満たさない. そこについても, 順序数と実数とは異なる. またいくつかは一般の順序集合で成り立つ性質のようである.

私の最近の研究でも, 物理量を表す数には必然的に実数が表れることがわかった. やはり順序数の概念が数とは何か答える上で重要なのは間違いないであろう:https://pdem.hatenadiary.com/entry/2022/01/21/090916 .
『新訂版 数理解析学概論』